ある関白亭主と恐妻家

出会った頃の夫は会社で上司と折り合いが悪かったようで、あまり居心地が良さそうではありませんでしたが、ここ数年は味方が増えたようで、楽しそうに会社の話をすることが多くなりました。

私の理解と励ましと内助の功、あげまんパワーで、人間関係がうまくいくようになったに違いない‥‥ということにしておこう。( ̄ー ̄)

‥‥なワケはなくて、無骨で飾らない夫の、本来の人柄の良さと仕事の腕が理解されるのに時間がかかって、やっと認められてきたんだなぁと思っています。

夫ががよく話すのは「奥様ネタ」。
同僚たちと「うちの奥さんはこんな人」という話をしているそうです。
X君は飲み歩くのが好きで、終電がなくなって外泊も多いけど奥さんに怒られないのは、もう放置の域なんじゃないの?とか、Z君の奥さんは勝気で、家で怒られてばかりいるとか、奥様自慢ではなく、トホホストーリー、自虐トークばかり。

で、夫の奥様である私はといえば、会社の人々から「可哀想な弥生さん」と思われているのだそうです。
夫は会社で自分がいかに亭主関白かを語っていて、そして社員のみなさんが会ったこともない弥生さんが同情を集め、評判がどんどん上がっていくんだと。

たとえば。
「家に帰って玄関を開けて、魚の匂いがしたら俺は機嫌が悪くなるんだよ」
「えぇぇ、一生懸命ご飯作ってくれてるのに、ひどい!弥生さんは一体なにが良くて一緒にいるんだろうねぇ!?」
こんな俺様自慢をして、周囲を引かせているというのですが。

でも実際は。
「お魚ですか‥‥」と悲しそうな顔をしながら、真ん中だけ食べて皮付近を残して、弥生さんに怒られているのだ。( ̄▽ ̄)
「身っこいっぱい残ってるよ!」
「もういいですぅ‥‥」
(「身っこ」というのはおそらく北海道方言と思われます。私はヒトの方言を吸収しやすいのです)

またある時には。
夫が買った「ネギ塩牛カルビUFO」が1個残っていたので「食べていいですか」とLINEしたんですよね。だって限定品だからね。
そのLINEを夫が音読して、上司に「どんだけ亭主関白なんだ?UFO食べるのも許可がいるのか?」と呆れられたと言います。嬉しそうに。

でも実際は。
あると思っている在庫を勝手に食べられたら嫌だろう、でも一声かけときゃ大丈夫だろう。そして返信なんかこないと思って、待たずにさっさと食べてしまったので、事後承諾です。
勝手に食ってます、笑。

「俺はね。会社で亭主関白だと思われてるんだ」
いや、思われてるっていうか、思わせてるよね、キミが。

尻に敷いてると思われるのも嫌だけど、関白亭主の下でおとなしくしている「可哀想な弥生さん」と思われているなんて嫌だなと思って、なぜ夫はそんなデマを吹聴するんだ?と考えました。
「亭主関白」「ひどい」「弥生さんが可哀想」と責められているという内容なのですが、笑いながら楽しそうに話しているということは、夫はその非難を楽しんでいるわけですよね。
話の表向きは「俺は会社で非難されている」なのですが、彼は自分がどんだけ許されてるかを会社で自慢しているんじゃないか?説が浮上しました。私の中で。

嫌いなおかずで機嫌が悪くなっても、許されてる。
カップ麺ひとつ食べるにもお伺いを立ててくれるほど、尊重されてる。

そしてその話を俺様ネタに変換してわざわざ私に聞かせるというのは、遠回しな感謝とか満足の現れなんじゃないかな、勝手にそういうことにしておこうと思ったのでした。

ん?じゃあ、じゃあ、同僚さんたちの奥様ネタも、表向きのストーリーと旦那様の感情って違ったりするのかも??

Z君は、飲み会の後に我が家に寄った時、コンビニで売っていたムーミン柄の断熱タンブラーを手土産にくれたことがありました。
いや、ちょっと立ち寄るだけでこんな立派な手土産なんて?
多分夫が普段奢っているんだな、と私はピンときました、笑。
Z君は奥様にも色違いのタンブラーをお土産にしたそうで、私はお礼報告の意味もあって後日夫にこう言いました。
「Z君がくれたタンブラー、すごくいいよ!お茶が全然ぬるくならないんだよ。奥さんも喜んでるだろうねぇ」
すると衝撃の返事が。
「奥さんにあげたら『私ムーミン嫌いなの!』って言われたらしいよ」
「えぇぇぇぇぇぇ!き、厳しい‥‥」

Z君がうちに来た時も奥さんに怒られている話をしていたので、どういう顔をして聞いていればいいのか困惑したのを思い出しました。
でもそういえば、Z君は終始笑いながら「怒られるんだよね〜」と言っていたんです。
しかも怒られるのは一度や二度ではなく、どうも日常茶飯事みたいなのです。
「また怒られちゃった」なのです。

「また」っていうぐらい怒られたり、お土産を否定されたり、ダメ出しされたりしていのに笑って話しているって、やっぱり、話の表向きと意味が違うんじゃないのかな?
Z君は奥さんに怒られている関係性を喜んでいるってこと?トホホなフリしてるだけ?
本気で怒られてるわけじゃないってわかってて楽しんでるのかな?

奥様がのびのびと天真爛漫で、Z君に対してホンネを隠さない態度を、信頼されている、愛されてるって感じているのかも知れない。
Z君は奥様の尻に敷かれているんじゃなくて、手の上で遊ばせているのかもしれない。
奥様のことが可愛くって仕方がないのかも。
そう気づくとZ君の話は、どんだけ怒られても許しちゃうぐらい愛してるストーリーであり、どんだけ怒られるようなことをしても許されてるストーリーだと思えてきました。
なんだよぅ、ごちそうさまじゃないの。
とはいえZ君の奥様、会社で「いつも怒ってる人」って言いふらされていたら嫌だろうなぁ。

俺はヒドイ夫ストーリーを語るうちの夫やら、妻は怒ってばかりストーリーを語るZ君やら、フリーダムなのかもしれないX家やら、それからおそらく全国のたくさんの野郎ども‥‥。
君たち、メンドークサイよ!!
反語的表現かよ。幸せ自慢してるって、やっと気づいたよ。もう。
ま、いっか。野郎どもが笑ってるならば。(*^_^*)

この記事を書いたカウンセラー

About Author

引きこもりからフリーターを経て社会復帰した経験を持つ。その間、心因性アトピー、薬害、うつ状態などを克服。 明確に言葉にできない気持ちを汲み取り、寄り添いながら、見通しよく整理していくことを得意とする。問題の奥にある魂の輝きと愛を見つめ続けることを信条とする。家族の宗教問題、自死を経験。