おとなの手習い

ここ一年ほど、ペン字教室に通っています。
これまで仕事一辺倒だったので、自分に興味があることを何かやらせてあげたいと思ったのがきっかけです。

私は、もともと癖字なのに、走り書きするものですから、後でメモを見たら、何を書いているのか分からないことがしょっちゅうあります。
長い間、美しくて、読みやすい文字に憧れがありました。

友達に話したら「私、子どものころに習ってたよ」という話も聞きました。
人によっては書道や硬筆は身近な習いごとかもしれませんね。
物は試しに、私も教室を探して行ってみました。

レッスンの内容はいたってシンプル。
先生が書いたお手本の字を見て、隣にマネて書く。

ただ、それだけのことがけっこう難しい。
例えば、「一」という漢字も、まっすぐな横棒ではなくて、少しだけ山なりにしなりを入れるのが美しく見えるコツだそうです。
でも、なかなか思うように手がついていきません。
先生からは「右下がりになってます」「線が短いです」など、指摘をもらいながら、正しい字の形を覚えていきます。

パソコンやスマホなら一瞬で書ける言葉を、何倍もの時間をかけて書く。
上手に書けたときには花丸をもらって、なんだか小学生のころに戻った気分です。
思い起こせば、子どものころは、鉛筆を握るところからはじまり、何度も繰り返すうちに、何も考えずに書けるようになっていったんですね。
習慣の力ってすごいですね。

美文字を目指して練習するようになったものの、長年、慣れ親しんだ自分流の書き方は手強い。。。
頭で分かっていても、手がついていかなかったり。
気を抜くと、すぐにいつもの癖字に戻ってしまったり。
ふだん、無意識にやっていることの影響は大きいものだと実感しました。

やっぱり、上手になるには、たくさん練習が必要なのかな?
そう思った私は、先生に「キレイな字を書けるようになるには、何をしたらいいですか?」って聞いてみました。

すると、先生は「うまく書けなかった字のことは忘れていいです。上手く書けた字だけ、たくさん見てください。」とおっしゃっていました。

頭の中でイメージが思い浮かべられていないと、その通りには書けない。
だから、自分の目指す字をよく見ることが大切なんだそうです。

例えば、アスリートは試合前に、シュートが決まる様子をイメージトレーニングすることで、本番でも力を発揮しやすくなるという話があります。
自分の理想のイメージをインプットして、思い描くことは理にかなっていますね。

一方で、私は、書くたびに、「ここは違う」「ここがおかしい」と反省ばかり。
上手に書けた部分はスルーしていました。

もっと上手に書けないの?
せっかく習っているんだから、きれいに書けるようにならなきゃ。

見本の字と、自分の字の違いにガッカリ。
できていない今の状態を自己攻撃して、どんどん完璧主義になっていったんです。

客観的に見れば、書けた部分や成長している部分も少なからずあります。
でも、自分では「できて当たり前。できていないことがおかしい」と感じてしまい、そこに価値を感じられなくなっていました。

そして、そういうときほど、先生からの「もっとこうしてみましょう」という指摘は、上手くできない自分への追い打ちのようにも感じられて、どんどん気分が萎えていきました。

最初は「きれいに書きたい」という願いがあって始めたはずなのに、いつのまにか「きれいに書けなきゃダメ」という縛りに変わっていったのです。

「うまくできなかった方は忘れていい。
上手くできた方を、たくさん見る。」
先生の話は、今の自分を受け入れることと、望む方へ意識を向けることを思い出させてくれました。

自分でできたところに丸をつける。
うまくできなくても、「これから、ゆっくりできるようになっていたらいいよ」と、自分に対して寛容な言葉をかける。

実際、そうしてみた方が変化の過程を楽しめるようになったのです。

大人になると、人から褒めてもらえる機会は減ってしまいます。
でも、自分のなかで、1つでも2つでも、今できていることに気づけるからこそ、「もっとやってみたい!」「もっとできるようになりたい!」と、次のやる気が出てきたのです。
おかげで、マイペースに趣味を楽しむことができています。

できたところは自分で認めてあげる。
できなかったところは寛容に。長い目で見て目標にする。
これが、おとなになってからの成長を楽しむ秘訣かもしれません。

この記事を書いたカウンセラー

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人間関係、自己嫌悪、家族関係、仕事などの相談を主に扱う。じっくりと話を聴きながら、そのままの自分でもっと楽に自由になれる道筋を一緒に見出していくサポートを行う。 お客さまの個性やペースを尊重し、いつでも味方でいることを大切にしており、「話していて安心できる」「心の深いところをわかってもらえた」と好評である。