親切という勇気

誰かに優しくしてもらって、とても嬉しかったという経験は、どなたにでもあるかと思います。
私も、例に漏れずですが、その中でも、真っ先に浮かぶ2つの優しくしてもらったエピソードを、ご紹介したいと思います。

1つめは、結婚して間もない頃、毎朝、通勤のため、駅まで自転車で行っていました。
仕事帰り、いつものように家へ向かおうと、駅前のロータリーで、自転車をこぎ出して直ぐのこと、雨が降るかもしれないと持っていた傘が、前輪に挟まったかと思うと、私は自転車ごと、前にひっくり返ってしまいました。
一瞬の出来事で、びっくりするやら、痛いやら、ロータリーで恥ずかしいやらで、訳がわからなくなっていた私のほうへ向かって、黒い制服を着た少年ふたりが、ものすごい勢いで走ってきました。

「大丈夫ですか」

と言いながら、自転車を起こしてくれたり、荷物をカゴに入れてくれたりすると、また風のように去って行ったのでした。
幸い、とんでもないコケ方をしたわりには、私も自転車も大きなダメージはなく、曲がった傘だけが、使い物にならなくなっただけでしたが、あまりにもあっというまの出来事で、私はちゃんとお礼を言ったのかどうかさえ、記憶が曖昧でした。
今、思うと、もう少し丁寧にお礼を言うとか、ジュースくらい買ってあげるとか、何かすればよかったと、悔やまれてなりません。ほんとに、その節はありがとうございました。この感謝の思いが届くことを願うばかりです。

そして、2つめは、私が妊娠中のことです。
ずいぶんお腹も大きくなってきた頃で、何をするにも、ゆっくりゆっくりよっこらしょ、そんな感じになっていました。仕事帰りにちょっと買い物をしようと、駅ビルの中のお店に入るガラスの扉、自動ではなくて、重い扉を押して開けるタイプでしたが、その扉を押し開けようとした時、ガラス越しに、学生服の少年が、猛ダッシュでこっちに走ってくるのが見えました。
ゆっくりゆっくりな私は、押したらよいのか、引いたらよいのか、逃げたらよいのか判断がつかず、身体も動かずあたふたしていると、少年は、ダッシュでドアまで来ると、重いドアをさっと開けて、私が通るのを待っていてくれたのでした。
てっきり、電車の時間に間に合わない少年が、私の横を走り抜けていくのだと思っていた私は、しばし少年と静止画のようになってしまったのでした。レディーファーストに慣れていない哀しさですね。
私が、のたのたゆっくりとお店に入るや否や、少年は、また、風のように去って行ったのでした。

驚くやら、嬉しいやらで、お礼をこれまた、ちゃんと言ったのかどうか定かではない頼りなさ。ほんとに、その節はありがとうございました。この感謝の思いが届くことを願うばかりです。(再び)

もしかすると、助けてくれた少年たちがみんな、ほんとにあっというまにいなくなってしまったのは、彼らも気恥ずかしいところもあったのかもしれませんね。明らかに良いことをしていることに、照れてしまったような感じでしょうか。
今思えば、なかなか粋な少年たちでした。きっと成人しているでしょうから、立派な社会人になってることでしょう。

どの少年たちも、何か思考が働いて、「助けてあげよう」としたというより、咄嗟に身体が動いたような感じだったように思います。自転車で、前向きにダイナミックにひっくり返ったのを目撃したら、考えている余裕が少年たちにもなかったかもしれませんが・・

それにしても、どちらの時も、周りには他にも人はいたわけで、それでも彼らが、真っ先に私に手を差し伸べてくれた、その勇気に心から感謝したいですし、何より、少年たち、かっこいいですよね。

誰かを助けてあげたり、親切にしてあげたりするのって、勇気がいるものです。
電車で席を譲る時だって、電車に「譲りましょう」って書いてあるのに、「譲りなさいよ!」っていう意味なのに、なぜかそれをしようとする時、勇気がいりますよね。

他にもたくさんの乗客がいる、「譲りましょう」と書いてある前にいる、そんな場所で、真っ先に席を譲る時、そこには「リーダーシップ」という要素が必要になってきます。
みんな、お年寄りが来たら譲らないといかんよなーとは、思っているのです。でも、自分じゃない人が、譲るかもしれない、自分じゃなくてもいいんじゃない?って思ったりします。
疲れていて座っていたいから、そう思う時もあるでしょう。でも、もしかすると、この「リーダーシップ」を取ることに抵抗があることも多いのかもしれません。

リーダーは、目立ってしまいます。正義のヒーローみたいになってしまうかもしれませんし、ものすごく感謝をされてしまうかもしれません。

だから、とても勇気がいるのですね。

でも、その勇気が、誰かの助けとなり、喜びとなるのだとしたら。
惜しまず、発揮したいものですね。

あの少年たちを見習って、そんな勇気を忘れずにいたいと思います。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

池尾 千里

「自分らしく自分の人生を生きることに、もっとこだわってもいい。好きなことをもっとたくさんして、もっと幸せになっていい。」 そんな想いから恋愛・夫婦関係などのパートナーシッップを始め、職場、ママ友などの人間関係、子育てに関する問題など、経験に基づいたカウンセリングを提供している。