言葉の真実

「あ~、あんたとお兄ちゃんは男と女、逆やったらよかったのに・・・」
私が昔、両親によく言われた言葉です。
両親は商売をしていたので、小学生の頃からよく仕事の手伝いをしていました。
店の手が足りなくなると、二歳上の兄・私・四歳下の妹の順番にかり出されます。
といっても、妹までかりだされることは滅多にありませんでしたが。
早朝4時とか5時に起こされるのですが、私は一度名前を呼ばれたらすぐに起きます。
兄は何回起こしても何回起こしてもなかなか起きてきません。
私は、さっさと店の手伝いを終わらせようとテキパキ動いていたようです。
今、自分で思い出してもテキパキ働く少女だったと記憶しています。
そして、そんなさっさと起きてテキパキ働く妹となかなか起きてこない兄を見て
「あんたとお兄ちゃんは男と女が逆やったらよかったのにな~」
と両親は幾度となく呟いたのだと思います。
そして、その呟きを幾度となく聞くうちに私の心は
「へっ?!私は男に産まれた方が良かったの?」
と軽いショックと疑問に始まり
「そうか・・・私は男に産まれたらよかったんだ」
と、あらぬ勘違いをし
「なぜ、男に産まれなかったんだろう」
と、自分を責め
「いくらがんばっても男の子にはなれないじゃないか!」
と、自分に腹を立て
「ふん!男はいいよな~」
と、そのうちに世の男性諸氏に軽く八つ当たり的な思いを抱き
「こうなったら男の様に強く生きてやるぅ~~~」
と、女である自分を否定する誓いを立てる。
もちろん無意識的に、ですが。
どうも長きに渡り、男らしく強く生きることにある種の美徳すら感じていたようです。
高校生の頃だったか、細かくは覚えていませんがジャーナリストの渋いおじさんが、ウィスキーロックのグラス片手に
「男の優しさなんてものはパンチラみたいなものでいいんだよ。そんなにしょっちゅう見せるものじゃないんだ」
的なセリフと共に男性が女性のわがままに振り回されている映像が流れるコマーシャルがありました。
これを見たとき、「おぉ~~かっちょいいー!」「そうだ!なんでもかんでも言うことをきいてあげることがその人の為になるわけじゃないのだ。本当の優しさとは!たとえ厳しかろうが、恨まれようがその人の為になる言動をとることではないか!私もそんな風に硬派に生きてゆこう!!」 と、やけに感動・共感し決意も新たに、もっと自分を鍛え上げねば、と、さらなる自主トレに励んでいたようです。
これもまた無意識的に、ですが。
そうなると “女の子らしさ” とか “可愛らしさ” という要素はどんどん排除してゆきます。
なので、『可愛いわがまま』 などもってのホカ、そんな女子を見ようものなら、「そんなに可愛い子ぶって人を利用するとは、なんたる悪女!」 と斜に構えてみたり、かと思えば本当に大人しくて気の弱そうな人を見れば 「私が守らねば!!」 と勝手に妙な使命感に燃えてみたり、そして時には男性との競争の罠にどっぷり浸かっていた時期もあります。
が、よく考えれば “男の優しさ” とジャーナリストの渋いおじさんは言っていたのです。
そしてどう頑張っても、私は男性にはなり得ないのです。
ある種の自分への厳しさや鍛える時期は必要ですが、あるがままの自分を否定して何者かになろうとするよりは、そのままの自分にどう磨きをかけるか?に勤しんだ方が楽で簡単です。
あまり言いたくはないのですが今となっては「それでいいのか?自分」と疑うほど自堕落な気もしますが、まいっか、と思えるようになりました(笑)
私が悪女に感じた女子はただ可愛くお願いしていただけかもしれないし、守らねば!と私が勝手に使命感を燃やさずともその人は自分でなんとでもする力を持っていたかもしれません。
きっと深く考えずに言っていたであろう両親の  
「あんたとお兄ちゃんは男と女が逆やったらよかったのに・・・」。
どうやら私たちは思いつきや単純にそう思って発せられたその言葉を、楽観的に解釈するよりも自分を否定し責めたりすることに使ってしまうことの方が多いようです。
両親は 「女の子がダメ」 とか 「男っぽく生きなさい」 と言いたかったわけではないし、私にとってもそれは真実ではありません。
しかし、何気なく発せられた言葉に縛られて無理をしたり、何者かになろうとしたりすることはよくあります。
「生き辛いな」「なんか、物事がうまく進まないな」と言う時は、誰かに言われた言葉が心のどこかに引っかかっているのかもしれません。
もしも、その言葉があなたを苦しめたり、無理をさせるものだとしたらそれは、あなたにとって真実ではありません。
そのような誤解はなるべく早く解いてゆきたいですね。
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この記事を書いたカウンセラー

About Author

恋愛や夫婦、浮気、離婚などのパートナーシップから対人関係、子育て、また、死や自己受容のテーマなど幅広いジャンルを得意とする。 女性的で包容力があり、安心して頼れる姉貴的な存在。クライアントからは「話しをすると元気になる」「いつも安心させてくれる」などの絶大なる支持を得ている。