人との距離感を見つめなおしてみよう~癒着の心理学2~

もしあなたの対人関係が思うようにいかないとすれば、何か心の距離感に問題があるのかも・・・。

今回は「親子関係」と「癒着」をテーマに人間関係を読み解きます!

人の心にはパーソナルスペースというものがあって、そのスペース内に人が入ってくると圧迫感や恐怖心を抱いたり、それが好きな人だったらドキドキ感やロマンスが高まったりします。

でも、その感覚は物理的なものだけではなく、心理的な距離感にも言えるのです。

皆さんが自分が思っているよりも対人関係がうまく行かなかったり、ある特定の人との距離感が分からなくなったり、恋愛がうまく行かなかったり、結婚後にギクシャクしたり、そういう人との問題が出てくるとき、この心理的な距離感に着目してみると納得できるところが多いと思います。

●親との距離感は?

物理的な距離感よりも、心理的な距離感の方が親との影響を受けやすいように思います。
どちらも同じように感じられますが、物理的な距離というのは
「満員電車で人がすぐ近くにいると圧迫感を感じる」
とか
「後ろから人が歩いてくる気配を感じるとつい意識してしまう」
とかいうもので、心理的な距離感とは
「すぐ隣に彼がいるのに、なぜか遠く感じる」
とか
「嫌いな上司とは同じ空間にいるだけでも嫌悪感がする」
とか、そういう感じの目に見えないものを指します。

私達は人との距離感の基本は親との関係性から学びますから、あなたが思うように人間関係が構築できないときには親との距離感を思い返してみると納得できる点が多いと思います。

特にお父さんが仕事人間だったりして家を省みない人間ならばお母さんは寂しさや不安、子どもを守らなければいけない母性から子どもを非常に近い距離に置こうとしたりします。
それが「癒着」という関係で、大人になってからも大きな影響を残すようになります。

●癒着とは?

もしあなたが親とすごく近い距離にあって癒着関係にあると、それが自分にとっての心理的な距離の基準(モノサシ)になります。
癒着というのは相手と自分との境界が分からなくなることで「お母さんが過干渉で、いつもお母さんの顔色を伺ってる」「好きな人ができるとお父さんが気に入るかどうかを考えてしまう」などのパターンに現れます。
だから、普段とても寂しがり屋だし、一人で暮らしていく自信はないし、また、結婚して家を出ることも現実的に考えられなかったりします。

そして、その近すぎる距離があなたの“普通の距離感”になってしまいます。
これは親との関係で生まれてきたものなので、あなたが違和感なく日本語を使うように、当たり前の距離感になるんですね。
そうすると、つい人に対して近付きすぎることが多くなります。
最初はいいけれど「重たい」「うざい」と言われて距離を置かれるようになってしまうんですね。
でも、自分としては普通にしてるので、それがナゼなのかが分からなくなります。

感覚的にはこんな感じです。

***
あなたのお母さんは一日10回も「何してたの?」「どこにいるの?」とあなたに干渉してくるタイプだったとします。
あなたはそれがとてもうっとおしくて、もういい加減にしてよ!とずっと腹を立てています。
そして、自分は他人に絶対そんなことはしないようにしようと思うんですね。

そんなあなたに好きな人ができてお付き合いが始まりました。
お母さんとの経験から、できるだけあなたは彼を放っておこうと思います。
だから、あなたは一日に3回しか「何してるの?」とは彼に聞きません。

でも、彼はある日突然「お前はうっとおしいんだよ、もう連絡してくんな」と拒絶されるようになります。
でも、あなたはどうしてなのか分からないわけです・・・。
お母さんと同じことをしてしまったんだ、と気付いても。
***

そんな風に当たり前に私達の人間関係に忍び寄ってくるのが親との関係性なわけです。
自分では親を反面教師にしているつもりでも、実際は同じようなことをしてしまっている場合が少なくないんですね。

●反面教師~“ああはなりたくない”になってしまう心理~

癒着している状態はこれ以上近づけない状態ですから、必然的に意識は離れる方向に向かいます。
(癒着関係には「離れたいんだけど、離れられない」という葛藤が必ず生まれます。「一人暮らししたいんだけど勇気がない」というように。)
だから、癒着している親を反面教師にしようとすることが多いんですね。

ある男性から「自分の父親が浮気性だったので自分は絶対浮気はしない!と固く誓っていたのに、結婚してしばらくすると家が居心地悪くなってクラブ活動をするようになってしまった」というご相談を頂いたこともあります。

どうも彼はお父さんと心理的に非常に近い距離にあったようです。
(彼はそれを聞いてもなかなか認められませんでしたが・・・)
だから、離れる方向に(お父さんを否定して、自分は絶対浮気をしないように)意識を向けたわけです。
でも、実際には“目は違う方向を向いていても体はくっついている状態”ですから、結局同じようなことをしてしまったみたいです。

だから、その時僕は敢えて「お父さんの気持ち、今ならよく分かるでしょう?」と話を進めていきました。

「母が苦しんでいるのを見てたはずなのに、今は嫁を苦しませてしまってる」
その罪悪感が彼の最初に気付きで、カウンセリングを受けるきっかけになりました。

でも、そこでお父さんとの関係を見つめ直すことで、その“クラブ活動”という経験は、お父さんへのわだかまりを手放し、お父さんを許し、もう一度心理的な距離を縮めるチャンスとなるんです。
「お父さんも本当は家族を大事にしたかったんだ。でも、できなかったんだ」
と気付いたとき、彼はお父さんだけでなく、自分自身を許すことができたんです。

そして、その上で改めて「ほんとうは家族を大切にしたい」という選択をし直すことで、よりスムーズに家族との関係を再構築していくことができました。

反面教師にした相手と同じことをしてしまうと非常に自己嫌悪が強まります。
でも、その裏側には自分では認識できない目的(=お父さんを理解したい)があり、それに気付き、受け入れ、許すことが求められているのです。

●関係性を変えるために・・・

先ほどの癒着の例でも同じことが言えます。
“あなた”は心配や不安からきっと彼に3回も「何してるの?」って聞いてしまったんでしょう。
ということは、あなたのお母さんもそれくらい、あるいはそれ以上に不安になり、心配があったのかもしれません。
そうするとあなたが愛されている自信がないように、お母さんも愛されてる自信がなかったのではないでしょうか。

だから、あなたがこのパターンを手放すためには、あなたが彼から欲しかった安心感をお母さんに与えてあげることで叶えることができそうです。
その不安や怖れから解放してあげるために、あなたが娘としてお母さんを安心させ、愛してあげる事が大切なんですね。
そうして信頼関係が築けていけば、きっとお母さんは安心してあなたを手放してくれるはず。
そして、あなたも彼や友達に対して過剰に不安を抱かなくても済むようになるんです。

でも、このチャレンジには大きな心理的抵抗を感じるはずです。
「絶対嫌だ・・・」という感じに。
だから、まずはあなたがお母さんを愛しやすくする環境を作ることも大切です。

それは親からの経済的な自立であり、生活面での自立も一役買ってくれます。
仕事や一人暮らし、同棲など、物理的な距離を空けることで、心理的にも適切な距離をとりやすくなる場合も少なくありません。
少し頑張って何かに取り組んでみたり、セラピーなどで手放していくサポートを受けたりするなど、気長に取り組む必要はありますが、その結果あなたは親密感や絆、安心感など、ずっと欲しかった感情を受け取ることができるのではないでしょうか。

もし、あなたが誰かとの癒着関係に気付き、それを手放すことを望むのならば、ちょっと次のポイントを考えてみてください。
そこが出発点になることも少なくないと思います。

Q.その相手(例えば、お母さん)はどうしてそんなにも不安を抱えていたのでしょうか?何を怖れていたのでしょうか?

Q.その相手があなたに愛されている自信が全然もてないとしたらなぜでしょう?

Q.あなたが反面教師にしてまで、その相手の分かってあげたかった気持ち、理解してあげたかった感情とは何だったのでしょうか?

そして、あなたがその相手から欲しかったもの(安心感や繋がり、自由)などの気持ちを、逆にあなたからその相手に与えるイメージをしてみましょう。
強い抵抗を乗り越えて、相手と繋がりを感じられたとき、きっとあなたの心は解放され、新しい関係性を築いていけることと思います。

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