紙ヒコーキでも頑張れ!

わたしの子供時代は、市営の大きな団地に住んでいました。
そのような団地では、団地の周辺などでいつでも同じような年代の子供達が遊んでおり、とくに面識などなくても、楽しそうな事をしている人達を見かければ、わーっと入っていって、「俺も仲間に入れて!」と言えば、そのまま友達として一緒に遊ぶようなことも普通の出来事でした。
ある時、母が私に向かってこう言いました。
「外でみんなが紙ヒコーキ飛ばして遊んでいるよ!あんたも行ってみたら?」
わたしは、それは楽しそうだなと思って、一体誰が何人くらい集まって、何をしているかなども確かめないまま、紙ヒコーキを折って、表に飛び出していったのです。
5,6人の男の子が集まっていたので、母が言っていたのは、きっとこの子達だろうと思い、
「紙ヒコーキ作ってきた!仲間に入れて!」
と大きな声で言いました。
そうしたら、全員がこっちを向き、その中の一人がこう言いました。
「ん?なんだ紙ヒコーキか?」
私は何故そんな不思議そうに言われるのか疑問に思いました。
そして、一瞬の間の後、その男の子は元気一杯に言いました。
「よぉし、みんなぁ、紙ヒコーキなんかに負けるなぁ!」
わたしは、その言葉を聞いて、はっとしました。
そこで集まっていたみんなが飛ばしていたのは、新聞広告で折った紙ヒコーキでは無く、市販のゴム巻き式のヒコーキだったからです。
わたしはそれを見て、急に寂しくなりました。
「みんなゴム巻き式なのに、一人だけ紙ヒコーキだなんて。。。」
わたしは手に持った紙ヒコーキを一度も飛ばすこと無く、しょぼくれて家に帰り、そのまま自分のベッドに倒れこんで泣きました。
「なんでお母さんはみんなはゴム巻き式のヒコーキだって言ってくれなかったんだよぉ。一人だけ紙ヒコーキなんかじゃ恥ずかしいじゃん。。。」
この経験はとても辛い出来事でしたが、いつの間にか忘れて、長い間思い出すこともありませんでした。
でも、何故か不思議なことに、特に社会人になってから、解決できそうも無い大きな問題や、災難に会うと、あの紙ヒコーキの出来事を思い出すようになっていきました。
「こんな不利な状況で出来る訳ないじゃないか。。。うまく行く訳ないじゃないか。。。」
そうやって、自分に言い訳して逃げ出す時は、決まって思い出すようになっていきました。
「それにしても、なんで最近特に、あの小学生の頃の出来事を思い出すことが多くなってきたんだろう。。。」
そんな風に考えていると、ふとこんな風に思いました。
「そうか、小さかった頃に一人だけ紙ヒコーキで不利だと思った時、恥ずかしくて勝負する前から逃げ出してしまったように、同じように不利な状況だと感じたときは、いつも逃げ出してしまうようになっていたのかもしれないな。。。」
私は、それが自分の心のパターンだと感じ、そのパターンは変えたいなと思いました。
そうしたら、何故かこんな事が心に浮かびました。
それは、日産スカイラインのカタログか何かに記載されていた話なのですが、ある車のレースで、優勝候補のポルシェを、スカイラインが1周だけ抜いて1位になったという話なのですが、そのレース当時は、まだ日本の車の技術レベルは世界からかなり遅れをとっていたようで、圧倒的に不利な状況だったようです。
そのカタログには写真も載っていましたが、それを見て私は、こんな風に感じました。
「うわぁ、自動車(スカイライン)が、戦闘機(ポルシェ)と競争してる!」
インターネットで改めて調べてみると、それはどうも1964年の第2回日本グランプリの話のようで、量産車をベースとしたスカイラインは1,100kgの車重量に対し、レース専用に設計されたポルシェ904GTSは650kgと、重さだけ比べても明らかに不利だったようです。
誰もが絶対にかないっこないと思われるレースで、1周とはいえ1位に躍り出て、最終的な結果は2位という大健闘に、観客は大いに盛り上がったようです。
今では世界的なブランドとなっている日本の車メーカーの昔の話と言うのは、とにかく世界を相手に不利な状況で頑張ったという話が多くて私は好きです。
そして、私は思いました。
「不利な状況だと感じても、逃げ出さずにやるだけやってみたらいいんだ。それで駄目でもいいじゃないか。でも、もしもいい結果になれば、きっと賞賛されるんじゃないのかな。」
不利な状況だと感じても、逃げ出さずにやってみる。
自分の心も、そんな風にありたいなと思いました。
そして、一人だけ紙ヒコーキだからといって逃げ出した当時の自分に言ってやりたい。
「紙ヒコーキでも頑張れ!」
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この記事を書いたカウンセラー

2件のコメント

  1. なんか感動しました。
    心の奥の気持ちを見つめることって大事ですね。
    今、私は仕事で、不利な状況ですが、プライドとか、恥ずかしいとか、そういうのを超えて、逃げ出さずにやってみようとしています。
    仕事があるだけ、ありがたいことですもんね。

  2. 小倉健太郎 on

    えみさんへ
    ずいぶん前のコメントへの返信になってしまいますが、私の文章が何かしらいい影響を与えたのであれば、本当にうれしいです。
    書いてよかったなと思います。
    コメント、ありがとうございました!