人が持っている本来の力

先日、私が自宅近くで遭遇したある事件について、お話ししたいと思います。
(でも普段から身の回りに起こったこと全てを心理学的に解釈しているわけではありません。)

その日は、早朝から用事があって外出した際、近所の交差点で停車している車の中で動かなくなっている男性を見かけました。
通りがかりのおじさんが心配そうに窓越しに「大丈夫か?」と声をかけていました。
丁度、信号待ちをしていた私は、その一部始終を目撃することになりましたが、見ているうちに段々と私も心配になってきました。
思わずそのおじさんの隣から思い切り窓を叩きながら「大丈夫ですかぁぁぁ!?」。

いつしか私の方が大声をあげていました。

更に、その様子を見ていた私たち二人以外の周囲の人達も段々と不安になってきたのか、近寄ってきました。
(この状況は、心理学的には「情動伝染」と言って、他者の感情が自分に「伝播する」現象で、主に集団内で無意識的に自然に広がり、自己感情と他者感情の境界が曖昧になることもあります。例えば、パニック映画の場面で観客全体が緊張感に包まれたりする場合も同じです。)

さて、朝から耳元で大声で叫ばれ、騒がれ、窓をガンガン叩きまくられ、その男性はようやく目を覚ましました(きっといい迷惑だったでしょうね)。
しかし、まだ状況が飲み込めていないのか、その男性は何のことやらよくわかっていない様子でした。

でも、「交差点の入り口でずっと停車したままの車の中に一見意識のない人がいるのを見れば、ただ事ではないと思うのが普通ではないですかねぇ」という私の思いをよそに、本人は「大丈夫、心配ないから」 と言う仕草を見せます。
どうやら本当に寝ていただけみたいなのですが、私は瞬間的にその人がどこか具合が悪くて死ぬのではないかと感じることを止めることができず、「救急車呼びましょうか!?」と叫びます。
その一方で、隣のおじさんは「大丈夫?お酒飲み過ぎたの?」
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いやいや、それは普通にダメでしょ

と言うのはさておき、そのおじさんの姿を見ながら、内心、「人によってこんなにも思うことに違いがあるものか」としみじみ感じつつ、そのギャップに込み上げる笑いを必死に抑えながら、やっとのことで事態は収束を見たのでした。

この笑いを感じた瞬間というのは、緊張から解放される人間の自然な反応でもありますが「内心大笑い」というのは、自分が抱いた最悪のシナリオが実際には当てはまらなかったことで生じた安堵感と共に、自分と他者の間の思考の大きなギャップを楽しむ余裕を感じたからかもしれません。

そして、その場を後にして、遅れた時間を取り戻すかのように足早に歩きながら、自分は何を投影したのだろうかと考えていました。
今更ながらですが、投影とは、自分の考えや感情を自分の外や他者に映し出すことを指します。
私がその車の中の男性の状態を見て、「具合が悪くて命にかかわるのではないか」と感じる一方で、隣のおじさんは「お酒を飲み過ぎたのではないか」と感じたのは、それぞれの思考や過去の経験が目の前の出来事に対して異なる解釈を生むからなんですよね。
私の場合、実は今から約10年ほど前に似たような状況に遭遇し、その時は実際に初めて蘇生措置を実践でやる羽目になりました(救急救命講習を受けておいて本当に良かった、でもかなり怖かった)。
多分、その時の感情が蘇ったのでしょう。

「もし亡くなっていたらどうしようか」
「救急車を呼んだら関係なくてもついて行かなきゃいかんのかな?」
「亡くなっていたら事件性を疑われて警察に事情聴取された挙句、暫く拘束されてしまうのかな?」
「そうなれば、余裕で約束の時間に遅刻だなぁ」
と思いながら、
「緊急事態だからやむを得ない。でも普段とても優柔不断なのに、こんな風に簡単に優先順位を入れ替えられるってことは、本当の自分は決断する力を持っているんだろうか」
などと、わずか一瞬で色々なことを考えました。
確かに、人間は未知の状況に直面したとき、迅速に「最悪のシナリオ」を考えることで危機を回避しようとします。
だからこそ、大胆にこの場面での「救急車を呼びましょうか?」という発言と「遅刻しても仕方ないわ」につながったのかもしれません。

「自分では気がつけないが、普段は眠っているだけで、その人が持つ本来の力は、緊急事態において発揮されることもある。」

それは、これを読んで頂いているあなたも同じなのかもしれません。

最後までお読み頂きましてありがとうございました。

この記事を書いたカウンセラー

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恋愛や夫婦関係などの男女関係から、親子や対人関係、ビジネスまで幅広いジャンルを扱う。 問題の中からお客様の輝きを見つけ出すことをモットーに、「どんなことも許容される”安心感”」を与えるカウンセラーである。 粘り強く問題と向き合う姿勢から「非常に丁寧に話を聞いてもらえる」と評価が高い。