プライドの心理学(3) ~痛みが生んだ才能と抱えやすい矛盾~

才能も能力もある。しかし「受け取れない」いう矛盾。

ネガティブ・プライド(強がること)は、ときに自分の能力や才能を高める要因にもなりますが、あまりに強いネガティブ・プライドは、他力を信頼できずに「自分の本来の価値」を受け取れない理由になることもあるのです。

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今日は、ネガティヴプライドと「才能」、そしてそこで起きる矛盾の話です。

○痛みが生んだ「自立的態度」が能力を育むこともある

ネガティヴ・プライド(強がること)が生まれる動機の多くは、ネガティブな感情を感じる経験です。

例えば、人に期待してとても傷ついたことがあった、自分の真意を人に理解されずに深く失望したなど、「痛み」を伴う経験が元となって自立するわけです。どこか自分の周りに見えない壮大な柵や壁を設け、他人を近寄らせず、自力を信じるようになるものです。

そのような状況の中で、自分の努力により才能を開花させていく方も少なくないでしょう。若干「意地っ張り」になってしまうこともあるかもしれませんけども。

その結果、得られる能力や、それに伴って感じられる自信はまさに「自分を支えるもの」になっていきます。

ただ、このままの状態ですと、自分自身の能力が高まっていても、なぜか「自分の価値が受け取れない」という問題が起きる場合も少なくないのです。

 

○痛みが生んだ才能と抱えやすい矛盾

その問題の典型例がパートナーシップのトラブルです。仕事あれば「対人関係の問題」になりますね。いわゆる「人との関わりの中で問題」として表面化する事が多いのです。

ここで一つの事例をご紹介したいと思います。ある女性のケースです。
(以下の話はフィクションとしてご覧ください)

その方は40代後半のとても自立が強い女性で、何事も自分自身で努力されキャリアアップされてきた方です。

彼女は「今まで仕事で辛いと思ったことはなかった」とおっしゃいます。
しかし、今は「出社したくない」という気持ちが強まり苦しんでいる様子です。

よくよくその方のご事情を伺うと、以下のようなことが分かってきたのです。

彼は今まで一社員としてとても優秀な実績を収め、周囲からも高く評価される存在でした。優秀な彼女は管理職となり、数十人の部下を持つ立場になったわけです。

彼女は熱心に仕事をされる方だったのですが、次第になぜか部下がついてこない状態になったそうです。

以前に比べ、仕事に対する不満を口にする部下が増え、退職者が出たり、関係する部署からの不満の声も高まり、チームの雰囲気がとても悪くなっていったそうです。

彼女はこの状況をなんとか打破すべく努力されたのですが、なかなか現状は変わりません。
そのうちに彼女は上司からも対策するように促されたわけですが、現状は変わらず。

次第に追い詰められた彼女は、(ときには人前で)部下を叱責する機会が増えていったそうです。もちろんそれで現状が変わるわけではないのですが、つい感情的になってしまう機会が増えていったのです。自分でもダメだと分かっているが、感情が止められなくなっていったわけです。

そんな彼女を知り、同期の女性が何かと相談に乗ったこともあったそうです。しかし彼女は「私でなんとかするしかないのよ」とその心配を振り切っていたそうです。

しかし、状況は好転せず、次第に彼女は気持ちの面で追い詰められ、以前のような仕事への自信や意欲、誇りも感じ取れなくなってしまった、というケースです。

 

○彼女への周囲からの承認・評価を実感できていなかった

彼女がとても優秀であることは、周囲も認めているところでした。

しかし彼女はその実感が薄かったのです。

昔から彼女は「私の努力で成功している」としか思えず、実は周囲が彼女を承認していることが感じ取れなかったのです。

それほどまでに彼女の意識は自分に向いていて、ここにネガティヴ・プライドの影響があった、というわけです。彼女の周りには目に見えない「自分を守る壮大な柵や壁があった」イメージですね。

周囲の評価を感じ取れない彼女にとっての原動力は、自分の実力でした。

よって、彼女は自分の実績や管理職という立場に備わったパワーを使って部下をコントロールしようとしていたわけですね。

また、彼女のネガティブ・プライドの影響で、必要以上に周囲とのコミュニケーションを取ることは少なかったそうです。

むしろ、彼女は必要以上に人とコミュニケーションを取らないで済むために、努力し続けてきた側面がありました。

これでは部下や周囲も「彼女がどのような人か」を理解できませんし、彼女自身も自分の思いを部下と共有できずにいたのです。そこで部下は彼女から叱責されるわけですから、彼女の印象は悪くなるしかありません。

しかし、その彼女がダメなのかといいますとそうではありません。

彼女はとても貢献意識の強い真面目な方です。ただ、貢献意識が強い分だけ「無力で無能な私」になることを何より恐れていました。

そんな彼女は出社し、部内の問題と直面するたびに、無力感を感じるようになったわけです。

次第に彼女は

「私は必要とされていない(かも)」
「誰も私の味方はいない(ような気がする)」
「私は避けられている(のかも)」
「私は何も悪くないのに、どうして報われないのか」

といった不満・不安を内に抱えるようになり、更に出社したくなくなっていった、ということだったのです。

 

○自分を責めると「誠実・真面目な自分」を感じる?

このような気持ちは彼女の被害者意識であり、一つのネガティヴ・プライド(強がり)です。その被害者意識で隠れている「私は人の役に立てていない」という加害者意識や罪悪感も見逃せません。

彼女自身、とても貢献意識が強い方だからこそ、自分が職責を果たせない現実が苦しかったわけです。

しかし彼女が自分を罰しても、真面目で貢献意識が強い自分ではいられるかもしれませんが、実際に人に貢献し、職責を果たすことは難しかったのです。

これこそ、ネガティブ・プライド(強がり)とは、実際に行動していないことに対して使われる、という典型的な事例です。

彼女にとっての癒やしは「人のために関わること・与えること・周囲の評価を受け取ること」がどうして難しいと感じるようになったのか、彼女のネガティヴ・プライドが生まれたそのルーツを紐解いて癒やすことが求められていたのですね。

彼女にとって「周囲とのつながり」を持つことが、その問題を解決する鍵だったというわけです。

次回は、このネガティブ・プライドを癒やし手放す方法について解説します。

>>>『プライドの心理学(4) ~「誇り」をもつためにできること~』へ続く

この記事を書いたカウンセラー

About Author

浅野 寿和

年間400件以上の面談カウンセリングを行う実践派。「男女関係向上・男性心理分析」「自信・自己価値向上」に独特の強みをもち、ビジネス・ライフワーク発見なども対応。明快・明晰かつ、ユーモアと温かさを忘れない屈託のないカウンセリングは「一度利用するとクセになる」と評され、お客様の笑顔が絶えない。