人生の転機を活かす心理学(3) ~抑圧していた怖れの影響とその具体的事例~

隠れていた怖れが顔を出して制限となる

誰しも「転機」をむかえると怖れを向き合うことになります。
すると、意識とは別に潜在意識で「今まで抑圧していた怖れ」を感じることがあるのです。
転機が潜在意識下に抑圧した「不安」を刺激し、その結果、現実の中で悩み葛藤する状態が生まれることもあります。
今回はその具体的事例についてお話します。

◇抑圧していた怖れが問題を作る

誰しも「転機」をむかえると怖れを向き合うことになります。

すると、意識とは別に「今まで抑圧していた怖れ」を感じることがあるのです。

転機がその内面に抑圧した「怖れ」を刺激するのです。その結果、現実の中で悩み葛藤する状態が生まれることがあります。

これ、自分でも怖れが強まる理由がわからない事が多いので、深刻な悩みになりやすいものなんですね。

今日はその具体的事例についてお話します。

ある女性の話です。(あくまで一つの事例としてご覧ください。)

その女性は、学校卒業後すぐに就職。就職先では、彼女が希望していた部署に配属されたわけではなかったのですが、その後10年間、同じ業務に携わりつづけていました。

彼女には3年ほど付き合っている彼がいました。二人は良い関係を続けていて、将来は結婚をと考えていた。そしてある時、彼からのプロポーズを受けたのです。

彼女は結婚自体に躊躇はなく、とても嬉しかったといいます。

ただし、彼女は彼のプロポーズに「返事は少しだけ待ってほしい」とお答えになったそうです。

実は彼女、長い間悩んでいたのです。

実は彼が地方勤務中であり、当面その地方から離れることができない、という現実があったのです。

彼女が彼との結婚を決めるとなると、今の職を手放し、地方に引っ越すことになるのです。

「仕事を手放すことは収入を失うこと。今までの実績と経験を失うこと。」

彼女は仕事を手放すことへの「怖れ」を感じていたそうです。

しかし、彼は「今はついてきてほしい」という。

彼女は、彼の言葉を信じたい気持ちをもちつつも、その悩みはますます深まっていったのです。

そこで彼女は思い切って彼に自分の悩みを話します。

すると、それ以後彼は不機嫌になり、彼女に冷たい態度を見せるようになった。彼女のわがままには付き合いきれないといった態度を見せるようになったそうですよ。

二人の関係に不穏な影が忍び寄ってきたことをきっかけに、カウンセリングに興味を持ち始めた、そんなケースです。

彼女は「私が仕事を失う不安を受け入れて彼に合わせればいいのか」とお考えのようでした。

しかし彼女にはそれがどうしても決断できず苦しまれていたのです。

彼女は自分でも「そもそも望んだ仕事ではない」ことを自覚しています。仕事を手放そうと思えば手放せるはずだとご本人も思っていたそうです。

彼女は彼を愛していて、結婚を望んでいることは確かなのです。しかし彼女は決断できないまま一人悩むうちに苦しみが増し、大切な彼を傷つけたことでも悩み、「彼とは結婚できない・・・」とまで考えるようになったのです。

◇悩みを作る怖れ、その正体は?

このような場合、その深層心理に「悩みを作る事情・感情」が隠れていることが多いのです。

彼女の場合は「仕事を失う怖れ」ですね。

しかし、彼女自身もどうしてそこまで仕事を失うことを怖れているのかまではお考えになっていなかったようです。

実は彼女の内面は「仕事や実績を失う怖れ」を作る、「もう一層深いレベルの怖れ」が存在していたのですね。

彼女には「いじめを受けた過去」がありました。

彼女自身も思い出すことはなかった学生時代の出来事ですが、彼女は一時期とてもひどいいじめを受け、親友までも手のひらを返すように離れていったことがあったそう。その事実は彼女の心の傷となっていたのですね。

実は彼女が結婚を躊躇した理由はここにあったのです。

彼女には、過去のいじめの経験から「人を信じずに警戒して生きていた」時期があったそうです。

ただ、彼女が今の職場で出会った人々は、彼女を受け入れ、同じ仲間として仲良く接してくれたそうです。

彼女と職場の人たちの間に生まれた親密感が、彼女の心を大きく癒やしていたのですね。

彼女は「私を受け入れてもらえた」という喜びや親密感を感じる「職場」を手放して、彼との結婚を選び、新しい土地で過ごすことに強い怖れを感じていたのですね。

未だ彼女の中の「いじめを受けた経験」は、新しい環境、新しい人達との関わりを警戒する材料になっていたのです。

ただ、彼女は「新しい環境」に怖れを感じていたわけですが、実際は「仕事を失いたくない」という気持ちを感じていたということです。

なるほど、この視点で考えれば「彼が彼女に冷たく当たる」理由にも筋が通ります。

彼女は彼に「仕事を失うことへの不安」を相談しているのですが、その深層心理では「今の居心地の良い場所を手放せない」「彼との関係には不安がある」と話しているようなものだったのです。

これから二人で幸せな家庭を作ろうと感じている彼にとっては、全く逆の印象を受けるものですよね。

彼は「彼女は僕と同じ気持ちではないのか」と彼女の雰囲気から察し、彼女は僕を愛していないのではないかと感じはじめた、というわけです。

しかしそもそも彼女も何も悪くありませんね。彼女はただ過去の辛い記憶・不安を抑圧し、頑張って毎日を過ごしてきたのでしょうから。

ただ、結婚という大きな転機を迎えた彼女にとって、今までと同じ恐れとの向き合い方だけでは深層心理の怖れと向き合うことは難しかった、というわけです。

◇上手な怖れの対処法を考える

少し想像してみてください。

もし、あなたが彼女の同僚だったら、彼女のこと、どう見つめますか?
彼女がそこまで居心地の良さを感じてくれていたこと、嬉しくないですか?

そこで彼女には自分の心を癒やすプロセスを勧めていただくと同時に、職場のみなさん、特に信頼できる人に相談してもらったのです。

すると、職場の皆さんはやはり素晴らしい方々で「結婚してもいつでも連絡してきてよ!」と彼女の幸せを応援し、背中を押してくれたのです。

彼女は職場を離れても親密感を失わないことを確認でき、不安を手放せたというわけです。

次は彼女に不信感を抱いている彼のことですが、彼女にはすべて本音を語ってもらいました。ここでビビって躊躇するとあまり良いことはないので「全力でね」とお願いしたのです。

すると、彼も彼女の事情を理解し「彼自身が信頼されていなかったわけではない」と理解でき、彼女を受け入れ愛することを約束してくれたそうです。

彼女は自分が感じていた怖れを理解し、受け入れ、癒やすことを選択し、職場の皆さんや彼を理解し、自分を表現したのです。

そもそも怖れを抑圧することは誰しも行うことですから、何も不思議なことではありません。

ただ、その方法で今の問題が解決しないならば、今までとは別の怖れとの向き合い方を考えるチャンスなのかもしれませんね。

>>>『人生の転機を活かす心理学(4) ~怖れとうまく付き合う方法を考える~』へ続く

この記事を書いたカウンセラー

About Author

浅野 寿和

年間400件以上の面談カウンセリングを行う実践派。「男女関係向上・男性心理分析」「自信・自己価値向上」に独特の強みをもち、ビジネス・ライフワーク発見なども対応。明快・明晰かつ、ユーモアと温かさを忘れない屈託のないカウンセリングは「一度利用するとクセになる」と評され、お客様の笑顔が絶えない。