ことば ~~時には毒、時には良薬~~

 諸刃の刃、と言う言い方をしますが、言葉にはまさにそう言った側面が強い、と思います。
先日、友人からいただいたメールに、こんなことが書いてありました。
 「言葉は、人間の使う最も強い武器である」
 言葉を媒体として、お仕事(カウンセリング)をさせていただいている身にとってはまさに、その通り!と思うと同時に、さらに意識をした使い方をしなければ、と思うのでした。
 ちょっとした一言、その言葉自体よりもトーン、物腰、そしてタイミング。
 使い手と伝える相手との関係性によっては時に、致命傷となり得るシチュエーションも考えられます。
 しかし、言葉には、魔力のようなものもまた棲んでいて、言葉自体よりも深い意味を運んでくることも多々ある、と思います。
 行間を読む、と言う言い方をしますが、行間つまり、文字の書かれていないところに「書かれている本意」とでも言うか、媒体としての言葉を超えるメッセージ性がそこにある、ということだ思います。
 ところが、人間である私たちのコミュニケーションの多くは、言葉です。
口から発する言葉、文面で見る言葉、色々あると思いますが、非言語(nonverbal)コミュニケーションと言うものは、まさにそう言った言葉では表現し得ない伝達方法だと思います。
nonverbal、つまり言語によらないコミュニケーションは、言葉自体を使わないというよりも、言葉を補完するものとしてうまく使うなら、武器にもなり、また毒にも良薬にも、甘いデザートにもなる。そう思います。
あれこれとお話を聞かせていただいたり、私自身も学んでいく中で、また日常の一こまで、伝えにくいこと、例えばあまりよくないことを伝える時に、どのように伝えるかはとても大切だ、と改めて感じています。
事実をそのまま伝えることが正義、正直、と言う向きもありますが、そこだけ捉えると「曖昧」な表現の中に、思いやりと真実をこめる、と言うことは、難易度が高いかもしれませんが、その人の時間や生き方に、息吹を吹き込むような気がしています。
どこかで、言葉を発すること自体が目標になってしまっていることが多い気がするな。その先にいる人や想いを感じることよりも。言葉はまさに、生殺与奪の鍵だ、と思います。
もしかしたら、伝えなければいけない事柄に、感情を感じすぎていて、それを抑えなければいけないと思っている時には、とても無機質な言葉・表現になるのでしょうね・・・時にはロボットみたいに。
「言葉」という道具を使わないと、伝えられないことがある。そして「言葉」だけでは伝わらないものもあって・・・歯がゆさは増す。
時間限定のある患者さんを担当しているある知人は、自分の時間の長さを尋ねる患者さんに、こう答えたといいます。
「そうですね、冬が来る前にしたいことはたくさんしておいた方が良いな。」
こう言った言葉を伝えられた側の患者さんのご家族とも、何度かお話しをしたことがありますが、はっきりした数字を聞かされるとどうも、その数字を考えてしまうようです。
そう言った・・・時間に限りがあるときこそ、ひと時ひと時が大切なのですが。
亡くなったある友人は、医療職だったので、自分の今の状態、治療、今後の成り行き、おそらくは最期にどんなことが起きるか、を共通の友人にしたためていました。
ちょうど、私と同じこの季節に誕生日を迎えるので、お祝いを伝えるために電話をかけたのが彼女の声を聞いた最後になりますが、「できれば早く会いに来て」と言う、遠慮がちな言葉が今も耳に残っています。
時は随分流れ、色んな方々に出会い、お話を伺わせていただく中で、「大切な人の時間を限られてしまった」時の、哀しみを聞くことも増えました。
ある友人は、「誰と過ごすか、が私には大事なの」と言い、最後の最後まで家族と過ごし、「おうちに帰ろうね」と言い残し、家族の頭を撫でていたそうです。
胃がんで亡くなったおばは、「みんながおいしそうに食べているのが、幸せ」と言いました。
一緒に住んでいた大伯母は、私の母に「あんたには、親にもならん世話になった。」と感謝を伝えたと言います。
ある知人は、主治医に柔らかに時間を告げられていたそうですが、自分はもうダメなのか、と言いながら、諦めない姿を家族に見せ続けました。
そして、最後の力で座り、家族の名前を一息一息と共に呼ばれたそうです。
そんな風に名前を呼んでもらったご家族は、この世での姿をなくしてもいつまでもその存在を感じられるのではないでしょうか。
私の父は、これと言った暇を直接告げずに去って行きました。
残された文章には、特に私に対しては極少な言葉だけでした。
並べられた家族の名前の、一番最後に書かれていたような気がします。
時には敢えて「言わないこと」で気持ちを伝えることもあるけれど、たった一言、万感の想いをこめて、例えば名前を呼んだだけだとしても、想いは伝わるものだ。
今の私は、あらためてそんな風に思っています。
言葉をもって伝えることだけが、全てではありません。また伝えたいことを、今までに使わなかった言葉にしてみることも、素晴らしいことです。
言葉は時には武器、毒、そして薬だと思います。
まさに、使い方で人を守りもできるし、傷つけることも。
言葉にしても、nonverbalにしても、一番大切なのは、どんな想いをもって伝えるか。それに尽きるのかもしれません。

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1件のコメント

  1. 読んで泣けました。
    言葉に関しても、命に関しても
    様々な思いを感じるお話でした。