●役立たず

先輩ママたちはこぞって、妊娠中どれぐらい自分を大事にしなきゃいけないのかをよ〜く言って聞かせてくれます。
大事にしなきゃ、あんな怖いことや、こんな辛いことがたっくさ〜んあるんだと、
決してそうなっちゃいけないんだと、自分自身の経験を通じてアドバイスをしてくれます。
みな、まるで自分のことのように気遣ってくれ、たくさんの暖かい気持ちを送ってくれる。
初産の私にとっては心強い味方がたくさんいます。
にも関わらず、私は妊娠してこれで2度目の風邪をひいています。
気をつけているつもりではいるものの、間が抜けているのか、体力がないのか・・・
なんだか情けない気持ちでいっぱいになってしまう。
こんな私でもセラピーを学び始めた頃は、親が子供に及ぼす影響や、出生時のトラウマがどれぐらいその後の人生に影響するのかに多大な興味を持っていて、「自分が子供を生むときは・・・」とか、「こんなときには子供にこう言う」とか、ありとあらゆる”いい”と思えることにこだわりをもって挑もうと心に決めていたものでした。
「妥協は許すまい。」
そう。思うのは簡単です。
いとも簡単に私はそう思っていました。
でもカウンセラーとしての経験が重なれば重なるほど、そうは思えなくなってきたんです。
なんだか、どんどん墜落していくような、どんどんダメな人間になっていくような気さえします。
「私が母親?は!笑わせんじゃないわよ」ぐらいのことは言いたくなるぐらい、どこからどう見ても、どうしようもないヤツにしか感じられない。
二十歳で私を産んだ母は、いろんな顔を持っていましたが、一貫して見えていたのは”母親らしくない”ということでした。
だったら”母親らしい”とはどういうことを言うんだ?となれば人それぞれなんですが、私が母に感じていたのは「完璧主義」と「ボロボロの弱さ」でした。
そして、その逆を生きようとしてきたものです。
楽観的でおおらかで、強くたくましく・・・
「完璧主義」は、とうの昔に音を立てて崩れ去りました。
私は、歩く”どうにかなるさ”です。
でも問題はもうひとつの「ボロボロの弱さ」。
これには終りがないように感じてしまいます。
見つめても、つきつめても、向き合っても、この弱さは度を増していく。
自分の母を”母親らしくない”と感じたのは、
母親っていうのは、強くてたくましい、”そうあってほしい”という私の欲求でした。
それが、母も人間、発展途上で当たり前さと思える頃には、その欲求は自分自身に向かいます。
そして”強くなりたい”一心で、ここまでやってきました。
が、感じるのは弱さばかり。
まさに母親らしくない母親になっていくことにブレーキがきかなくて、
だからよけいに、自分では気付かないところで無理をしてしまっているのかもしれません。
でも、「絶対あんな風にはなりたくない」と思えば思うほどなってしまうことは、百も承知。
そこで”一番なりたくないって思った母親”を引っぱり出してみる事にしました。
精神科にかかるようになってから、母は頻繁に自殺未遂を起していました。
それが対処できる範囲でならまだなんとか「しゃーないなぁ」と言いながら、病院まで運び込んだものです。
でも、ある日、ここから遠く離れた東京で起してくれたんです。
カウンセリングのカの字も知らない頃ですから、電話口でどうすればいいのかわからず、窮地に立たされたことがありました。
忘れもしません。泣きながらなんとか思いとどまらせようと説得している自分が、なんだか”イケない”ことをしているような感覚に襲われたんです。
もしかしたら、このまま静かに死なせてやるほうが、母にとっては楽なのかも・・・と、自分の無力さに立ちはだかられて、暗闇に飲み込まれそうに、というかすでに飲み込まれていました。
わけもわからず、かかりつけの精神科医に連絡を取り、なんとかしてくれ!と頼みますが時間が時間で取り合ってくれません。仕方がないので指示を仰ぎ、今は義父となったひとの仕事先に帰ってくれと電話を入れ、また電話で繋ぎとめる、まるで無意味にも思えた時間でしたが、今思えば精一杯のことをただやっていました。
でも、どれぐらいの年月が流れようと、死にたくなるような気持ちになる人のそばにいることはできても、その死にたくなるような気持ちそのものの前では、ただただ役立たずな自分がいます。
これが私にとって、最大の恐れでした。
もしあの時失敗をしていて、母を亡くしていたとしたら、この恐れは怒りに変わっていたかもしれません。
カウンセラーなんかにはなっていなかったかもしれない。
よ〜く考えてみると、あの頃となんら変わっていないのかもしれないし、私は未だに役立たずのような気がしています。
ただ、ひとつだけ、こうして弱くなりつづける私にとって強みになったのは、
役立たずでもいいから、死にたくない、と思えるようになったことです。
もし暗闇の中に足を踏み入れても尚、その先に暗闇が続いていても、ゴキブリのようにしぶとくその中で生きてやる。
間違っているのかもしれませんが、こうして少しずつ、母親らしくなっていけたら、と思います。
源河はるみ

この記事を書いたカウンセラー

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