人生いちばんわがまま言った記憶

]私の父方のおばあちゃんは、10年余り前に天国へ行ってしまったんですけれど、私を育てた人と言っても、過言ではありません。
といっても、いつも居て当たり前の人になっていて、元気なうちは、なかなか感謝もできずにいたなぁと、思うおばあちゃんです。

私の両親は、長野県の人で、お互い名古屋に就職していて、お見合いをしました。
そして、私が生まれたタイミングで、長野で暮らしていたおばあちゃんを、父が呼び寄せ、一緒に住み始めたんだそうです。

母は、よくこう言っていました。

「出産まで仕事していて、出産してから3ヶ月、家に居たけど無理で、すぐ、仕事始めた。」

ずーっと仕事しているおかあさんだったから、働くことは好きだったみたいだけど、今思うと、お姑さんと一緒にいるのも、窮屈だったのかもしれませんね。

母は、フルタイムで働いていて、朝早く出かけてしまうので、いつもおばあちゃんと過ごしていたわけです。

そんなおばあちゃんとの、幼稚園くらいの頃の夏休み、おばあちゃんがカルピスを作ってくれたんです。
ところが、どうしてそんなに、私の機嫌が悪かったのか、覚えていないのですが、私は、突然こう怒り出したんです。

「自分で、作ろうと思ったのにっ!」

そして、おばあちゃんの作ってくれたカルピスを、キッチンに流してしまったんです。
白く流れていくカルピスを見ながら、「おばあちゃんがわるいっ!」って泣いて怒っていました。

カルピスがもったいないのも、私が泣いているのも、私がしようとしてたことを取ったのも、おばあちゃんのせいで、もう取り返しがつかないって、癇癪を起こしていたんです。
大袈裟で、えらい剣幕ですよね。

私の人生で、いっちばんわがままを言った記憶が、これです。

おばあちゃんに怒られた記憶はないので、たぶん、「しょうがないなー」って思っていたんじゃないでしょうか。

おばあちゃんは、やさしい人でした。
余程のことがなければ、怒ったりしませんでした。

それに比べると、母は、怒ったり、小言を言ったりするので、母の前では、怒られないように注意したものでした。
現金なものですよね。

このわがまま事件、なぜか、ほんとによく覚えているんです。
筋の通らない(自分の中では、通っているつもり)、どうにもならない、しかも、相手に対して、失礼すぎる態度。
そんな、わがままって、叶えてくれそうな人にしか、言えないものなんですよね。
言ったら、いきなり怒られる人には、絶対に言いませんよね。

あの時の私は、おばあちゃんは、絶対に怒らないって確信していて、こんなこと言っても、心のどこかで、「大丈夫、きっとゆるしてくれるよね」って、信じて、疑わなかったように思うんです。
これは、おばあちゃんと私との間に、その時できていた信頼関係が生んだものではないかなと思います。

もちろん、おばあちゃんにとっては、大変失礼な態度なわけですが、おばあちゃんが、私を大事に育ててくれた、愛情たっぷりに可愛がってくれたからこそ、私の中に、「おばあちゃんには、絶対ゆるされるにちがいない」という確固たる自信が生まれたんだと思います。

そうそう、反抗期の子どもの心理と、とてもよく似ています。

絶対的な信頼が感じられないと、家族に、悪い態度ってできないものなんです。
思春期の子どもたちが、母親に対して、言葉遣いが悪くなったり、配慮のない言葉を投げつけたり、わがままな要求をしたり、暴れたり・・そんな反抗期は、親からの愛情と、その時の親の余裕の上にあるということなんです。

「うるせーくそばばあ。」

と息子が、母親に向かって言ったとしましょう。
母親にしてみたら、「親に向かって、なんてこと言うのっ!」って、腹が立ったり、心配になったりするかと思うんですけれど、息子の心理は、先ほど申し上げた通り、「おかあさんは、僕のことを、絶対にゆるしてくれる。」「おかあさんは、僕のことをキライにならない。」という、確固たる信頼のもと、悪い態度になっていることが多いんです。

もし、状況が変わっていたら、反抗ってしにくくなります。
例えば、おかあさんの具合が悪い、家族の状態が悪い時、など、自分が悪い態度をとったら、おかあさんが、大変なことになってしまいそう、家族が崩壊してしまいそう、誰も受け止めてくれなさそう・・・そんな状況では、子どもが反抗することは、とても難しくなるんです。

うちの子どもが小さい頃、子育て支援センターの職員さんが、こう言ったんです。

「うるせーくそばばあ!って子どもが言って、
コラっ!って叱ろうとしたら、ピューッと逃げて行っちゃった。
そうしたら、私の子育て成功って思えばいいからね。」

その時は、子どもが小さくて、「うるせーくそばばあ」って言われるのが、イメージできなかったし、どうしてそれが、子育て成功なのか、その時はさっぱりわからなかったけど、今ならわかります。

「私に悪い態度ができるなんて、愛情たっぷりに、ちゃんと育てられた証拠。子育て成功!」

ってことなんだと。

子どもたちにとっては、愛情をかけてもらった、大事にしてもらった記憶は、ずっと心に残って、生きる力になります。
苦しい時、踏ん張る支えになったりもします。

親がその役割をすることが多いかもしれませんが、親以外の、祖父母や、親戚や、ご近所さんや、学校の先生たちが、それをしてくれる場合もあります。誰からの愛情も、子どもたちを育て、励まし、生きる力を生みます。

いつもそっと側にいたから、気がつかなかった存在もあるかもしれません。
私のおばあちゃんが、居てくれたみたいに。

今からでも、遅いことはありません。
「わがまま言った記憶=愛された記憶」として、しっかりと受けとってみてはいかがでしょうか。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

「自分らしく自分の人生を生きることに、もっとこだわってもいい。好きなことをもっとたくさんして、もっと幸せになっていい。」 そんな想いから恋愛・夫婦関係などのパートナーシッップを始め、職場、ママ友などの人間関係、子育てに関する問題など、経験に基づいたカウンセリングを提供している。