前方にお進みください

あなたには、「ここに行くと元気になれる」という場所はありますか?
行くと元気になれる特別な場所のことは、“パワースポット”ともいいますね。

以前の私は、パワースポット巡りが趣味でした。それも、ガイドブックに載っているような有名な場所を巡るのを好んでいました。今でも時々、神社・仏閣、大自然といった「大きな存在」を見て感じて、ああ、私は守られてるんだなぁと感じます。
「私は守られている」だなんて格好つけたことを言いましたがそんな風に思えるようになったのは結構最近のこと。かつての私は、自分の人生谷だらけと思っていました。だから、神様や仏様のような有名で人気のある大きな存在に、生きづらさを少しでも軽減できる特別な力を授けてもらおうと、すがるような気持ちで各地を巡っていたのでした。

そんな気持ちでパワースポット巡りをしていた頃、あるお寺でのことです。その日は多くの参拝者が来ていて賑わっていました。私は本堂の入口近くの隅のほうにひっそりと立っていました。

すると、係の人に声をかけられました。
「ここは混雑しますので、前のほうにお進みください」
私は声をかけられたことに驚き、慌てました。
迷惑にならないようにひっそり立っていたつもりが、参拝者の邪魔になってしまった!私って、なんてダメなんだろう。迷惑をかけてごめんなさい。
逃げるようにお寺を後にしました。声をかけられた恥ずかしさと驚きでいっぱいになり、ぽろぽろと涙が落ちました。
せっかくパワーをもらいにお寺に行ったけど、私は仏さまからも拒絶され、怒られる存在なのか。

ただ声をかけられただけでそんなにビクビクしなくても・・という気もしますが、当時の私は、どんなに優しい注意でも動揺していました。誰かに言われたことのひとつひとつが矢のようにグサッと刺さって、とても痛いと感じていました。

誰かの何気ない言動に傷ついてしまうとき。それは、その言動を、自分を責めるもの・傷つけるものとして受け止めているからです。
私は学生時代、人間関係でつまづいて、学校生活を楽しく過ごせませんでした。社会人になってからも仕事が辛く、そんな自分を悪くて恥ずかしくてひどい存在だと思っていました。
自分を責めることで全身傷だらけだったんです。だから、誰かのちょっとした一言でもすぐに「痛い!」って反応して、心を閉ざして、自分がこれ以上傷つかないように相手と距離を取るようになっていました。
お寺で係の人に声をかけられたなら、その指示に従えばいいのですが、私は言われた言葉を、自分を否定する言葉だと受け止めてしまいました。

さて、もう一回係の人の言葉を思い出してみましょうか。

ここは混雑しますので、前のほうにお進みください。

「通路を空けてください」でもなく、「邪魔です」でもない。
前のほうに進みなさいと言っている。
私は本堂の入り口付近に立っていました。前のほうに進んだら、御本尊に近づきます。
なんだ。拒絶されただなんて、とんでもなかった。
むしろ、こっちへおいでと手を広げて招いてくれたみたい。拒絶して距離を置いたのは私の方だったんだ。

私が後ろに下がると余計に参拝者の邪魔になってしまうので、係の人は「前へ」と言ったのでしょう。
でも今となっては、この言葉の意味をもうちょっと大きく読み取ってもいいのではないかなと思っています。
そこに立ち止まってなくていい。もっと関わっていい。遠慮せずにいらっしゃい。
そんな意味にも捉えられないでしょうか。

生きていたらいろんなことがありますから、心を閉ざしたくなるようなことが起こるかもしれません。もう二度と傷つきたくないから、誰ともかかわらない方がましだと思うこともあるかもしれません。
でも、自分は悪くてダメな存在だというのは、生きている過程で身につけてしまった「思い込み」であって、真実ではありません。
人間は思い込みをする生き物。どうせ思い込みをするならば、こんな風に思ってみてもいいのですよね。
自分が思う以上に、私はこの世界に歓迎されているかもしれない、と。

実は、自分をダメだといちばん思っているのは自分自身。もし私が当時の自分に手紙を書けるなら、この世界に自分から関わっていけば歓迎してくれる場所はあるよ、と伝えるだろうと思います。
このお寺の件から数年の時を経て、ようやく、神様とか仏様のような特別に「大きな存在」だけじゃなくても、日常のいたるところで見守ってくれている存在はいるんだなと、気が付くことになりました。

前のほうにお進みください。
今でもお寺に行くと、この言葉を思い出します。
4月です。新学期、新年度が始まったという方も多くいらっしゃるでしょう。暖かい陽気に誘われて、ちょうど何か新しいことを始めるにふさわしい時期でもあります。
前に行くか、後ろに行くか、同じところにいるか。もし、どこに進むか迷うなら、前に進んでいいのです。
可能性の扉はいつでも開かれています。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

自分自身の性格や生き方、仕事に関する相談を多く扱う。子供の頃から孤独感やうまくいかない人間関係に苦しむも、自己嫌悪を緩めることで生きるのが楽になった経験をもとに、自分を責めすぎない物事の捉え方を大切にしている。 まじめな中にも軽やかさのあるカウンセリングが持ち味。