ギリギリ夫とハラハラドキドキの冒険

私の人生は、平坦で平凡でした。
こわがりで、安定思考の私が、一人で生きていたら、きっと平凡なままの人生だったと思います。
夫と出会ってから、私の人生にはちょっとした刺激が加わって、自分の常識の枠を超えざるを得ない出来事がやってきます。
ここ最近、夫といることで、私の心はハラハラ、ドキドキの冒険をしているのかもしれない、そんな風に思うようになりました。

私たち夫婦は、心理学でいえば「相補性のカップル」みたいです。
相補性とは、自分と対照的な人に、自分にない魅力を持った人に惹かれる心理です。
私は夫の楽観的なところに、夫は私の慎重なところに、お互いに持っていない魅力に惹かれて、どうやら無意識的に補い合って、バランスをとっているみたいなんです。

夏休みのある土曜日のことです。
高校生になった息子の、はじめての三者面談がありました。
その面談には、私ではなく、高校受験からメインで対応してくれていた夫が参加することになりました。

ちょうどその日は、泊りがけで、認知症の母のお世話をする日でもありました。
私は、母のデイサービスからの帰宅に間に合うように、電車で実家に向かおうと思っていました。
でも夫が、時間的に、家族みんなが、車で移動すればスムーズだと言い、まずは高校近くのコインパーキングまで、面談後に、そのまま実家に向かうことにしました。

面談は13時から、家を出るのは、ゆとりを持って12時前と決めました。
夫は、それなりに早起きをして、面談用のシャツにアイロンをかけて、家を出る時間までには戻るつもりで床屋に出掛けて行きました。
ところが、夫はなかなか帰ってきませんでした。
私は、嫌な予感がして、早めの昼食を食べ終えた子どもたちに、「パパが帰ったらすぐに家を出ることになるから、仕度しておいて」と、声を掛けておきました。

そうこうしているうちに、12時をほんの少し過ぎたころ、玄関から、どたばたと大きな音が聞こえてきました。
慌てた様子の、急いだ様子の夫は、「すぐ出るぞー」と、叫んでいました。
マイペースな息子が、のっそり動くと、「早くしろよ、面談だぞ」と、急かしてもいました。

私は、一番に車に乗り込んで、「またか・・・」「ギリギリにしているのは誰なのよ」と、心の中で思いました。
そして、面談に間に合うか間に合わないかと、時間に追われはじめていることに、ハラハラ、ヒヤヒヤ、ドキドキさせられて、「あー嫌だ」とも、思いました。

だから、面談までの道のり、私は車の中で、「もう、なんでよ。時間決まっているのに」と、ちょっと強めに夫に言いました。
「はじめての面談なのに・・・印象悪くなっちゃうじゃない」と、お説教するように言いました。

すると夫は、「だから、髪切らないで、急いで帰ってきたんだよ」と、言いました。
「前のじいさんが、髪がないのに長い時間かけて切っているからさ・・・床屋のおばちゃんに、明日の夕方また来るって言って、帰ってきたんだよ。ギリギリになっちゃったのは、あのじいさんのせいだよー」と、言いました。

それから、「いやぁー間に合わないかなー」「ギリギリ間に合うかなー」「最悪、だめってわかったら先生に電話入れよう」と、もう私との会話ではなく、独り言のように言って、交通ルールを守りながら、でもちょっと荒い運転、少しでも早く到着するようにアクセルを踏んだり、ハンドルを切ったりし必死に運転していました。
私は、いつもより荒い運転にも、ヒヤヒヤが増しました。

夫の運転技術のせいなのか、無事、時間の少し前に到着することができました。
私が、「間に合ってよかったー」と言うと、夫はにやりと笑って、「ひゃー久しぶりにしびれたー」「よく間に合ったなー」「俺ってやっぱすげー」と、言いました。
その言葉を聞いた私は、息子と面談に向かっていく夫の後ろ姿を眺めて、「この人、絶対ギリギリを楽しんでいる」「でも、ピンチな状況を楽しめるのは才能だよな」と、ちょっと呆れて、ちょっと感心しました。

実は、私がハラハラ、ヒヤヒヤ、ドキドキしたのは、その日だけではすみませんでした。
翌日、夫は、半分以下になっているガソリンを入れずに、「足りる足りる、大丈夫、大丈夫」と言って、高速道路に乗ったんです。
しかも、道が覚えられない、物凄い方向音痴という弱点も持っている夫は、道に迷い、やや遠回りをしたんです。

もちろん、高速道路を降りてガソリンスタンドに直行しました。
本当にギリッギリだったけど、なんとかガソリン足りました。
夫は、また、にやりと笑っていました。
その笑顔を見て、「楽しみやがったな」と思った私も、笑うしかありませんでした。

自分にない要素を持つ相手といると、びっくりさせられることもありますが、2人の違いを楽しめたら、どれほど人生は豊かになるでしょう。
自分らしさを与え、相手らしさを受取れることこそ、相補性の関係の素晴らしさなんですよね。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

夫婦の危機を乗り越えた経験から 夫婦関係修復、男女関係の問題を得意とする。 また子育て、家族、自分自身の性格の相談も多い。 「声に癒される」「話していて元気になった」と声を頂いている 介護福祉士として、老いと死を受け入れていく人達、その家族の心のケアを行っている。夫、息子、娘と4人暮らし