頼んだ仕事をやらない部下との接し方

チームの業績が振るわなかったり、頼んだ仕事が進んでいなかったりしたとき、上司はついつい「あの件、どうなってるんだ!」とやってしまいがちです。
特に、部下の立場だったときに頑張ってきた人は、「なんでこんなこともできないんだ」と感じることも多いでしょう。

けれど、「どうなってるんだ」と問い詰めたり、叱責したりしたところで、いい結果には結びつきません。

頼んだ仕事が進んでいなかったり、成績が伸び悩んだりしている背景には、なんらかの理由があるはずです。
そこを探っていけると……問題が解決しやすくなります。

例えば、頼んだ仕事が全く進んでいないとします。
そのとき、上司のあなたはどう思うでしょうか?

「やる気がないんじゃないか」「上司に反発したいだけなんじゃないか」「さぼりたいだけなのではないか」などと、思うかもしれません。
けれど、ここでいったん考えてみてほしいのです。
頼まれた仕事をしない部下の気持ちをです。

仕事をしていない動機が、「反発して上司を怒らせたい」とか「単純にやりたくない」ということは、本当にあるのでしょうか?
上司から頼まれたのに「したくない!」と反発しているなら、かなりの大物です。
そうではなく、「したい気持ちはあるけど、できない」というケースが、ほとんどなのではないでしょうか。

この点に気づくことができると、「そうか。上司である自分に反発しているわけではないのか。じゃあ、仕事をしたい気持ちはあるのに、どうしてできないんだろう?」という目線で部下を見ることができるようになります。
すると、「頼んだ仕事、どうなってる?」と上司から声をかけることができます。

部下は、「しなきゃいけないのに、できていない。どうしょう」という罪悪感から、何かあっても相談できない状態にいます。
そのため、上司から「どう? うまく進まない点があるなら、いつでも聞いて」と声をかけ、相談しやすくするといいのです。

■できない理由をそのまま受け止め、安全基地になる

仕事をしたいけどできないとき、何らかの心理的な要因があることが多いものです。
例えば、完璧にやらなければという気持ちに押しつぶされている、こんなことも知らないダメなやつと思われたくなくて聞けない、取引先に電話したときにうまく話せなかったらどうしよう……など、心に小さなひっかかりがあって進められないでいることは少なくないのです。

上司にしてみると、「え? そんな理由?」と思うかもしれません。
すると、「こんなこともできないのか」という判断や批判の気持ちが出てくるものです。
このとき、「なんでそうなんだ!」という気持ちをいったん脇に置いてみてほしいんです。

そのうえで、「そうか。部下はそう感じているんだな」といったんそのまま受け止めます。
いい、悪いの判断を一切せずに、「そうか。そう感じてるんだな」とそのままを受け止めます。
大きく構えて「そうか、そうか」と受け止める理想的なお父さんのイメージです。
すると……思いがけず「完璧にやらなきゃと思っていたのは、大変だったね」という言葉が、自分の口から出てくるかもしれません。

部下は「期待に応えられずに失望される」「ダメなやつだと思われて失望される」ことを恐れています。
「そうなったらどうしよう……」と思うと、動けなくなるのです。
そんなとき、上司から「そんなこと思ってたのか。それは大変だったね」と言われたら、「あ、叱られないんだ」とわかってホッとします。
そればかりか、気持ちを受け止めてもらえたことで、「この状況をなんとかしよう」という思いがわいてきたりもするのです。

このとき、上司は部下にとっての安全基地になっています。
上司が「叱る人」「失望する人」から「安全基地」へと変わるのです。
すると、意識を外に向けることができるようになります。
「叱られたらどうしよう、失望されたらどうしよう」は、意識が自分の内側に向いている状態です。
「叱られないように」と防衛しているために、動けません。

一方で、「叱られない」となったら、「どうすれば、叱られずにすむのか」「失敗せずにすむのか」に意識を向ける必要がなくなります。
すると、意識を外に向けて動けるようになります。
また、「やってみてうまくいかなかったとしても、戻れる安全基地がある——」。
そう思えることで、アクションを起こすこともできるようになるのです。

部下が動けていない状態を、「さぼっている」と思うのか、「仕事をしたい気持ちがあるのに、できていない」と思うのか——どちらの目線を相手に注ぐかは上司自身が決められます。
そして、「こいつは使えない」と切り捨てることもできれば、「仕事をしたい気持ちを、どうやったらサポートしてあげられるのか」と考えることもできます。
どちらでも、選べます。

「なんでこんなこともできないんだ!」と思う瞬間もあるでしょう。
けれど、気づくたびに「どうやったらサポートしてあげられるのか」と思い直すことができます。

部下にどんな目線を送るのか。ちょっとした上司の心持ちが、部下の成長をうながすことは多いのです。

この記事を書いたカウンセラー