年末年始の思い出と母が実現させた夢

新しい年が始まり、1月ももう後半になりましたね。そろそろ年末年始のいつもと違う感じも終わったなという頃かとは思いますが、今回は私の年末年始の思い出について書かせていただこうと思います。
あれはそう、小学5年生か6年生の年末でした。
多分2学期の終業式の前日あたりのことだったと思います。
私は我が家の台所で家事を片付ける母の後ろ姿を見ながら考えていました。
「今日もお母さん機嫌あんまりよくないな~。なんかお母さんが喜びそうな話でもしたいんだけど…」
母は体があまり丈夫でなく、体調が悪いことはしょっちゅうで、体の具合が悪いとどうしても気持ちもふさぎがちになり、つらそうな顔をしていることが多かったのです。
けなげな私はそんな母の気持ちを明るくしようと、時には作り話までしていました。
私ってなんていい子だったんだろうとつくづく思います。
もちろん、気を引いてかまってもらいたかったというところも大きかったんですけどね。
それでその日も、「母が笑顔になりそうな話題」をいっしょうけんめい考えました。
そしてふと思い出したのです。
算数の時間に先生からきいた角の三等分の話を。実は母は、数学が大好きで、数学の教師になりたいと思っていた人なのです。
経済的に大学進学はかなわず、そのことが大きな心残りになっているということを、私は何度も聞かされていました。
そして新聞に載る入試問題の数学を嬉々として解いている母の姿も何度も見ていました。
その時ばかりは体のしんどさも忘れているように見えたものです。
ですから角の三等分の話をすれば、きっと喜ぶに違いない、と思ったのです。
(角の三等分って字で書くとおり、線を引いてひとつの角を等しく三つに分ける、ということです。
90度の直角を三等分すると、30度、30度、30度、の三つの角に分けることができるわけです。

「今日算数の時間にきいたんだけど、定規とコンパスだけで角の三等分に成功した人は世界で誰もいないんだって」
この話題は、思ったとおりヒットでした。
いや、ヒットしすぎた、と言った方がいいでしょう…。振り返った母の眼は、キラリと光っていました。
母のそんな様子を見たのは初めてでした。
話題が当たったことは感じつつも、何か開けてはいけない箱を開けてしまった時のような、そんなヤバさを同時に感じました。
案の定、ヤバいことになりました。
その日から、母は客間に何時間も閉じこもるようになったのです。
洗濯と食事の支度だけは最低限していたような気がしますが、それ以外の時間は客間のテーブルの前に座り込んだまま動きません。我が家には一人きりになって集中できる部屋は客間しかありませんでした。
そう、母には集中する必要があったのです。
定規とコンパスだけで、角の三等分を成功させるために。
何日も何日もそういう状態が続きました。
それが他の時期ならまだよかったのですが、何しろ年の暮れ。本当なら、お正月準備というものがある時期です。
大掃除、正月料理作り…。それらをすべて投げ打って、母は角の三等分に夢中になっていました。
父も「まいったな」という顔をしていましたが、言い出したら聞かない母の性分はわかっていたのでしょう、大晦日に黙ってかまぼこをたくさん買ってきてくれました。
台所に立つことのない父には、かまぼこぐらいしか思いつかなかったのでしょう。
父の買ってきてくれたかまぼこを私が切り分けて大皿に盛ったのが、新年の正月料理となりました。
母もお雑煮ぐらいは作ってくれたように思います。
何だか寒々しい元旦だったのを覚えています。
よかれと思ってふった話題のために、この事態。母の数学への情熱は生半可なものではないのだということを思い知ったのでした。
その年のお正月はとても複雑な気持ちで過ごしたのですが、今となっては私の中で、いつ思い出しても笑える話№1の座を占める出来事です。
おもしろいオカンでしょう~?(笑)
でも、すごいなって思っているんです。
母の数学に対するマニアっぷり。本当に「好き」ってこういうことなんだな、ということを目の前で見せてもらいました。
しかも母はその後40歳を過ぎてから、自宅でささやかな算数教室を開きました。
学校の先生にはなれなかったけど、小さな塾の先生になったのです。
通ってくれた生徒さんに算数を教える時の母は、本当に楽しそうで、幸せそうでした。
母にとってはこれは夢の実現だったのだと思います。
子どもの目から見てもしおれているように見えていた母の人生は、その後生き生きとした輝きを取り戻していきました。
思い通りにならなくても、ハードルがあっても、やりたいことのために自分にできることをする。母はそんな姿を見せてくれたように思います。
その姿は私に、夢って型どおりでなくても実現できるんだよ、というメッセージを与えてくれました。
そのおかげで、私は何か自由な感覚を人生に持てているような気がします。
改めて考えると、これは母に感謝してもいいことなのかもな~と思います。
母の数学好きにはその他にもいろいろ振り回されたりもしたんですが…、でもまあ、お母さん、ありがとう!

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1件のコメント

  1. とっても素敵な話でした。
    女性で数学が好きって珍しいですね。
    なぜかそれだけでも、とても魅力的な人に感じました。