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Lecture.820

自分の気持ちの見極め方〜気持ちの多面性と向き合う〜

講師:大谷常緑

新しい何かにチャレンジしようとする時、「やりたい」「でも失敗するのではないか」など様々な考えが頭の中をよぎります。
私たちの心には「こうだ」と一つに決められない多面性が存在しています。
特に重大なチャレンジをする時には、やりたい気持ちと怖れや不安が拮抗します。
このような場合、どのようにして結論を導き出せばよいのでしょうか。
その方法としては、先ずは怖れている事柄の正体を見極め、それが妥当か否か冷静に客観視してみる事です。思考に捉われるタイプの人は、必要以上に怖れを大きく捉える傾向がありますので、注意が必要です。
次に、チャレンジしたい理由をできるだけ明確にする事です。それは、感情の側面から捉えるとその理由が明確になりやすくなります。
そして、自分自身が推進派と抑制派になって、間髪をいれずに議論してみると、自身の気持ちに正直な結論へと導かれることがよくあります。

Keywords
チャレンジ 心の多面性 怖れ 防衛 自分の気持ち 

◎リクエストを頂きました◎
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ことあるごとに「今の会社を辞めたい」という気持ちが湧き、じゃあ転職しようかと考えてみるのですが、考えるだけで行動に移すわけではありません。
他に具体的にやりたいことがあるわけでもありません。
信頼のおける人たちに相談しても「ここまでやってきて今の地位があるのだからもったいない」と言われ、まあ確かにそうだな、これまで頑張ってきたよな、とそこでは納得するのですが、やっぱり新しい仕事をしてみたいなーと、気持ちが行ったり来たりします。
自分の本心を確かめるのが恐いのかもしれませんが、今の自分に向き合う、自分で自分の気持ちを確かめられる方法があれば教えてください。
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いただいたリクエストを拝見して、昔、八代亜紀が歌って大ヒットした曲「雨の慕情」を思い出しました。
「にくい 恋しい にくい 恋しい めぐりめぐって 今は恋しい」という一節があるのですね。
この後サビの部分で「雨雨ふれふれ もっとふれ」と続く歌です。
皆さんも一度は耳にされたことがあるのではないでしょうか。

「にくい」「恋しい」と様々な感情が自分の中で去来している様を見事に表しているのではないかと思います。

私たちの気持ちは、必ずしもただ一つに決まるものではありません。
私たちの心の中にはあたかも複数の人間が棲んでいるかの如く、色々な考えや意見が浮かびます。
丁度、何かのグループがその方向性を決めようと議論しているようなものなのです。
あるときには、Aという意見が優勢となってみたり、またある時にはBという意見が優勢になってみたりという具合で、その時の気分や状況によっても優勢な意見が変わるものです。
特に重大な決断をするとなると、ああでもない、こうでもないという喧々諤々の状態になって、なかなか結論が導き出せないものですね。
しかし、それらはいずれも本当の自分の気持ちなのです。

先ずは様々な気持ちがあるんだなぁという事を認められること、受け容れられることが肝要かと思います。

私たちが、何か新しい事に一歩を踏み出そうとする時、必ずと言っていいほどセットになっているのが「怖れ」という感情です。
新しい何か、特に人生が大きく変わるかもしれないような事柄や、大きなお金が動くような事柄に対しては「怖れ」を伴う事がとても多くなります。
怖れは、自分の心の声として出てくることもあれば、人の言動を通じて出てくることもあります。
前者は、「こんな私がそんなにうまくできるはずはない。失敗するにきまっている」「両親がきっとそんな事を認めてくれるはずがない」「女房子供を悲しませてどうする」など様々な視点で自分の心に語りかけてきます。
後者は、誰かに話をしたときに「そんなこと上手くいくはずないじゃないか」「そんな世の中甘いものじゃないぞ」と言われるような形で現れます。実は、この他人の言動は自分の心の中にある気持ちを相手が口にして、それに心のどこかで「そうかもしれない」と賛同する気持ちが動いて反応しているのです。私たちは気にならない事は何を言われても気に留めませんが、気になっている事はついつい反応してしまうものです。

そういう意味では、前者も後者も自分の中にある気持ちにほかなりません。

怖れは、危険から自分の身を守ろうとしている自分の内側にある一つの側面です。
最近、高層階で生活している子供が、高い所から転落する事故が増えていると報じられていますが、この背景には「高所平気症」とでも言うべき状態があるのではないかと言われています。
子供の頃から高い所で生活していると、高さに対する怖れが鈍化する、あるいは無くなってしまうという事だそうです。
私たちが高い所に立つと恐怖を覚えるのは、転落事故を未然に防止する防衛的な反応なのですね。
従って、怖れる事は、必ずしも悪い事ではありません。
しかし、必要以上に怖れると、何もできなくなってしまいます。
例えば、自動車事故に遭う事を怖れるならば、外出しないに越したことはないという事になってしまいます。

これでは、何もできません。どんな小さな一歩でさえ踏み出す事もできません。

必要以上に怖れているのか、それとも必要な怖れなのかは、怖れと向き合い、その正体を冷静に、客観的に見極める必要があります。
思考に捉われるタイプの人は、えてして起こりもしない怖れている事柄が、あたかもかなりの確率で怒るのではないかと捉えがちになります。
思考では、最悪の状態を想定して“その時”に備えようという防衛が強く働くので、悪い状態ばかりが想起されるのです。
怖れている事柄が起こるか否かを、ある程度冷静に、客観的にみる方法としては、もし、人から自分が考えている事と同じような相談を受けたときに、果たして自分だったらどのように答えるかを考える事も有効な方法の一つです。

やろうとしている事を第三人称に置き換える事で、自身に降りかかる、怖れている事柄を緩和して取り扱えるからです。


次に、なぜそのようにしたいのか、という理由についてできるだけ明確にする必要があります。
例えば、「今やっている事が合わないから」「面白くないから」など、今の状況に不満があったり、満足していなかったりする場合や、「もっと楽しい事がしたい」「もっと自分の可能性を試してみたい」と未来を志向している場合があると思います。
前者の場合は、今の状態が嫌だと考えるのではなくて、今の状態で感じる何かが嫌だと考えて理由を探してみてください。未来志向の場合は、新しい一歩を踏み出す事で、どんな感情を感じたいのかを探してみてください。

感情面の理由が見つかると、意外と、なぜそのようにしたいのかがより明確になってきます。

そして、どんな怖れがあるのか、それは妥当か、なぜそのようにしたいのかという材料がそろったら、今度は自分一人で、勧める側役と、止める側役とになって、話し合いをしてみるのです。
場合によっては、椅子などの席を2つ用意して、勧める側役と止める側役それぞれに座る場所を変えて間髪をいれずに議論してみるのです。
相手の手の内は、それぞれが知っています。
そういう形で議論する事で、思ってもみなかったような理由が飛び出してきたり、考えが浮かんできたりして、自身の気持ちに正直な結論へと導かれることがよくあります。

ある程度の結論が出るまで、繰り返してみてください。

そして、新たな一歩を踏み出すにしても、思いとどまるにしても、一番大切なものは勇気です。

どちらの選択をするにせよ、自分には勇気があったとご自身で自分の事を褒めてあげてください。

(完)


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