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Lecture.620

虐待の心理〜満たされなかった気持ちの側面から〜

講師:大塚統子
大切なはずの子供にさえ優しくできないほど心に余裕がなく、いっぱいいっぱいになっている時に虐待が起こります。
虐待の心理的な背景の一つには、かつて満たされないまま封印した気持ちが関係している場合があります。
甘えたい、話を聴いてほしい、わかってほしい、褒めてほしいなどの欲求は、子供なら当たり前に持っています。ところが、親の側に、自分が子供時代にかなわなかったことや我慢してきたことがあると、それらの満たされなかった気持ちが子供の欲求によって刺激されます。あきらめたり我慢したりした辛い感情の記憶が刺激されるので、怒りや嫌悪感や拒絶反応が出てきて、これらが引き金となり虐待にまで至るケースがあります。
また、虐待者本人は「虐待してしまう自分」にもれなく否定の気持ちや自己嫌悪を持ちます。そして、自分が感じているようなひどい自分にふさわしい悪い態度をとったり、人から責められないように自分から周りの人と距離をとったりしがちです。
周囲にいる人たちができることは何なのでしょうか。
Keywords
虐待 ネグレクト 子供の欲求 自己嫌悪 孤立

◎リクエストを頂きました◎
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痛ましい虐待のニュースが流れると、一般的な反応は「こんな鬼親が!」とか「親になってはいけない人間が子供を作った」と、親に人間失格の烙印を押して終わり、という印象を受けます。

私自身、娘がいる母ですが、命にかかわるような暴力やネグレクトをしてしまう親の心境は、ちょっと想像できません。でも、自分自身の体調が悪い時や、仕事で嫌なことがあったり、その他ストレスになることが積もったりして、子供の気持ちが理解できる優しい笑顔の母親でいられない時などには、つい子供を叱ってしまいます。

ひょっとすると、ひどい虐待をしてしまう親の中には、自分の子育てと子供にとても高いハードル(3日でトイレトレーニング完成させられるママ等)を課していて、子供がそれに応えられない時に爆発してしまうのかも?と思うようになりました。

こちらのサイトで、虐待してしまう心理について取り上げていただけたら幸いです。

(一部リクエストを編集させていただきました。)
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●どんな気持ちの時に虐待が起きるの?

「よく眠れて気分がいい。ダンナは優しいし、臨時収入もあった。」そんな状況の時に、「さあ虐待しよう。」とは思わないでしょう。

頭が痛くて静かにしてほしい時に、子供が泣き止まない。急いで出かけなきゃと焦っている時に、子供が服を汚してしまう。「こうしてくれたらいいのに」と思う時に限って、子供が意に沿わない行動をして、いつも以上に手がかかる。…子育てをしていると、思うようにいかないことの連続です。

気持ちに余裕があったなら、「まだ子供だからしょうがない」と思ったり、「この子の個性」と受けとめたりすることができるでしょう。とはいっても、親だって感情のある人間です。つい「いいかげんにしてよ」「なんでこんなことするの」と怒ってしまうこともあるものです。子供に優しくできない時って、気持ちがいっぱいいっぱいになっている時なのではないでしょうか。

虐待が起きる時には、小さな子供にすら虐待をしなければならないほど、切羽詰まった心境が背景にあるようです。身体的虐待・心理的虐待・ネグレクト、どんな形の虐待であっても、虐待行為をしている人たちが幸せな気持ちでいることはありません。

●虐待の心理的な要因 〜満たされなかった気持ち〜

カウンセリングで、「子供が私にまとわりついてきてうっとうしい。」とか、「子供がなんで?なんで?といちいち突っかかってきて面倒。」など、気持ちのままに求めてくる子供の態度にイライラするというお話を聞きます。

心理な背景の一つには、自分が欲しかったのにもらえなかったもの、欲しかったのに我慢するしかなかったことなどの感情的に辛い記憶を、子供の欲求によって刺激されている状態があると思われます(別の背景があることもあります)。

例えば、「母親はヒステリックで近づくのを許してくれなかったけど、本当は甘えてベタベタしたかった。」とか、「両親は愚痴ばかりで話を聞いてもらえなかったけど、本当はわかってほしい気持ちがあった。」とか。昔欲しくてしかたなかったのに手に入らなかった「満たされなかった気持ち」が心の痛みとなっていることがあります。いつも我慢して、何度もあきらめてきただけ、触れたくない感情として心の奥に隠されていたりします。

そんなふうに心の痛い部分を、子供の欲求は遠慮なく刺激してきます。それは痛いでしょう。子供からの刺激を止めるための拒絶、言い方を変えれば、自分の心を守るためにする拒絶が、結果的に身体的・心理的な暴力になってしまうことがあるようです。また、心の痛みから、子供の欲求に向き合えなくなると、かかわりを放棄するネグレクトとして現れてきます。虐待の背景には、「愛され方を知らないから、愛し方がわからない」というケースが多く存在しています。

こういった場合、まずは満たされなかった心の痛みがあることに気がついていくことが大切です。そして、それにまつわる感情、「甘えられなくて寂しかった」とか「わかってくれなくて悲しかった」とか、触れずに放置してあった感情を感じて燃やしていけたらいいでしょう。

感情は、「こういう感情があった」と認めるだけでも少し落ち着きます。感情をケアして心に余裕が取り戻せたなら、子供への接し方も違ってくるのではないでしょうか。

●虐待とともに感じる自己嫌悪

子供に対して怒鳴ったり、手をあげたり、するべきことをしていなかったりしたとしたら、嫌な気分になるでしょう。

虐待には、もれなく自己嫌悪がついてきます。人は誰でも、人に優しくしたい気持ちを持っています。ですから、優しくしたいのに虐待をしてしまう自分に対しては、「こんなことをしている自分は最低」「親失格」などと思いがちです。そして、自分が自分を否定している分だけ、周りからも同じようにヒドイ人と見られると思いやすくなり、責められているように感じてしまうようです。

ただでさえ追い詰められた心境で子育てをしているのに、自分が周りから責められているように感じると、ますます孤立し、自暴自棄になってしまうことがあります。「こんな私が受け容れてもらえるはずはない」と考えて、自分から周りの人と距離をとったり、「どうせ理解してくれないでしょう」と悪い態度をとったり、悪循環から抜け出しにくくなってしまいます。

●周囲の人にできること

虐待をうける子供たちと同様に、虐待をしてしまう人たちにも苦しみはあるようです。虐待をうけた人なら感情的に批判したくなることもあるでしょうが、周囲にいる人までが「親なんだから」と説得しようとしたり、「親のくせに」等と非難したりすることは、更に追い詰めることになって逆効果です。

心に余裕がなくて虐待になっていくのだとしたら、虐待してしまう人たちの心に余裕を作ることが解決への近道でしょう。子育ての大変さを理解し、少し手伝うこと・労わることから始めてみてはいかがでしょうか。

(完)

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