怒りの裏には、「支えたい」という優しさから生まれた無力感が隠れています。
あなたは無力ではありません。
その優しさが、彼にとってかけがえのない支えになっているのです。
■なぜ彼氏は励まされても立ち直れないのか?
彼氏が落ち込みやすく、
何度も何度も励ましても、なかなか復活しない。
*パートナーが女性の場合は、彼を彼女に置き換えてお読みくださいね。
そんなお話をお聞きすることがあります。
励ましても励ましても、
彼氏から返ってくる言葉は、
「迷惑かけてるダメな人間だ」
「何をやってもダメな人間だ」
といった、自分を卑下する言葉ばかり。
そんな彼氏の
「ウジウジする態度にイラッとしてしまうんですよね」
「何度励ましても最後は『迷惑かけてるダメな人間だ』に戻る、あのエンドレスな会話にうんざりなんですよね(怒)」
というお話をお聞きすることもあります。
よくよく話を聞いていると、
彼氏がなかなか前向きになろうとしない姿勢に、腹を立てているというケースが多いようです。
そんなふうにイライラしてしまうのも、
頑張ってサポートしてきたあなただからこそかもしれません。
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■「こんなに頑張ってるのに」──心が疲れてしまう瞬間
例を使って説明します。
A子さんの彼氏は、メンタル的に打たれ弱いタイプで、
度々落ち込んでは、度々A子さんが励ます──
そんな日々を繰り返していました。
ある日のデート。
彼氏が暗い顔をしていたので、A子さんが「何かあったの?」と聞くと、
仕事でミスをして職場のみんなに迷惑をかけたとのこと。
「みんなに迷惑ばっかりかけて、自分はダメな人間だ」
と、自分を責める彼に対して、A子さんは励まします。
「そんなに自分を責めなくていいよ。
誰だってミスをすることはあるよ。
あなたはいつも頑張ってるじゃない」
すると、彼は…
「ありがとう。そう言われると救われるよ」と前向きになる──
のではなく!
「そんなことないよ。
何年たってもみんなに迷惑ばっかかけて、やっぱりダメだ」
と、落ち込んだ顔で、体中からダークなオーラを発しながら言うのです。
その後、デート中何時間も。
A子さんが励ましても励ましても、彼氏は「自分はダメな人間だ」と言い続け、
落ち込みから戻ってきません。
そして、デートが終わった日の夜。
彼氏からLINEが入ります。
「昨日はごめん。
励ましてくれてるのにネガティブなことばっかり言って。
君にも迷惑かけたよね。
やっぱり自分は迷惑な人間でダメな人間なんだよね」
と、自分を卑下するLINEが届きます。
そしてA子さんは、LINEでも彼氏をフォローし続けることに──。
このようなことが、度々繰り返されていました。
そんな日々が積み重なるうちに、
A子さんの中に、徐々にイライラがたまっていきます。
そんな日々が続いたある日、
A子さんは彼氏に怒ってしまいます。
「もっとしっかりしなさいよ!」と。
すると彼は、
「ダメな人間でごめん…」
と、また落ち込むのです。
その彼氏の言動に、さらにA子さんはイライラしてしまうのでした。
「こんなに励ましてるのに…」
と、心がすり減るような思いをしていたかもしれませんね。
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■ネガティブな自己イメージが強すぎると、励ましの言葉が届かない
この彼氏の場合、自分に対して、
• 迷惑をかける人間だ
• ダメな人間だ
という強い自己イメージを持っています。
そんなとき、彼女から
「そんなこと思わなくていいよ」
「いつも頑張ってるじゃない」
とフォローの言葉が届きます。
しかし、自己イメージがあまりに強いため、
彼女の言葉をスムーズに受け取ることができません。
結果として、
彼女の肯定的な言葉を否定したくなってしまうのです。
これは、この例だけではなく、カウンセリングでもよく耳にする現象です。
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■怒りの裏に隠れている「無力感」という感情
A子さんが彼氏に
「もっとしっかりしなさいよ!」
と怒ってしまった背景には、
無力感があったのかもしれません。
助けてあげたい。
支えてあげたい。
でも、何度励ましても状況は良くならない。
そんなとき、人は強い無力感を感じます。
その無力感は、あなたが一生懸命に「支えたい」と願った証。
決してあなたが弱いからではありません。
善意であり、愛であり、美しいあなたの心から生まれるものなのです。
『何とかしてあげたいのに、自分は力になれていない』
この無力感は、非常につらい感情です。
心に重たい負荷をかけてきます。
そして、その負荷の原因を「相手が良くならないからだ」と理屈づけることで、
相手に対して怒りが生まれてしまうのです。
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余談ですが、介護における虐待のご相談を受ける中で、
無力感から怒りに変わり、虐待に至ってしまったケースも少なくありません。
この無力感をケアするサポートをさせていただいています。
そうすることで、怒鳴ったり手を出したりすることをなくしていけるようになっていきます。
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A子さんもまた、彼氏に対して感じた無力感が怒りに変わり、
きつい言葉をぶつけてしまったのかもしれません。
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■あなたは無力ではない──パートナーを支えているあなたへ
無力感から生まれた怒りに気づいたとき、
大切なのは、
「自分は無力じゃない」
と知ることです。
A子さんの彼氏は、彼女の肯定的な言葉をうまく受け取れません。
しかし、だからといって、否定してほしいわけではないのです。
むしろ、もし彼女の励ましがなかったら──
彼はもっとボロボロになっていたかもしれません。
彼は、自分で自分を肯定する力がない。
だからこそ、彼女のフォローが、たとえゆっくりでも、彼の心を支えているのです。
A子さんは、こう思っていいのです。
「私のフォローがなかったら、彼は明日会社に行けなかったかもしれない」
「私がいることで、彼は今日を生き延びる力をもらえている」
あなたは、無力ではないのです。
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■あなたは無力じゃない──それを自分に伝えてあげよう
ここまで、A子さんの例を通してお話ししてきましたが、
あなたにも同じことが言えるかもしれません。
パートナーを励ましても励ましても、
ネガティブな言葉ばかり返ってきて、イライラする。
そんなときには、
ちょっと立ち止まってみてください。
「私、無力感を感じてイライラしてるのかな?」
もしそうだと気づいたら、
自分にこう言ってあげてほしいのです。
「私は無力じゃない」
パートナーは、あなたがいなかったら、
もしかすると精神的にもっとボロボロになっていたかもしれない。
あなたが与えた支えが、
パートナーを今日も生きる力に変えているのかもしれないのです。
あなたは無力なんかじゃありません。
どうか、あなた自身に
「私は無力じゃない」
と、そっと伝えてあげてください。
あなたがパートナーとの関係のなかで、
心穏やかに過ごせる日々が訪れることを、心から祈っています。
そして、ここまでパートナーのために向き合ってきたあなたに、
心から敬意とエールを送ります。
(完)