わたしらしさが世界をひらく

おだやかでかわいらしい、理想の彼女になりたい。
優しく愛情あふれる、理想の母になりたい。
親しみやすくて頼りになる、理想の上司になりたい。

人それぞれ「理想」ってありますよね。
もしかすると頑張り屋さんほど、その「理想」のために不自由さを感じているかもしれません。

***

また彼と揉めちゃった。

彼は仕事で疲れてると一人になりたがるタイプ。
連絡もなければ悩みも打ち明けてくれなります。

最初こそ我慢しても、そのうち寂しさや不安でいっぱいになり、彼に鬼電してしまう鬼彼女な私…。
ちゃんと相手の気持ちを尊重できる、おだやかで優しい彼女になろうとしてるのに。

上手くできないなぁ私。
もっともっと、彼にとって理想の彼女になれるよう頑張らなきゃ。

春ですからね。
気持ち改めて、ひきしめていこう!
彼のためにもっと何でも受け入れられるように、決意を新たにしました。

それから、理想の彼女像に近づけるようにと始めて1か月。
彼とも揉めることはないし、なんとかそれっぽく見せれていそうです。

けど最近、周りの人に調子悪い?って聞かれることがちらほら。
調子は悪くないんだけど…なんか疲れているかも。
気持ちが張りつめ、心からわきあがる楽しさを感じなくなっていたんです。

そんなとき、とあるボーイズグループのオーディション番組を見ました。

私、去年からオーディション番組を見るのにハマっているんですよね。
一生懸命な参加者達の姿を見ていると、自然と全力で応援したくなってきます。
その中でも、1人の参加者から目が離せなくなったのです。

大勢の参加者のうちの1人の彼、Nくん。

Nくんは控室にいるときから目立っていました。
控室の中、誰もが緊張する本番前の張りつめた空気。
他の参加者たちも表情はかたくなっています。

それなのに、Nくんだけは
「頑張りマッチョ!」
と、軽快なキャラクターで空間の雰囲気をなごませていました。

なんだこの緊張感の無い男の子は…?!
お調子者タイプの彼が、一体どんなパフォーマンスをするんだろう。

そしていざ本番。
審査員の先生たちのするどい目線の中、ポップに鳴り出したそのイントロは…ガールズ曲。
なんとNくん、ボーイズグループのオーディションに、ガールズダンスで挑んだのです。

見た目のシャープさから想像もしなかったセクシーなダンス。
さすが三次審査、素人目から見ても惹かれる魅力満点です!

でも
でも…
…上手いけど…なんでガールズ曲なの?

こんなにダンス上手いのに!
ガツガツできるよ、ってところを見せるチャンスなのに!!
ボーイズグループのオーディションなんだから、
ちゃんと場に合った曲選んだ方が良かったんじゃ。

パフォーマンス終了後、審査員の先生からも
「どうしてガールズダンスにしたの?」
と質問されていました。

ほら、やっぱり!
なんて答えるのかハラハラ見ていると、Nくんは審査員の質問に臆することなく丁寧にこたえました。

「オーディションに合わせて男っぽく踊ろうか悩んだ。
でも内から出る自分の魅力を知ってもらうため、恐れずに挑戦しようと思った」

その言葉を聞いた瞬間。
私は力がぬけ、椅子の背もたれにぐったりなだれ込みました。

***

Nくんは自分を信頼していて、自分の魅力もしっかり理解しています。
「頑張りマッチョ」というユーモアも、ガールズダンスも、自分らしさを表現したのです。

背伸びして理想の何かを演じるより、自分らしさで見てくれる人に元気や喜びを与えたい。
人生かけたオーディションで、実際に行動に移せるなんて。
どれだけ勇気が必要だったでしょう。

私はずっと、自分の持っている強みより、足りないと思う部分に注目していました。
できてないから愛されるようにちゃんと頑張らなきゃ。理想的な彼女にならなきゃ。

恐かったんです、自分に自信が無いから。
ちゃんとしないと嫌われて、去っていかれるんじゃないかと。

でも、Nくんは違いました。
私が思った「ちゃんと」とは正反対のことをし、見事3次審査を突破したのです。
もし男らしくキレッキレに踊っていたら、ここまで印象が残ることはなかったでしょう。

しばらく経って、彼とクレープを食べているとこんなことを言われました。
「きみのこと腹が立つことも多いけど、嬉しいときの感情表現が分かりやすくてクセになるんだ」

鬼のように不機嫌な時もあれば、嬉しいときは尻尾をぶんぶん振りまわし喜ぶ。
今もクレープを生クリーム倍量で注文し、こぼれそうなクリームを幸せにまみれ夢中で食べている。
そんなテンション高めの私が良いらしいのです。

自分のダメだと思うところをほめられても嬉しくないよ、と拗ねつつ。
彼の嬉しそうな顔を見ていると受け入れざるを得ません。

どっしりとした安心感と心をくすぐられるなんとも言えない感情。
つい頬がゆるんでしまったのは、生クリームの甘さのせいにしちゃおう。

***

理想的な自分を演じるより自分らしさを表現していく勇気。
その結果もし受け入れられなかったとしても、それはあなたにふさわしいご縁がこの先に待っているということです。

理想を描き、さらに自分が輝くのならばそれは素晴らしいこと。
でも、理想を演じて自分の魅力をちぢめてしまうなら。
一度立ち止まってみるのもいいかもしれません。

この記事を書いたカウンセラー

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我慢の多い恋愛・対人関係、慢性的な孤独感、メンタルヘルスの相談を多く扱う。 どんな暗がりの中にも光を見つけ、深い受容力と繊細な共感力で心に寄りそうスタイルは圧倒的な安心感があると好評。 クライアント本来の魅力を取り戻し「自分らしいカラフルな生き方」を育むサポートが得意。※2023/11/1~休会中