ステレオタイプと認知バイアス

私たちの認知を歪めてしまったりする心の話

私たちの認知の歪みに影響するものに「ステレオタイプ」と「認知バイアス」があります。
いずれも状況や相手の人間を迅速に判断するために必要なものですが、ステレオタイプが必ずしも正しくなかったり、認知バイアスが認知を歪めてしまったりすることがあります。
今回は、この「ステレオタイプ」と「認知バイアス」についてお話します。

昔、あるお店のオーナーとそのお店で待ち合わせをしていました。
先にお店に着いた私はオーナーを待つ間、コーヒーを注文しました。

カウンターで注文して席で飲食するタイプの店で、コーヒー代を支払う時財布に小銭は無く、またお札も1万円札しか持ち合わせがなかったので、カウンターで1万円札を出してお釣りを受け取り、そのまま席に着きました。

席に着いてお釣りを数えてみると、お釣りが多かったのです。
それでカウンターの女の子の所に行き、その旨を伝えてレシートを見せ、多いお釣りを返そうとすると「ちょっと待ってください」と席で待つように言われました。

席に戻り、その女の子が席に来てお釣りを返そうとしても、私の話す内容が理解できなかったのかキョトンとしています。

そこで私はテーブルの上にあった紙ナフキンにお金のやり取りを書きながらお釣りが多かったことを説明し始めました。

それをどこかで見ていたのか、その店の男性店長が私の席にやってきて「どうされましたか?」と声をかけてきました。

おそらく、その女の子に私がクレームでもつけているのではないかと心配したのではないかと思います。

その時の私は、スーツを着て身長180cm、体重は3桁、スポーツ刈りで薄い色つきの眼鏡を掛けていました。
風体から言えば、ちょっと怖い職業のお兄さんという感じに見えたかもしれません。

私はその店長にも同じように紙ナフキンにやりとりを書いて説明をし始めました。とにかく、多かったお釣りを返したかったのです。

不信そうな顔つきで話を聞いている店長、どうしていいのかわからない様子の女の子。周りにいたお客さんも私が何かクレームをつけているのではないかといぶかし気に私たちの方に視線を投げかけています。何度説明しても女の子にも、店長にも私の言っていることが伝わらないのです。

そこへ待ち合わせていたその店のオーナーがやってきました。
「どうしたんだい?」
「あっ、〇〇さん」
とオーナーの名前を呼んだ途端に、店長と女の子に安堵の空気が流れました。

結局、店長と女の子に説明を理解してもらって、私は無事に多かったお釣りを返すことができました。

この出来事には2つの誤解が含まれています。

一つ目は私の風体です。

人は外見でその人を判断することがよくありますね。私の場合、何となくクレームをつけそうな人間に見られたのかと思います。

もう一つは、こんなに根気よく多かったお釣りを返そうとする人間はいないのではないかという思い込みです。
店の女の子を席に呼びつけて(呼びつけては無いけど)何かこんこんと話をしているお客はクレームをつけているに違いないとの先入観です。

一つ目は心理学で“ステレオタイプ”と呼ばれる多くの人に共通した先入観、思い込み、固定観念、レッテル貼りです。

私たちは多くの情報を処理するのに時間がかかるため、迅速に物事を見ようとして何らかの共通点を見出し、カテゴリーやグループに分けます。

その場合、それぞれの個性は見ないで自らが持っているステレオタイプで判別します。
この時の私は怖そうな風体で、お店的にはクレーマーのステレオタイプに属していたのでしょう。

ステレオタイプの例としては「血液型」「性別「人種」」などが様々なものがあります。

血液型で「〇型はこうだ」と言ったり、「男性は××だ」と言ったりしますね。
また、人種については「船が沈もうとしているときに人種別に船長がどう言えば乗客が海に飛び込むか」というジョークは有名ですね。

その一例を紹介すると
アメリカ人には「飛び込めばヒーローですよ」
イタリア人には「飛び込めばもてますよ」
イギリス人には「飛び込めば紳士です」
ドイツ人には「飛び込むのが規則です」
日本人には「みんな飛び込んでいますよ」

二つ目は、心理学で“認知バイアス”と呼ばれものです。認知バイアスは、判断・認知・意思決定などに紛れ込んだその人の思い込みです。

私が体験したお店の件では、お店という同じ集団に帰属する女の子と店長には、集団に属する人間を正当に評価しようとする“内集団バイアス”が働き、女の子は正当で、私が正当ではない行為をしているのではないかという先入観が働きます。認知バイアスとは「そういう目で見てしまう」ということなのですね。

また、私が体験したお店の件で別の角度から認知バイアスを見ると、自分が予め立てた予想を覆す情報ではなく、予め立てた予想を確証する情報に注目し、それを重視しやすい傾向になる“確証バイアス”があったのではないでしょうか。

店長が私の席にやって来たのは、そこに「トラブルの匂い」があったからです。店の女の子が何かクレームをつけられているという予想の元に席に来たわけで、私の説明がいかにあろうとも、予め立てたクレームという予想を確証できる情報を得ようとしていたのではないでしょうか。まさか、お金を返したいという要望だとは理解したくなかったのかも知れません。

認知バイアスにはこの他にも多くの種類がありますが、この確証バイアスは、私たちが陥りやすいバイアスになります。

私の体験した例で“ステレオタイプ”と“認知バイアス”についてお話ししてきましたが、私たちはなかなか自分の持っている“ステレオタイプ”や“認知バイアス”に気付けないものです。
それらが、時に物事がうまく進まない原因になったり、トラブルを引き起こしたりすることもあります。

ステレオタイプや認知バイアスの影響を少なくするには、自分が持っているステレオタイプや認知バイアスを認識し、それに疑いを持ってみることです。

例えば「九州人は酒が強い」というステレオタイプがあります。私の中にもそのステレオタイプは存在しました。
また、私は九州在住の私が地方に行って「九州から来ました」というと「お酒強いでしょ。九州だからね」と言われたりします。
しかし、そのステレオタイプの根拠は何か、本当にそうなのか、と疑ってみると意外にも面白いことがわかりました。

実際に行われた都道府県別の「お酒に強い遺伝子調査」の結果によれば、1位〜10位の間に九州地方は沖縄県が2位でランクインしていますがそれ以外にはなく、東北地方が多くを占めています。もっとも、日本人の約60%がお酒に強い遺伝子を持っているそうです。

このように、実際にステレオタイプを検証してみると、そのステレオタイプが的をえているのかどうかがわかるわけです。

今日から私の酒豪に対するステレオタイプは「東北人は酒が強い」に変更します!

(完)

この記事を書いたカウンセラー

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恋愛や夫婦間の問題、家族関係、対人関係、自己変革、ビジネスや転職、お金に関する問題などあらゆるジャンルを得意とする。 どんなご相談にも全力投球で臨み、理論的側面と感覚的側面を駆使し、また豊富な社会経験をベースとして分かりやすく優しい語り口で問題解決へと導く。日本心理学会認定心理士。