問題解決とカウンセリング

カウンセリングで心理パターンの変化はどのように進むか

問題の根底には自身の心理パターンがあり、そしてその心理パターンを形成した原因が潜んでいます。カウンセリングではこれらをどのように取り扱い、どのようなプロセスを経て問題の解決が進むのかの概略をお伝えします。

私たちは様々な問題に遭遇し、それを乗り越え、あるいは抱えたまま生きています。

できれば、誰しもが問題を抱えたくないと思っているのですが、好むと好まざるとにかかわらず、何がしらかの“問題の種”はやってきます。

環境的な要因によるもの、人の死や別れ、年齢的なものなど、それは枚挙にいとまがありません。

しかし、何がしらかの“問題の種”に遭遇したとしても、その感じ方は人様々です。

例えば、仕事上で何かミスをしてしまった時にずっと引きずる人もいれば、謝って「終わり」にできる人もいます。

多くの人は、自分がそのように感じることは人もそう感じるのだろうと思いがちですが(この現象を心理学では、自分の気持ちを相手に映し出す“投影”と言います)、必ずしもそうではありません。人により感じ方は様々なのです。例えて言えば、味覚が人により異なることや、好きな音楽が異なるようなものです。

では、この感じ方が人により異なるのはなぜかというと、人により、その人の心の中にどんな事柄や経験が詰まっているかによって異なるのです。

例えば、子供の頃に川や海でとても怖い経験をした人は、水が怖くなるかもしれません。
また、場合によっては心の中にある事柄や過去の経験により、心を主として司る脳の機能の変化が見受けられることもあります。

心の中に詰まっている事柄や経験は、ミルフィーユのように実は多くの層に分かれています。私たちが容易に認識できる意識である“顕在意識”の中にもいくつか階層があり、私たちが何らかの機会に思い出すことができる可能性がある“潜在意識”の中にもいくつか階層があります。

更に深い、例えば人類共通の意識などが存在すると考えられている“無意識”にも階層やバリエーションがあると考えられています。

心理カウンセリングは、流派により、また時代により様々な方法があります。話を聴き、自らの気づきを誘発する方法もあれば、認知(どう感じるか、どう捉えるか)の歪みを共有してそれを再構成する方法もあります。

人は心の中に溜め込んだものを話して吐き出すだけでも楽になることが多いものです。しかし、これに加えて話しているうちに潜在意識にある過去の出来事が思い起こされたり、過去に封印した何かが思いこされたりすることがあります。封印した事柄は、自身が“受け容れがたい何か”を“禁止”することでその時の心のダメージを避けた結果で、潜在意識の中でそれが生き続け、今の私に影響を及ぼしているのです。

典型的な例を挙げれば、無意識の発見で有名な精神分析の祖フロイトと共同研究していたブロイアーは、身体表現性障害(器質的要因や薬物障害は見当たらないにもかかわらず、痛みや痺れ、拘縮、嘔吐、難聴などが現れる障害:当時はヒステリー症状と呼ばれていた)の患者を治療する中で、患者が昔の体験とその時に抑圧した感情を思い出したことで、その症状から解放されたという例をフロイトとの共著「ヒステリー研究」で述べています。(より詳しくは、“アンナOの症例”などを参照してください)。

一方、認知の偏りを再構成する方法は、クライエントの話を聴くことをベースに、その話の中で見つかった偏りを修正し、物事の見方や感じ方に変化を与える方法です。

冒頭で例とした、仕事上で何かミスをしてしまった時にずっと引きずる人よりも、謝って「終わり」にできる人の方が生き方としては楽ですね。

ではなぜミスを引きずるのか、その原因は何かを心理的側面から探っていき、クライアントとカウンセラーで共有します。そしてその“心理パターン”を変えてゆくのです。

この過程で、実はカウンセラーとクライアントさんは様々な困難と出会うことがしばしばあります。

第一の困難は、原因をクライアントさんと共有するプロセスです。

「自分の問題を解決して楽な生き方をするぞ、人生を変えるぞ」と決意して皆さんカウンセリングの門を叩かれるのですが、原因を見詰めていく過程で、あたかも自分が責められているような感覚になられたり、今まで生きてきた自分の価値を否定されたような感覚になられたり、その原因を見詰めるのが怖くなってしまったりされるのです。

カウンセリングは、カウンセラーとクライアントさんとの対等な立場での信頼関係の上に成り立つのですが、この時点で信頼関係が傷つくこともあります。カウンセラーは「受容と共感」が第一義ですから、決してクライアントさんを傷つける意図はないのですが、そのように解釈されたり、怖れからカウンセリングから離れてしまったりするケースもあります。

辛い状況ならば、カウンセリングを受ける間隔を少し空けたり、カウンセラーを変えてみたり、あるいはカウンセリングの手法が異なるカウンセリングを受ける方法もよいのではないかと思います。しかしながら、カウンセリングの門を叩いた時の決意「自分の問題を解決して楽な生き方をするぞ、人生を変えるぞ」を忘れないで、諦めないで欲しいと思います。

ちょっと厳しい話になるかもしれませんが、原因を見つけていく上でのクライアントさんの振る舞いも、実はクライアントさんの心理パターンを反映しているものになります。

 

第二の困難は、心理パターンを変化させることです。

今まで長年持っていた心理パターンを変えるには努力が必要になる場合がほとんどです。私はよく「右利きの人が急に左手で箸を持たなければならなくなったらどうしますか?」という話をするのですが、それには練習が必要になりますね。急には上手く左手で箸を使うことはできませんね。

心理パターンを変えるというのは、これと似ていて、自分の心の中の習慣(癖)を変えるということなのです。
ここでのクライアントさんの抵抗は「できません」「無理です」といった拒絶や、「こんなに頑張っているのに状況が変わりません」という焦りからくる諦めなどです。

冷たい言い方になりますが、前者はカウンセラーの立場からすれば単に「やりたくない」ということを表現しているにほかなりません。なぜやりたくないかは人により様々ですが、例えば、深層心理では、成功することや幸福になることに対する怖れ、誰かを見捨ててしまうような怖れ、自分が自分ではなくなるのではないかという怖れなどがあります。

顕在意識では「人生を変えるぞ!」といくら思っていたとしても、潜在意識が必ずしもそれに理解を示さない、まるで自分の顕在意識と潜在意識が分離しているような状態なのです。

もうお気づきかもしれませんが、顕在意識で変化をしようと思っていても自分を変化させたくないのは、そこに何らかの“怖れ”があるからなのです。

その怖れの正体から逃げるのではなく、向き合い、理解し、そして自身の中で統合していくプロセスを経て、変化に一歩を踏み出せるのです。とても勇気が要ることですね。

また、焦りは自分いじめのパターンです。「なんで早く進めないの」と、まるで自分の背中に刃物を押し当てて「早く行け」と言っているようなものです。長年連れ添った心のパターンですから、そうたやすくは変えることはできません。

変わらない自分の心のパターンを道具として、今までと同じように自分を責めるのではなく、「ゆっくりだけど心のパターンが変化すればいい」と大きく構えて臨まれるといいかと思います。

自身の心理パターンの変化は、ご自身では気づきにくいことがとても多いのですが、それが言動に現れて、周りの方が先に変化に気づくことが多いものです。

心のパターンの変化は、それに臨んでいると、カウンセリングの時だけではなく、日常のふとしたきっかけで起こることがよくあります。
自身のアンテナの感度が自然に上がってきて、今まで見過ごしていた事柄にも反応できるようになるのです。

問題解決は、右肩上がり直線的に進むのではなく、踊り場のある階段を登るようなものです。少し階段を上がり、踊り場で次のステップに進む心の準備をして、何かのきっかけでまた次の階段を登るといったことの繰り返しです。
焦らず、諦めず、自分の目的に向かって進まれることがいいのではないかと思います。

(完)

この記事を書いたカウンセラー

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恋愛や夫婦間の問題、家族関係、対人関係、自己変革、ビジネスや転職、お金に関する問題などあらゆるジャンルを得意とする。 どんなご相談にも全力投球で臨み、理論的側面と感覚的側面を駆使し、また豊富な社会経験をベースとして分かりやすく優しい語り口で問題解決へと導く。日本心理学会認定心理士。