病気が教えてくれたこと

私がガンになるなんて!
思ってもみなかったことです。

いえ、今や日本人なら2人に1人が何らかのガンになる時代だと言われています。
いつなっても不思議はないのですが、さすがにたとえ初期でも、ガン宣告されると衝撃を受けるものです。

病気になるのは決して良いことではありませんが、入院や手術から1年余りたった今、振り返ると病気を通して気づけたことも沢山ありました。
人が経験することのすべてには、意味があるんだなと思います。

“健康”が生活していくうえでとても大切だということは、誰しもよく分かっています。
けれど、どれほど良好な生活習慣を取り入れながら暮らしていても、病気になる時にはなってしまうようです。
私が舌ガンになった時もそうでした。
三度の食事に気をつけ、適度な運動を取り入れ、不摂生することなく過ごし、「ああ、私って健康的な生活してるわ。」と思っていたんです。

ところがある時、舌の左側面に違和感を感じました。
いつも、という訳ではありません。
キムチなどの刺激物を食べた時だけ、ピリピリするんです。

味覚としての辛さとは別に、舌の左側だけに痛みを感じるなんて、何かおかしい。
かと言って、鏡で見てみても表面上は何の異常も見当たりません。

普段の食事では何ともないので、そのうち治るだろうと様子をみることにしました。
それでも時々辛い物を食べると、思い出したようにピリピリ。
さすがに放置しているだけではダメだと感じ、重い腰を上げて診てもらう気になりました。

でも、何科に行けば良いんだろう?
自分の体に異常を感じていても、どの科で診療してもらったら良いのかは迷うところです。
大病院には、紹介状がないといきなりは行けないし。
ネットで調べると、口の中なので歯科もしくは耳鼻咽喉科となっていました。

最初は耳鼻咽喉科に行き、「口内炎」と診断され塗り薬を処方されました。
でも、口内炎なら2週間もすれば治るはずなのに一向に良くなりません。
やっぱり何か変だ。

今度は歯科の定期検診の時に、思い切ってかかりつけ医に言ってみました。
なぜ、思い切りが必要だったかというと、内心自分でも軽くみていたんです。
きっと大したことないはずなのに、大騒ぎしているように見られるのも恥ずかしかった、みたいな感じです。
おかしいでしょう?
とても大事なことなのに、軽く扱おうとしてしまう。

人には正常性バイアス、というものがあると言われています。
自分にとって不都合な情報を無視したり、過小評価してしまう特性のことを言うそうです。
そういえば災害の時などに、危険が迫っているのに根拠なく「私は大丈夫。」と楽観視して逃げ遅れ、被害に遭う人がいますが、この時の私の心理状態と当てはまるような気がします。
ともかく、歯科検診で症状を伝えたことで、ようやく大病院で検体検査するための紹介状を書いてもらうことが出来ました。

ちなみに私の場合、正しい診療科は「歯科口腔外科」です。
それまで「口腔外科」という科の認識が、まったくありませんでした。
今までお世話になることがなかったから、知らなかったんです。

結果は初期の舌ガン。
まさかの出来事が、本当になってしまった衝撃!
この時、私は感情のまま取り乱すというよりも、この期に及んで平気なフリをしようとしたのを、今もはっきり覚えています。

混乱する頭の中で駆け巡るのは、家族にかけてしまう心配や、キャンセルせざるを得ない今後の予定。
さすがにその日はもうろうとしていましたが、気持ちが落ち着いてくると少し冷静になれました。
こういう時は、事実を正しく受け入れていくしか仕方がありません。
誰が悪いのでも、何が悪いのでもない。

舌ガンといえば、あらゆるガンのうちで発症率は1〜2%だそうです。
症例が少ないということは誤診の可能性もあるわけで、耳鼻咽喉科で口内炎と診断されたのは致し方なかったのでしょう。

それよりも、まだ初期の状態で発見できてよかった!
手術すれば治る。
そちらに目を向けることにしました。

私が一番気になったのは滑舌です。
部分切除とは言え舌を切り取るわけですから、話すのにどのくらい支障が出るかはやってみない限りわかりません。
主治医は、この程度なら問題ないと言ってくれましたが、カウンセラーという職業柄、人との会話は非常に重要です。
ただ、祈り信じるのみ。
おかげさまで、手術から1か月後には仕事に復帰することが出来ました。
ありがたいことです。

ところで、内面的な気づき以上に痛感したのは食事の時の舌の働きです。
それまで舌の働きなんて、考えてみたこともありませんでしたから。
まず、口の中に食べ物がない時、舌は上あごにピタッとついています。
いつでもスタンバイOKなんです。

そして、食べ物が口に入ってくると噛みやすいようにせわしなく動き、歯と歯茎に挟まった食べかすを掃除しながら、のどに送り込んでくれているんです。
ところが今回、舌の左側面を切除した私にとってはそれが当たり前でなくなりました。
今の私は、会話するのには支障ありませんが、舌に欠如があるので食べ物が口いっぱいになると、なかなか咀嚼できません。
しかも慌てて食べると、舌が切除した左側にカーブしているので、うっかり噛んでしまうんです。
おかげさまでお上品に、少量ずつよく噛んで食べるようになりました。

舌が本来の機能通り使えるって、素晴らしいことなんだ。
少々不自由になってみて、初めて気付きました。
普段はまったく目立たない地味な存在の舌。
でも、どんなに働き者だったことか!

【自分の得られていたものに気づく】
これって、幸せへの第一歩ですよね。

病気もケガも、出来ることなら経験したくはありません。
けれど、どんな経験の中にも学びはあるものだということをつくづく感じます。
病気が教えてくれたことに感謝しつつ、これからの日々を心身ともに健やかに過ごせるようにと願っています。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

1957年生まれのシニア世代。 自身の豊富な人生経験を生かした、自分らしく生きていくためのサポートが好評を得る。 得意ジャンルは、対人関係・自己啓発・恋愛。 “何かを始めるのに遅すぎることはない”の言葉通り、いくつになっても新しい人生を切り開いていけることを、身をもって実践している。