インスピレーションの心理学〜デフォルトモードネットワークと考える癖〜

ボッーとする時間にインスピレーションが降りてくる

インスピレーションは瞬間的な脳や心の活動で、それまでの知識や経験等が集約されたものです。
最近の脳科学の研究で、知識や経験等の整理統合は脳の活動が安静状態に生じる“デフォルトモードネットワーク”により行われていることが見出されました。
一見無駄のように思えるボッーとする時間も大切ですね。

***

“インスピレーション”とは,直観,思いつき,ひらめき,(神の)啓示などを意味する言葉です。

何れも,落ち着いてゆっくりと考えて出される何かの結果や経過ではなく,瞬間的な脳の活動(心の活動)を意味します。

私は長く,技術系の開発研究の仕事に携わってきましたが,その過程で,ここを何とかすればこの技術はモノになるという課題にぶつかります。そしてその課題のブレークスルーがどうしても見つからなくて行き詰ることが度々ありました。

新技術開発の第一歩は,同じようなテーマの論文や科学雑誌の記事,特許を読み漁ることから始まります。世の中にはどのような技術があるのか,人はどのような技術開発を行っているのか,開発しようとしている技術は既に誰かが開発していないかをチェックをしたり,これから行おうとしている開発のヒントを得たりすることが目的です。

従って,既に調べられることはほとんど調べ尽くしていると言ってもいいくらいで,ブレークスルーの答えは調べれば容易に見つかるものではありません。逆に言えば,その課題のブレークスルーを見つけるからこそ,新しい技術なのです。

難問に突き当たると,その課題解決のため,様々な実験を行ったり,仲間にその結果をレビューして議論をしたりしますが,自分自身の中でもずっとその課題について考えるようになります。正に寝ても覚めても,食事をしている時も,そして夢の中でさえ答えを探し求める時間が続くのです。

しかし,そんな状況下でもなかなか容易に答えを見つけることはできません。枕元にメモ帳を置いて眠り,たまたま見た夢の中に答えを見出したような気がしてメモに書きとめ,翌朝にはそれが儚い夢と化すということを何度も何度も繰り返す日々が続く事もあります。

そうこうしているうちに,ふとした時に,突然に答えが舞い降りてくることがよくありました。しかも,それはその課題のことを余り意識していない時,例えば車を運転している時や,風呂にボーッと浸かっている時などにやって来ることが多いのです。

さて,昔から,アイデアがまとまったり,浮かんだりする状況を示した“三上(さんじょう)”と言う言葉があります。

三上とは,“枕上(ちんじょう)”“馬上(ばじょう)”“厠上(しじょう)”という3つ状況を指していて,「枕上」は布団の中で眠りにつく前,「馬上」とは乗り物に乗っている時,「厠上」とはトイレの中にいるときを意味します。

このような状況のとき,更に言えばある意味ボッーとしているような状況の中でこそ,インスピレーションが生じやすいといったことを表しているのですね。

このような現象について,脳科学の分野での脳内の血流に関する実験結果などから,それらのことを裏付けるような理論が見出されました。それは,“デフォルトモードネットワーク(DMN)”がインスピレーションに関係しているという理論です。

長年の間,私たちの脳は,何かを考えている時にのみ活発に活動し,考えていない時には余り活動していないと考えられてきました。

しかし,脳科学分野の実験結果によれば,実際は必ずしもそうではなく,デフォルトモード(安静時モード)の時にのみ活発に活動する脳の領域が複数あり,それらが脳の様々な神経活動を同期させるというものです。換言すれば,意識的な活動(例えば,考える,記憶する,経験するなど)で収集された様々な情報がデフォルトモード下で取り出され,統合整理されるというのです。

もちろん,それまで意識の中で考えたり,情報を収集したりという基礎的な事柄があってこそ,デフォルトモードネットワークによりそれを整理して閃きに結び付けることができるのですが・・・。

さて,これらのことをカウンセリングの立場から考えてみると,考える癖がある人は,考えないことに怖れを感じているため多くの時間を考えることに使い,デフォルトモードネットワークによる考えたことの整理統合の機会を少なくしているとも言えるのではないでしょうか。

加えて言えば,考える癖のある人には“焦り”がある人が多く,心に余裕が少なく,ボッーとしている時間を単に“無駄”と捉えている傾向があります。

考える癖のある人は,ぜひ視点を転換し,意図的にボッーとする時間をとられると,インスピレーションが降りてきて,“よりよい結論”が導き出せるかもしれませんね。

(完)

この記事を書いたカウンセラー

About Author

恋愛や夫婦間の問題、家族関係、対人関係、自己変革、ビジネスや転職、お金に関する問題などあらゆるジャンルを得意とする。 どんなご相談にも全力投球で臨み、理論的側面と感覚的側面を駆使し、また豊富な社会経験をベースとして分かりやすく優しい語り口で問題解決へと導く。日本心理学会認定心理士。