豊穣の土、木々は育み、そして花を咲かせる

「あら、ご存知なかったの?」
その人は静かに僕に向かって微笑んだ。
薔薇の栽培を趣味にしている、その人とは久しぶりの再会だった。
いつしか話題は、薔薇の花を咲かせる話題になっていった。
「薔薇を育て始めた頃はね、花を観るためにやっていたのよ」
薔薇はとてもデリケートな植物で、
美しい花を咲かせるためには、周囲の環境を整えないといけない。
土の状態、日当り、気温、風の向き
しかも、それは季節折々に違ってくる。
「真夏のかんかん照りの時なんかに外出してるとね、薔薇のことが気になってしかたがないのよ」
そうして育てているうちに、段々とわかるようになるの。
木の表情というものが。
木の顔色が。
毎日同じではない
木のご機嫌を伺う
年によって夏なら夏のあり方も違う
敏感にそれを感じ取って何をしてあげたらいいかを考えて処置をする。
植物を育てるようになって、
一週間単位で季節の変化を感じるようになったわ。
それからね、いい花を咲かせるためには、やっぱりいい土が必要。
「いい土っていうのはね、まるでショートケーキみたいにふかふかなのよ」
結果的にそれが良い花を咲かせる。
みている期間が長いだけ
手をかけただけきれいな花が咲く
「薔薇は、文句言ってくれないでしょう。ふふふ。」
どれだけ薔薇の木と、土と向き合うことができるか。
そう思うようになってからは、薔薇の木と土を整えることが楽しみになったの。
花はおまけの楽しみ、最後のご褒美みたいなものよ。
まるで、「心」の話を聞いているようだ。
僕はそう思った。
何か問題や課題があるとき、私たちはその直面している問題をなんとかしたいと思う。
例えば、仕事の成果がでない。パートナーができない。
どうして結果が出ないのか、いろいろな手段を使ってみたけど、うまくいかない。
そうしてカウンセリングの扉を叩いてやってこられる方とのお話の中で
原因を考えていく時、今ご相談にこられた時から、過去の出来事に遡っていくことが多い。
それは、生い立ちのところまで戻ることもしばしばだ。
今を薔薇の花に例えるなら、
過去の出来事は、薔薇の木に。
土は生まれた家族のようなものなのかもしれない。
今、花を咲かせようとしたら、花そのものに手をかけるだけでなく、
木に聞いてみる。
土に尋ねてみる。
そして、木が伸びやかに育つよう
木のために土を潤わせるよう
力を使ってみる。
けれど、心と薔薇には最大の違いがある。
それは、今からでも心の木や土は、豊かなものに変えることができる
花を咲かせることができるということだ。
そういう事例をいくつもカウンセリングをやらせていただく中で
伺ってきた。
夫婦の問題で悩まれた方を例に取れば、
自らのルーツを見つめ、癒していく中で、
向き合えなかった夫婦がお互いをきちんとみることができ
結果、
二人で生きていく選択をしても
お互い別々の道を歩いていく選択をしても
お互いが一番幸せな道を選んでいくことができる。
その時には、相手のことを尊重し思いやれる関係になっていることが多い。
そうした幸せという花を咲かせた方々は、必ずこう言われる
「やり直せないことってないのですね。」と。
現在と形は変わることがあっても、もう戻ることはないと思っていた相手への思いやりや、温かい気持ちは、戻ってきているのだ。
そのために必要なことは、
「どれだけ自分の源と向き合うことができるか」
なのだと思う。
僕たちカウンセラーができることは、
自分一人ではなかなかできない、向き合うためのお手伝いをさせていただくことなのだと思う。
誰もが、花のつぼみを持っている
冬の寒い中、なかなか咲かない花を待っている
もしかしたら咲かないかもしれない
そんな不安になる
けれど、その花は咲かせることができる
自分の葉に、幹に、土に
そこには止めるものもあれば
咲かせるものもあるのだ
誰にだって
もちろん、あなたも
その人は、冬の街頭で、僕に向かって最後にこう言った。
「真冬に咲く薔薇をご存知ですか?」
真冬に咲く薔薇はとても美しいんですよ。
とても深い色の花を咲かせるんです。
厳しい冬であればあるほど、それを乗り越えた薔薇は
きっと深く美しい花を咲かせるような気がした。
観たことがなかったその花を、今度観に行こうと思う。
special thanks : reiko
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この記事を書いたカウンセラー

About Author

名古屋を軸に東京・大阪・福岡でカウンセリング・講座講師を担当。男女関係の修復を中心に、仕事、自己価値UP等幅広いジャンルを扱う。 「親しみやすさ・安心感」と「心理分析の鋭さ・問題解決の提案力」を兼ね備えると評され、年間300件以上、10年以上で5千件超のカウンセリング実績持つ実践派。