比較が止まらない(3)〜“あの人みたいになりたい”の使い方〜

「あの人みたいになりたい」は、心が成長を始めたサイン

「あの人みたいになりたい」と思う気持ちは、嫉妬ではなく“可能性のサイン”かもしれません。
他人を眺めることで見えてくる“自分の中のまだ育っていない部分”。
この回では、憧れと嫉妬の心理を解説していきます。

「あの人、いいなあ」「私もあんなふうになれたら」。
そんな思いが浮かんだとき、胸がチクリと痛むことがあります。
その痛みを、私たちは“嫉妬”と呼び、どこか恥ずかしいもののように感じてしまう。
でも実は、それはあなたの中で“新しい可能性”が芽を出そうとしているサインかもしれません。

私たちは他人を見ながら、自分の中の価値を確かめています。
人と人を比べるのは自然なこと。
ただ、その比較を「評価」ではなく「発見」に変えられるかどうかが、心の成長の分かれ道なのかもしれません。

「あの人みたいになりたい」と思う気持ちは、自分の中に“まだ育っていない力”が眠っている証拠でもあります。
他人の姿に惹かれるのは、その中に“自分の未来のかけら”を見つけているからです。

ところが、私たちは憧れをうまく扱うことが苦手です。
「憧れ」と「嫉妬」は紙一重。
その差を分けるのは、「自分をどう見ているか」つまり、自己肯定感のあり方です。

嫉妬は、「自分にはない」と思うときに生まれます。
憧れは、「自分にもある」と信じられるときに育ちます。
同じ対象を見ていても、心の中の立ち位置が違うだけなのです。

たとえば、同僚のプレゼンがうまくいったとき。
「どうせ私なんて」と思えば嫉妬になり、
「私もあんなふうに伝えられるようになりたい」と思えば憧れに変わります。
この違いは、小さなようでいて、とても大きい。
どちらも自然な感情ですが、嫉妬のままにしておくと、自分のエネルギーを奪います。
一方で、憧れとして扱うと、エネルギーは外ではなく“内側”に戻ってきます。

心の中で嫉妬が湧いたとき、私たちはついそれを隠そうとします。
「そんなこと思うなんて小さい」と責めたり、
「別にうらやましくなんてない」と否定したり。
けれど、その感情を押し込めるほど、エネルギーはねじれていきます。
嫉妬は、あなたが“何を求めているか”を教えてくれる大切な感情。
抑えるのではなく、静かに見つめてみると、そこには意外な真実が隠れていることがあるのです。

誰かを見て「いいな」と思うとき、 実はその人が特別なわけではありません。
あなたの中にも同じ“素材”が眠っている。
ただ、まだその形を取っていないだけ。

他人の才能を見たとき、私たちは自分の中の可能性を“鏡越しに”見ているのです。
その鏡に映る姿を、自分の価値を下げる材料に使うのか、未来の自分を描くヒントに使うのか、それが選択です。

心理学では、こうした心の動きを「投影」と呼びます。
私たちは、見たくないものも、まだ気づいていない才能も、一度“他人”というスクリーンに映して確認します。
「羨ましい」「腹が立つ」といった感情は、自分の中の“未開拓の部分”が反応している証なのです。

つまり、誰かを羨ましく思うのは、その人が“あなたに足りないもの”を持っているからではなく、“あなたがすでに持っているものを、まだ使えていないから”。

そう考えると、他人の存在がまったく違って見えてきます。
比較の対象ではなく、あなたの中の光を思い出させる存在になるのです。

とはいえ、「あの人みたいになりたい」という思いが、焦りや無力感に変わることもあります。
そのときに必要なのは、「同じ形にならなくていい」という視点です。

他人の生き方は、その人の環境・性格・価値観の上に築かれたもの。
あなたが同じことをしてもうまくいかないのは、能力がないからではなく、“地図”が違うからです。
大切なのは、他人の形を真似ることではなく、その人の中にある“本質”を自分なりに受け取ること。

たとえば、「あの人はいつも堂々としている」と感じたなら、“堂々と見せる方法”を学ぶのではなく、“自分が安心して立っていられる場所”を探してみる。
そうやって憧れを“比較の対象”ではなく、“自分の方向づけ”として使うと、心が穏やかに動き出します。

他人を見て落ち込むのではなく、他人を通して自分の可能性を見つける。
この視点を持てたとき、比較の痛みは癒えていきます。

「あの人みたいになりたい」は、あなたの中で“まだ眠っている力”が小さく手を挙げた瞬間。
その声を責めずに、「そうなりたい自分がいるんだね」とやさしく受け取ってあげてください。

他人の光を見て、自分を小さく感じるのではなく、「私の中にも光がある」と思い出すこと。
それが、憧れをエネルギーに変える出発点なのです。

そして気づけば、あなた自身も、誰かにとっての“憧れ”になっているかもしれません。
憧れは、誰かのものを奪う感情ではなく、“可能性を循環させる感情”なのです。

自分の中の芽を、他人の光で見つけて育てる。
そのプロセスが、比較の世界にあふれる痛みを、少しずつ、希望に変えていきます。

(続)

心理学講座4回シリーズ/同シリーズ記事はこちら
    1. 比較が止まらない(1)〜比べずにいられない心理〜
    2. 比較が止まらない(2)〜SNS時代の劣等感と自己価値〜
    3. 比較が止まらない(3)〜“あの人みたいになりたい”の使い方〜
    4. 比較が止まらない(4)〜比べても揺れない自分へ〜
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この記事を書いたカウンセラー

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