あのころから変わらない愛

私には一歳違いの妹がいます。
普段妹は私のことを「ようちゃん」と呼ぶんですが、一緒にご飯を食べに行ったときだけ違う呼び方をするんです。

お会計するとき、「お姉ちゃん、ありがとう」にこー、ってするんです。
このときだけ「お姉ちゃん」って呼ぶんですね。
ちゃっかりチャーミングな妹の笑顔にまんまとひっかかり、なぜか嬉しくなってご馳走してしまう私なんです。

妹は3歳と4歳のときに2回手術を受けています。
当時の妹は、物をつかんだりするときに手に痛みがあったため握力が無く、食事や着替えなど介助が必要でした。
手術後も痛みを和らげるために、母がいつも妹を抱っこして手をマッサージしていたことを覚えています。

私はいつも少し離れたところから、母と妹のことを見ていました。
母の手を煩わせてはいけないと、甘えたい自分を隠し、見ていてほしい寂しさを感じている自分を隠してきました。
我慢することで、私は家族の役に立とうとしてきました。

妹は年齢の割に体つきが小さく、私と年子に見られることはありませんでした。
家族の中でいつも笑いを取って楽しませてくれる、マスコットのような存在の小さくてかわいい妹。
そんな妹に、私は母を譲ってあげたかったんです。

あれからずいぶん時が経ちました。
おかげさまで妹は、今は元気に不自由なく暮らしています。
両親も歳をとりました。
父は骨折して入院していて半年になります。
実家に入ってくれている妹には、父のことも母のことも任せっきりになってしまっています。

妹から、今日はお父さんのことで書類を出しに行くよとか、お母さんのワクチン接種に付き添ってくるね、病院に着替えを持って行ったよと、メールが届きます。

その度に、申し訳ない思いが私の心をチクチク刺激します。
つい「いつもごめんね」と言いたくなるのです。
「私に何かできることない?帰った方がいい?何か送ろうか」私が何度そう言っても、「こっちは大丈夫だから」と妹は言うんです。

少し前に妹と話していたときのこと。
私が「今でもときどき、お母さんに抱っこして欲しかったって思いが、上がってくることがあるんだよね」と言ったところ、
それを聞いた妹は、「あのころ、お母さんは私のことが一番好きなんだと思ってた」と話してくれました。
同じ家で育った姉妹でも、母への思いは全然違っていました。

幼い妹が、母は自分のことを一番好きだと感じていたとしたら。
妹は、自分が母を独占していることを、幼いながらに私に申し訳ないと感じていたのかもしれません。
私が一人で寂しそうにしていたことも、もしかしたら気がついていたのかもしれない。

痛みがある中、妹が笑いを取って家族を楽しませようとしていたのは、それが自分の役目だと思ってやっていたのでは?
笑顔にしたかったのは、もしかして私のことだったの?
そんな思いが突然下りてきました。
無邪気に笑っていただけの妹ではなかったんです。

家のことは私がやるから大丈夫、と言ってくれるのも、幼いころからの私への気遣いからなのだと感じました。
私が今、両親のことで妹に申し訳なく感じている気持ちと同じように、幼かった妹も私に対して申し訳なく感じていたのでは、と思ったんです。

私が実家を離れてから、20数年が経ちます。
ずっと妹は両親のそばを離れず、今は同居をしてくれています。
ときどき愚痴を言いながらも、両親の面倒を見てくれています。

妹の「こっちは大丈夫だから」の言葉の奥から、「あのときようちゃんは私のためにがんばってくれたから、今度は私が家のことをするね。ようちゃんは好きなことしてて。」そんな声が聞こえてきました。
一人で寂しかったあのころの私に、言ってくれているようにも聞こえました。

妹が生まれて私たちが姉妹になったときから、もしかしたら生まれてくる前からもずっと、こうやってお互いのことを思いやってきたのかもしれないと思いました。

誰かを助けたい、力になりたいという思いは、愛しているからなんだと思うんです。
あのときにはわからなかった、自分のことを思ってくれている愛に触れて、私の心は今とても温かいんです。

幼い妹がきっと私に笑っていて欲しかったように、私も妹に笑っていて欲しい。
私が好きなことをしてイキイキすることで、妹も、そして両親のことも笑顔にしてあげられるのではと今は思えるんです。

今でもあのころと変わらず、私の妹はかわいらしくてとてもチャーミングです。
私の妹でいてくれて本当にありがとう。
あなたのお姉ちゃんに生まれてこれてよかった。
またご飯食べに行こうね、もちろんご馳走するから。
愛する大切な妹に、今度はそう伝えようと思います。

あなたが誰かを思う愛は、きっとその大切な人の心に届くと思います。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

「私にはなんの魅力も価値もない」と自己嫌悪し、自分を隠してきた生きづらさを乗り越えたことから、お客さまの中に隠れている魅力や才能を引き出し、本来の自分らしさを取り戻すことを大切にしている。 やわらかな雰囲気を持ち、どんなことでもやさしく受けとめてもらえた、前向きになれる、と好評である。