■愛を届けることが難しく感じる時がある
人生では、与える姿勢でいることが困難な時があります。
しかし、そんな時でも与える姿勢でいることによって、あなたに愛がやってくることがあります。
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■優しさが裏目に出ることもある
例えを使って説明しますね。
ある女性が、老人ホームで介護の仕事をしていたとします。
新しく入ってきた利用者さんに、この施設になじんでもらえるように、親切心で声をかけたとします。
「ここの施設に来てみて、知り合いとかできましたか?」
「ここの施設のことで、わからないことはありませんか?」
と、いろいろと気遣いながら言葉をかけてみたのです。
でも、返ってくるのは、昔の沢尻エリカさんの舞台挨拶のような不機嫌な顔で、「別に…」という返事だけ。
そんな利用者さんと出会ったとします。
それでも、利用者さんになじんでもらおうと思って、親切心を持ってたくさん話しかけたら、後日、施設の事務所にクレームが入るんです。
「詮索されているようで嫌だった」と。
そのクレームの話を聞いた彼女は、
「もしかして、あまり質問しないほうがいいのかな…」
と思って、あまり話しかけないようにしていたら、今度はまた別のクレームがくるんです。
「施設のスタッフは声もかけてくれず、不親切だ」と。
その話を事務所から聞いて、もう彼女としてはどう接していいかわからなくなってしまいます。
親切に接しても文句を言われ、親切心を持って接するのが困難な状態です。
こんな状況が続くと、「もうどうしたらいいのかわからない」と感じてしまいますよね。
あなたなら、こんな時どうしますか?
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例えば・・・
•契約上のサービスは提供するけど、それ以上の親切心や善意で接するのはやめておこう。
•文句を言われると凹むから、他の職員さんに任せて、できるだけ関わらないようにしよう。
•この利用者が居心地よく過ごせるよう、それでも親切に接したい。
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いろんな選択肢がありますね。
どの選択をしても、間違いではありません。
それぞれに、気持ちを守ろうとする理由がきっとあるのです。
無理のない範囲で、あなたが選べるやり方を大切にされるといいと思います。
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■それでも愛を差し出した彼女が手にした”愛の投影”
この彼女は、「この利用者が居心地よく過ごせるよう、できるだけ親切にしてあげたい」と思ったとします。
それは、親切心(愛)を与える選択と言えます。
彼女は、
「こんな利用者さんの対応なんて、マニュアルには書いてなかったぞ。どうすればいいんだろう…?」
と、脳みそに油汗をかきながら、
「この人が居心地よくこの施設で生活できるようにするには、どうしたらいいんだろう」
と一生懸命考えたとします。
話しかけるときも、「これでまたクレームにならないかな…」と心臓をバクバクさせながら、
それでも「この施設が居心地の良い場所になってもらいたい」と思って話しかけるのです。
そんなふうに、与える姿勢で接していると、思わぬ形で愛を感じる体験が返ってくることがあります。
たとえば――
「私が習い事の教室に通い始めたとき、話しかけてくれたスタッフさんがいたけど、その人も、脳みそに油汗をかきながら、心臓をバクバクさせながら、居心地よくしてもらいたいと思って私に接してくれたのかもしれないなぁ…」
とふと思い、
「私のために頑張ってくれてたのかもしれないなぁ」
と感じて、愛が湧いてくるような思いになるんです。
自分が親切心(愛)を持って接した体験を、他の人にも投影して感じられるようになるのです。
愛を与えると、愛が返ってくるような感じ方になりやすくなるんですね。
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■広がっていく“愛の投影”
そんな感じ方ができてくると、スタッフと顧客という関係だけではなく、社会のさまざまな関係にも投影されていきます。
たとえば、彼女はこんなふうに感じるかもしれません。
・パートナーに対して…
私はパートナーに「そんな愛し方気に入らん」とか、「あなたは何もしてくれない」って、不満ばっかり思ってたけど、
彼はそれでも、一生懸命頑張って私のことを愛そうとしてくれてたのかもしれないなぁ…と感じたりします。
・両親に対して…
私は思春期のときに親に反発して、文句ばっかり言ってたけど、
お父さんもお母さんも、私に対して「もうどう接していいかわからない…」という思いを抱えながらも、愛してくれていたのかもしれない。
そう思うと、愛を感じたりするんです。
・ボランティア活動をしている人を見て…
小学生の通学路で旗を持って立ち、子どもたちが安全に横断歩道を渡れるよう見守っているボランティアのおじさんを見て、
「無償で頑張っても文句を言われたりするんだろうなぁ」と思ったとします。
そして、「それでも子どもたちが無事に登校できるように!という思いで、あのおじさんは頑張ってるんやろなぁ」と、
自分の体験を投影して、「人間っていいなぁ」と一人感動したりするんです。
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■与えることで、自分の世界がやさしくなる
本当のところ、相手がどんな思いだったのか――
その真実は、相手に聞いてみないとわかりません。
でも、困難な状況でも自分が「与えよう」とする姿勢を持つと、
その心のあり方が、世界の見え方にも影響を与えていきます。
社会全体が少し優しく、温かく感じられるようになるのです。
それは、あなたが「愛を感じながら生きる人生」を送ることにつながっていくでしょう。
時には、与えたいと思っていても、心が疲れていたり、余裕がなかったりするときは、そう簡単にできるものではありませんよね。
もしかしたら、読者の中にも、パートナーシップで、親子関係で、友人関係で、職場の人間関係で、そんな状況になっている方もいらっしゃるかもしれません。
そういう時は、与えたいのに与えられないご自身を責めないでくださいね。
そんなときは、まずはあなた自身を癒すことが必要なのかもしれません。
その上で、
もしあなたが、「与える」という姿勢が、愛を感じながら生きやすい心を育ててくれるかもしれない――そんな可能性に少しでも心が動いたなら、あなたのペースで、できる範囲からチャレンジしてみてはいかがでしょう。
あなたの与える愛が、めぐりめぐって、あなたの世界をやさしく照らしますように。
(続)