犠牲ではなく、愛から与えることが心の豊かさにつながります。
■物理的法則と心の法則の違い
世の中の多くのものは、「あげれば減る」という性質を持っています。
たとえば、彼女の誕生日にプレゼントを買ってあげたとしましょう。
買い物をした分、お金は減ります。まさに「あげれば減る」です。
けれど、不思議なことに、心は少しあたたかくなっていたりします。
あるいは、子どもが「ディズニーランドに行きたい」と言っていたので、予定を調整して連れて行ってあげたとします。
チケット代や交通費でお金は減っていきますが、なぜか心には満たされた感覚が残ります。
このように、物理的なものは与えると減っていきますが、あたたかさ・満足感・心地よさ・喜び・幸福感といった“心のもの”は、与えるほどに私たち自身の内側が豊かになっていく──そんな逆説的な「心の法則」が、私たちには備わっているのです。
つまり、「与える意識をもって人と関わること」は、あなたがあたたかさ・満足感・心地よさ・喜び・幸福感といった感情に出会う機会を増やしていく、大切な人生の“手法”でもあるのです。
そして、そのような感情に出会う機会が増えていくだけでなく、あなたの持つ愛や思いやりも、より育ち、増えていくことでしょう。
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■与えると、恩恵がめぐってくることがある
人は、自分に良い感情を与えてくれる人のことを好きになるものです。
たとえば、パートナーが数日間の出張から帰ってくる日に、あなたがねぎらってあげたいと思ったとします。
「おかえり、疲れてない?」「ゆっくりできるように、お風呂わかしておいたよ」と声をかけたり、好物の飲み物を冷蔵庫に用意しておく。
そんなねぎらいは、まさに“与える”行為のひとつです。
そのちょっとした気遣いに、パートナーは「この人ってやっぱりいいな」と、改めてあなたへの愛しさを感じるかもしれません。
そして数日後、あなたが仕事で遅くなった日──
「この前はありがとう。今日は僕が夕飯つくって待ってるよ」
あるいは、「疲れてるでしょ。今夜は片づけもお風呂も全部任せて」と、やさしさを返してくれることもあるでしょう。
このように、“与える”という行為は相手の心をあたため、そのぬくもりが巡り巡って、あなた自身にも返ってくることがあります。
もちろん、見返りを期待して与えるのではありません。
でも、人間関係の中では「好意の循環」が生まれやすいものです。
あなたが与えた結果、誰かの心をあたため、それが恩恵として返ってくる──
そんな好循環は、けっして珍しいことではないのです。
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■犠牲をせずに与えるということ
ここで、一つとても大切なことをお伝えしたいのですが…。
“与える”という行為が、もし「犠牲」のうえに成り立っているとしたら、それは心を豊かにするどころか、むしろあなた自身を消耗させてしまいます。
犠牲とは、「本当は嫌だ」「したくない」と感じている自分の気持ちに蓋をして、相手のために何かをすることです。
たとえば、本当は疲れていて休みたいのに、「嫌われたくない」「断ったら申し訳ない」という気持ちから無理してパートナーを夜中に迎えに行く。
「ありがとう」と言ってもらえたとしても、心のどこかにモヤモヤが残ってしまうことはありませんか?
心から与えられているときには、「体は疲れていたけど、迎えに行ってよかったなー」と、充実感や満足感、喜びで心が満たされやすいものです。
しかし、そうした犠牲の行動を続けていると、だんだん相手との関係が苦しくなってきます。
「また私が我慢しなきゃいけないの?」
「こんなに頑張っているのに、どうしてわかってくれないの?」
犠牲感が募ると、相手に怒りを覚えたり、犠牲をともなう関係に距離を取りたくなってしまうものです。
さらに、「私はこれだけ犠牲を払っているんだから、あなたも同じくらい返してよね」と、相手にも犠牲を求めてしまうことすらあります。
こうして、犠牲をともないながら与えたものは、与えてはいるのですが心を豊かにはしてくれません。
冒頭で述べた「与えるほど心は豊かになる」とは逆に、心がすり減ってしまうのです。
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■自分に問いかけてみよう:「犠牲」ではなく「愛から与えている」か?
では、どうすれば“犠牲のない与え方”ができるのでしょうか?
そのヒントは、自分に問いかけることです。
•私は、心から与えようと思っている?
•嫌われたくないとか、冷たいと思われたくないという不安で動いていない?
•この行動をしたあと、あたたかな気持ちが残りそう?
•どこかで、“見返り”を求めてしまっていない?
こうした問いを自分に投げかけることで、「愛から与えているのか、それとも犠牲からなのか」を見極めるヒントになるはずです。
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■与えることから始まる豊かさ
「与える」と聞くと、大きなことをしなければいけないような気がするかもしれません。
けれど、そんな必要はありません。ほんの小さなことで、誰かに与えることはできるのです。
たとえば──
•頑張っている友だちに「応援してるよ」と伝える
•お疲れ気味なパートナーに「今日はゆっくりしてていいよ」と家事を引き受ける
•母の日・父の日に感謝の手紙を送る
•パートナーの好きなお菓子や飲み物を、ふと思い出して買っておく
•お出かけのさい、家族の喜ぶ顔を思い浮かべながらお土産を買って帰る
こうしたちょっとした“与える”姿勢でいることが、あなたがあたたかさ・満足感・心地よさ・喜び・幸福感といった感情に出会う機会を増やすことにつながるでしょう。
与えることは、誰かの笑顔をつくるだけでなく、あなた自身の幸福度を高める行為でもあるのです。
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■自分にも与えてあげよう
そして最後にもうひとつ、大切なことを。
誰かに与えることと同じくらい、「自分にも与える意識」を持つことをおすすめしたいのです。
たとえば、自分に休息を与える。
頑張った自分をねぎらうために、おいしいものをご褒美にする。
静かな時間をつくって、心をゆるめてあげる。
自分が満たされていると、心に余裕が生まれます。
逆に、自分が枯れている状態では、他人に与えることが難しくなってしまいます。
あなたが“自分にも与えられる人”でいることは、あなたの大切な人に“より良い形で与える”ことにもつながっていくはずです。
今日、ほんのひとつだけでも。
まずは、自分に、もしくは誰かに小さな「与える」をしてみてはいかがでしょうか?
「与える」という手法が、あなたの人生をより豊かにしてくれることを祈っています。
(完)