農家の一人娘

結婚を決断しなければいけない年齢になってきた彼女は・・・

こんばんは。

神戸メンタルサービスの平です。

彼女は、とある田舎の大きな農家の一人娘です。

代々続いてきた農家であり、地元では名士でもある家の跡とり娘なのですが、いまどきは当然ながら、こんな大きな農家に婿養子に行こうなどという男性はいません。

何度か恋愛もして、一度はその気になってくれたボーイフレンドもいました。

が、彼女の家の農地は非常に広く、時間的にも手間的にもサラリーマンと兼業で営むのは無理だということで、その話は立ち消えてしまったのです。

いまや、日本の農業は非常にわりの悪い仕事だといわれています。

トラクターや田植機はクルマ並みの値段がするのに、実際のところ、1年に10日も使いません。一方、お米の売り値は1俵1万円ほどで、彼女の家のような大きな農家でも、出荷できるのは200俵ほどなのです。

つまり、現代の農業は、200万円を稼ぐのに、経費が150万円ほどかかるような仕事なのですね。

さらにいえば、その50万円の利益のために、ものすごい重労働が要求されるので、いまさら農業に就こうなどと思う人はめったにいないわけです。

それでは、日本の平均的な農家はほとんどが赤字だというのに、なぜ、営農を続けているのか?

それは、ご先祖様から引き継いだ農地を荒らすことはできないという思いがあるからです。ただその思いのために、必死に守っているのです。

そんな背景もあり、現世代を最後に農家が廃業してしまったとしたら、日本の米農家の8割が消滅してしまうと言われているのが現状なのです。

お話がそれましたが、今回のご相談者の彼女は35歳。決断しなければいけない年齢になってきていました。

いちばんよいのは、彼女の家に婿養子に来てくれる男性がいることです。

しかし、そんな人と巡り会わぬまま、子どもを生める年齢を越えてしまったとしたら、代々続いた彼女の家の農業は、この代で廃業せざるを得ません。

廃業は、彼女にとって大きな罪悪感を感じることといえます。

また、家を継ぐことをあきらめ、町に嫁に行ったとしても、そこには大きな罪悪感を伴いますので、彼女は決断ができなくなっているわけです。

といっても、彼女の両親や親戚は、彼女の幸せを第一に考え、「家のことは考えず、いい人がいたら嫁に行け」と言ってくれています。

が、そう言われれば言われるほど、彼女の心はかたくなになっていくのです。

そんな彼女が、最近、ある男性と親しくなりました。彼はなんと、隣町の農家の一人息子です。

つまり、彼女は婿に来てもらいたいのですが、むこうもむこうで嫁をもらいたい立場であるわけですね。

しかしながら、彼女としては、これが最後のチャンスだという思いもあり、藁をもつかむ思いで私どもに相談におみえになったわけです。

私は彼女にこんな話をしてみました。

「あなたのおうちが100%途絶えてしまうのは、あなたが結婚せずに、子どもをもたなかった場合ですよね。

でも、あなたが嫁に行っても、いまははだれも反対しない状況ですから、すべての人は家を出ることを選択すべきだと言うでしょうね。

それをしない理由はなんなのですか?」

「でも‥‥、だって‥‥」

彼女の心の中には、農家の廃業や家を出ることに対する罪悪感のほかに、もう一つの思いがあったのでした。

それは、「もしも、自分が一人娘を生んで、その娘が私と同じような思いをするとしたら、かわいそうすぎる‥‥」というものです。

「わが子にそんな思いをさせることになるぐらいなら、私がすべてを引き受けて、この家を途絶えさせたほうがいい」、そんな決断をしようとしていたのです。

しかし、この話はハッピーエンドに終わります。

彼女は、彼の家に嫁に行きました。

彼が、自分の家の農地と彼女の家の農地の両方を見てくれることとなったのです。

もちろん、彼一人でそれほど大きな農地を耕していくことはできません。

しかし、近年は廃業によって手をかける人いなくなった農地を、農業組合のようなものをつくって大規模農場のようにして、力を合わせて耕作地を守っていこうという動きがあるのです。

二人もその流れに上手に乗り、そして、将来的には彼の家が、彼女の家の土地や先祖代々のお墓の面倒も見るということで、この話がまとまったのです。

この記事を書いたカウンセラー

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神戸メンタルサービス/カウンセリングサービス代表。 恋愛、ビジネス、家族、人生で起こるありとあらゆる問題に心理学を応用し問題を解決に導く。年間60回以上のグループ・セラピーと、約4万件の個人カウンセリングを行う実践派。 100名規模のグループワークをリードできる数少ない日本人のセラピストの1人。