湯布院のあぜ道

 僕がカウンセラーになろうと思ったのは、以前に務めていた会社で仕事に完全に行き詰まってしまい、仕事を辞めようと考えた時が始まりでした。
 心理学を学んだ今から思えば、仕事を辞めようと思ったのは、当時の仕事から逃げたかったからだと思います。
 でも、その頃の僕に、それがわかるはずもなく、当時は本気で仕事をやめて、新しい何かをはじめるんだ、と思っていました。
 新しい何か、というのがカウンセラーになることでした。
 でも、ただ漠然とカウンセラーになりたい、とだけ思っていて何も目処が立っていませんでした。
 そして、仕事を辞めるという話を奥さんにしたのもこの頃です。
 その頃、僕たち夫婦には子どももいなくて、奥さんと共働きでした。
 そのことも理由だったのでしょう。
 反対されるかと思っていたら、いいよ、とあっさり賛成されて、拍子抜けしたことを思い出します。
 実は、当時の僕の不安定さや苦しみを毎日、直に見ていた奥さんにとっては、「いいよ」と僕の気持ちを受容するしか、方法はなかったのだと思います。
 そんなさなか、僕たちは「湯布院」に旅行に行く事にしたのです。
 なぜ、湯布院だったのか、覚えていないのですが、せっかく旅行に行くのだから、遠方でゆっくりできる素敵なところに行きたいと僕は考えていました。
 湯布院には行ったことがなかったし、雰囲気と温泉のよさをみて、僕が目的地を決めました。
 今から思うと、できるだけ地元から離れて、現実を感じさせないような場所に行きたかったのでしょう。
 それくらい切羽詰まっていたし、その当時の自分を取り巻く状況から離れたかったのだと思います。
 さて、湯布院に到着して、いろんなお店を見て歩いたのですが、その中で、たまたま入ったお店の人と仲良くなりました。
 その人は、地元で昔からお店を開いている方で、なぜか話が盛り上がりました。
 その方から「本当の湯布院の良さは、繁華街にはない。少し離れた何もない自然のあるところを歩いてみて。それがこの町の昔ながらの本当の良いところだから」と言われました。
 そこで、僕たちはにぎやかな街を離れたところを歩くことにしたのです。
 しばらくして、僕たちは、一本の田んぼ道を歩いていました。
 ちょうど稲が穂をつけて、収穫を待っているときで、そこを何も考えずに二人並んで、ぼんやり歩いて行きました。
 人が誰もいない、どこまでも続く田んぼ道でした。
 風が頬を触れて通り過ぎ、頭を垂らした稲穂が金色に輝き、空はどこまでも青く。
 
 そのうち、なんだか、金色の稲穂に包まれているような気持ちになりました。
  
 稲穂に包まれているような気持ちのまま歩くうちに、何を悩んでいたのだろう、そんな不思議な感じがしてきました。
 何かに行き詰まったり、大きな問題に直面したりすると、人の心はそのことで一杯になってしまいます。
 そんな時に自分が欲しいのは、当然なんですが、抱えている問題を解決する方法なんですね。
 人の心をコップに例えるなら、そうした状況の時、心のコップには水が一杯になってしまい、今にもあふれそうな状態になっているようなものです。
 そんなあふれんばかりの余裕のない時には、いろんなアドバイスを聞いても、アドバイスすら受け止める余裕がないことがあります。
 そんな時には、解決方法の前に、あふれそうになっている、その余裕のなさを少しでも減らすことが効果的なことがあるのです。
 心のコップの水を減らしてあげると、減った分だけ、心に何かを入れる余裕が生まれます。
 その余裕が、何か現状打破のヒントを思いついたり、誰かのアドバイスを受け止めたりする力を生みます。
 行き詰まった時こそ、自分の心をリラックスさせることに意識を向けてみてください。
 リラックスする方法には、「自然に触れる」「音楽を聴く」「お湯につかる」「匂いをつかう(お香やアロマ)」「掃除をする」など、いろんな方法があります。
 今回は、何もなくてもできる、簡単なイメージを使ったやり方をご紹介したいと思います。
  目を閉じ、深く深呼吸をくり返します。
  息を吸う時にはキラキラした空気を吸い込むようにイメージしてください。
  息を吐く時には辛い思いが出ていくようにイメージして吐き出しましょう。
  
  次に自分の体を光のカーテンが包んでいくようにイメージします。
  温かくて優しい光のカーテンが、あなたの身体を包んでいくところをイメージしてみましょう。
  しばらくの間、ただ、その温かくて優しい光のカーテンに包まれ続けてください。
  自分のタイミングで、元のところに戻って行きます。
  深く深呼吸をくり返し、ゆっくり目を開けましょう。
 心をリラックスさせ、余裕をもたせることで、今まで自分がどれだけがんばってきたか、を知ることにもなります。
 今までこれだけがんばってきた自分をほめてあげましょう。
 こうしたことができると、今までより少しは余裕を持つ事ができます。
 湯布院のあぜ道で、僕が体験したのは、これと同じ事だったように思います。
 あのあぜ道を、何も考えないで歩いたことが、旅行から帰ってきた僕の心に少し余裕を持たせ、結局は仕事を辞めずに働き続ける事ができました。
 そして、実際にカウンセラーになるために行動を起こそうと思いました。
 大学院を受験する方法を調べたり、「カウンセリングサービス」の母体である「神戸メンタルサービス」のカウンセリング養成スクールのパンフを取り寄せたり。
 思い悩んでいるだけでなく、具体的に動き出したことが、今の僕を作るきっかけになりました。
 もしかすると、あの時、湯布院のあぜ道を歩いていなければ、今の僕はなかったかもしれません。
池尾昌紀のプロフィールへ>>>

この記事を書いたカウンセラー

About Author

池尾 昌紀

名古屋を軸に東京・大阪・福岡でカウンセリング・講座講師を担当。男女関係の修復を中心に、仕事、自己価値UP等幅広いジャンルを扱う。 「親しみやすさ・安心感」と「心理分析の鋭さ・問題解決の提案力」を兼ね備えると評され、年間300件以上、10年以上で5千件超のカウンセリング実績持つ実践派。

1件のコメント