誰にも嫌われない人が、なぜ誰の「一番」にもなれないのか

「誰にも嫌われたくない」という思いから、過剰に気を遣ってしまう人は少なくありません。
その優しさは一見美徳のように見えますが、心理的には「防衛」として働いており、他者との真のつながりや、自分らしさを見失う原因にもなります。本講座では、そうした心の動きを心理学の観点から読み解き、自分らしく人と関わるためのヒントを探ります。

傷つけない人になろうとして、自分を傷つける人になっていた

◆やさしさという名の防衛

人に嫌われないようにする優しさは、幼少期の経験にルーツがあることが多く、心理学では「防衛機制」として解釈されます。たとえば、幼いころに親から感情を否定された経験があると、「感情を出すと受け入れてもらえない」と学びます。そしてその代わりに、他人の期待に応えることを習慣化し、良い子でいようとする戦略を無意識に身につけてしまうのです。

こうした「やさしさ」は、他人にとっては心地よいものかもしれません。しかし、それが本人の気持ちを置き去りにする形で続くと、やがては心の疲弊や孤独感につながっていきます。表面的には円滑な人間関係を築いているようでも、自分の輪郭がどんどん曖昧になり、「本当の私はどこにいるのか」と感じるようになるのです。

◆表面的な関係性と孤独のジレンマ

「いい人」「優しい人」と呼ばれることは、社会的には評価されやすいものです。しかし、その評価の裏には「都合のいい人」「自己主張しない人」というレッテルが隠れていることもあります。自分を犠牲にしてまで相手に合わせることは、結果的に深い関係を築くことを妨げます。

心理学的に見ると、これは「回避的愛着スタイル」との関連がある可能性もあります。自分をさらけ出すことへの恐れから、安全な距離を保とうとする。しかし、距離を保ちつつもつながりを求めてしまう。このジレンマが、人間関係の中での孤独感を強めてしまうのです。

やがて、「私は誰からも必要とされていないのではないか」「好かれてはいるけれど、誰の特別にもなれない」という実感が強くなり、自尊心が揺らいでいくという悪循環に陥ります。

◆わがままと誠実さの違いを知る

本音を伝えることに罪悪感を抱く人は、自分の感情表現を「わがまま」と捉えてしまう傾向があります。しかし、心理的な健全性において重要なのは、「誠実さ=自分の感情に正直であること」です。

自分を押し殺して他人を優先する生き方では、自分のニーズが満たされず、いつしか感情の枯渇が起こります。すると、他者への優しさすら形式的になってしまい、かえって関係がぎくしゃくすることもあるのです。

自分の内側にある「不快・嫌悪・希望・願望」といった感情を否定せずに認めることが、心の健康を守る土台となります。それは、自己中心的になることとはまったく異なり、むしろ長期的に良質な関係性を築くための条件とも言えます。

◆他者評価からの脱却

「誰かに選ばれたい」「必要とされたい」と思う気持ちは、誰にでもあります。しかし、他者に評価されることを目的に生きていると、そこには永遠に満たされない渇きが残ります。なぜなら、評価はコントロールできない外的要因であり、それに依存する限り、自己肯定感は不安定になるからです。

だからこそ重要なのは、「自分が自分をどう見るか」という視点。これは心理学でいう「内的基準」を育てることでもあります。他者の基準で生きるのではなく、自分の価値観・感情・願望に耳を傾けることで、自分自身との信頼関係が築かれていきます。

本音を生きるとは、リスクを取ることでもあります。嫌われる可能性があるという現実を受け入れながらも、自分の感情や選択に責任を持つ姿勢は、強さと優しさを兼ね備えた自己肯定の証です。

◆自分の感情に責任をもつ

心理的に自立している人は、自分の価値を他者の評価に依存しません。それは、孤立や自己中心的とは違い、「自分の感情に責任をもつこと」ができている状態です。相手を変えようとはせず、自分の反応や選択を見つめることができる人は、人との関係においても落ち着きと深みをもたらします。

そして、そのような人こそ、最終的には信頼され、選ばれていくものです。誰にでも優しくあろうとする人よりも、自分の価値観に誠実に生きている人の方が、結果として魅力的に映るのはそのためです。

心理的自立は、生き方の軸を「他人中心」から「自分中心」へと戻すプロセスでもあります。それは、わがままなことではなく、人生を他人任せにしないという意志の表れなのです。それこそが、自分の感情に責任をもっている状態です。

◆誰かの一番になることよりも、自分の一番になること

誰にも嫌われないために身につけた優しさは、これまでのあなたを守ってきた大切なスキルでもあります。けれど、その優しさが自分を削るものになっているなら、一度立ち止まって見直してみる必要があるかもしれません。

これからは、誰かの一番になることよりも、自分の一番になることを選んでください。それは他人に好かれることよりも、自分に好かれることを意味します。自分にすら嫌われる自分を、人には好きになってもらいたいというのは、じつは矛盾しているのです。

本音を無視せず、感情に誠実に、責任を持って生きていくこと。そこには、深いつながりと、揺るがない自己肯定が待っているはずです。

(完)

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この記事を書いたカウンセラー

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失恋からの立ち直り、都合のいい女からの卒業、本気の婚活、浮気や離婚問題を乗り越える、夫婦関係の修復、離婚から再出発など、恋愛&男女関係の相談が多く、恋愛・結婚生活に悩む人の駆け込み相談所的な存在である。 30歳からのうまくいかない恋愛と40歳からのこじれた男女関係の解決を提供している。