「好き」を伝えるのが怖いあなたへ

誰かに「好きなこと」を聞かれると、なぜか言葉を濁してしまう。
本当は夢中なのにあえて関心がないフリをしてしまったり、自己紹介の場で「好きなもの」を聞かれると戸惑ったり…
そんなふうに、「好き」を素直に言えない自分に気づいたことはありませんか?

本当は「大好き!」と言いたいのに、なぜか声に出せない。
もしかしたら、心の奥深くにそっとしまい込んでいる、大切な気持ちがあるのかもしれません。

◇恥ずかしさの奥にある「評価されることへの不安」

「好きなものを堂々と言える人って、すごいな」
そう感じたことがある方も多いのではないでしょうか。

人前で「好き」と言うことは、まるで自分の一部をさらけ出すような感覚を伴います。

もし、子どもの頃に「え、それって変じゃない?」と笑われたり、周りから浮いてしまったりといった経験があると、「自分の好き=否定されるかもしれないもの」と、無意識のうちに結びついてしまっているということがあるかもしれません。

◇「好き」を言えなくなる心理的な理由

心理学的には、こうした反応には「社会的承認欲求」や「自己防衛本能」が関係していると考えられます。

人は本能的に、他人からどう思われるかを気にする生き物です。

「これは子どもっぽいかな?」「ちょっと恥ずかしいかも…」「変な人だと思われるかな?」
そんな不安が頭をよぎると、好きなことを口にするのが怖くなってしまいます。

また、過去に「好き」と言って笑われたり否定されたりといった経験があると、心が傷つくことを避けるために、自然と言葉を飲み込んでしまうことがあります。
これは「自己防衛本能」と呼ばれる、心を守るための反応です。

こうして、「笑われたくない」「否定されたくない」「仲間外れにされたくない」という気持ちが、「好き」という純粋な気持ちを心の奥深くにしまい込んでしまいます。

そして、知らず知らずのうちに自分の思いを抑えることが習慣となり、やがて“自分らしさ”を見失ってしまうこともあるのです。

◇「好き」は、自分とのつながりを取り戻す鍵

「好き」を言えない人の多くは、周りの視線や反応に敏感で、相手を思いやる気持ちが強い傾向があります。
周りとの関係を大切にするあまり、波風を立てずに過ごそうと努力しているのかもしれません。
しかし、それが続いていくと、少しずつ自分自身との距離が遠くなり、気づかないうちに自分の気持ちを置き去りにしてしまっていることがあります。

心理学には「自己一致感」という言葉があります。
これは、自分の感情や価値観と、実際の言動が一致している状態のこと。
この自己一致感が高いほど、人は幸福感や自己肯定感を感じやすくなるとされています。

つまり、「好き」を自分に許すことは、あなたらしく生きるための大切な第一歩なのです。

好きなことに正直でいられるということは、あなた自身を受け入れる力、そして自分を信じる力へとつながっていきます。
また、考えと行動が一致することで、自信が生まれ、自己肯定感も育っていきます。

◇まずは「小さな好き」を、そっと自分に許してあげることから

「好き」は誰かのためのものではなく、あなた自身のものです。
誰かに認められる必要はありません。

もし、「周りと違うかも」と感じても、それはあなたらしさであり、あなただけの個性です。
どうか、ジャッジせずに「好き」をそのまま感じてみてくださいね。

無理にSNSで発信したり、人前で言ったりする必要はありません。
まずは、自分の心の中で“好き”を、安心して味わう時間をつくってあげましょう。
その時間が、あなた自身との信頼関係を、ゆっくりと育んでくれるはずです。

そして、いつか誰かと「好き」を分かち合いたくなったとき、かつてのあなたと同じように「好き」が言えなかった誰かの背中を、あなたがそっと押せる存在になっているかもしれません。

◇さいごに ~ 好きはあなたの大切な一部 ~

好きなものを好きと言うこと。
それは、実はとても勇気のいることです。
だから、言えない自分を責める必要はまったくありません。

まずは、自分の「好き」を、「自分にとって大切なもの」として、優しく受けとめてあげてくださいね。
その温かい気持ちが、あなたの心をそっと包み込み、癒してくれるでしょう。

そして、あなたが「好き」とともに、あなたらしい人生を歩んでいけることを、心から応援しています。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

セクシャルマイノリティ当事者のカウンセラー。幼少期から性別違和に悩んだ経験から生きづらさを抱える方のご相談を得意とする。 言葉にできない感情を掬いあげる感性や性別を越えた視点でのフィードバックに「言葉にならない感覚が整理された」「今までになかった視点に気づけた」と定評がある。