誰かから言われた何気ない一言が、心に突き刺さり、その言葉を頭の中でぐるぐる何度も繰り返して思い出してしまう…。
そんな経験はありませんか?
カウンセリングでお話しをおうかがいしていると、繊細な心を持っていて、優しい方ほど、誰かの言葉が気になってしまい、傷ついてしまうような傾向があるように思います。
昔、私は誰かの言葉がすごく気になり、「あんなこと言われちゃった」「こんなふうに言われちゃった」と落ち込むことも少なくありませんでした。
そんな時、祖母が教えてくれた言葉を思い出します。
それは、『言いたいやつには、言わせておけ』。
おばあちゃんは、茶目っけのある人だったので、笑いながらこの強い言葉を私に教えてくれました。
おばあちゃんは、この言葉で色々な局面を乗り切ってきたんだな、って思えるので、今でも大切に心の中に私の「お守り」として持っています。
ともすると、突き放すようなこの言葉ですが、実はちゃんと心理学的にも意味を成しているのだと、私は心理学を学び始めてから思いました。
誰かの言葉が刺さってしまうのはなぜでしょうか。
そして、その対処法を少し見ていきたいと思います。
◾️誰かの言葉が気になる理由
過去の人間関係で傷ついた経験があったり、否定的な言葉を繰り返し言われた経験などが、心の奥底に根付いている場合、些細な言葉にも過敏に反応し、過去の痛みを呼び起こしてしまうことがあります。
過去の出来事と今の出来事は全く別の事象であっても、結びつけて思い出してしまったりする。
これでは、心がしんどくなってしまいますね。
また、変化への不安や心の防衛のために他人の言葉を過剰に意識する場合もあると言われています。
自分を守ることへの意識が強く働いてしまう場合も、誰かの言葉に過敏になってしまったりすることがあるようです。
そもそも自己肯定感が低いと、他人の言葉を否定的に受け止めやすく、「やっぱり私はダメなんだ」と結論づけてしまいがちです。
そう、受け手側の自分の心が「自分はダメ」という自己否定の状態でスタンバイしていると、自分が気にしている言葉が矢のように飛んできた場合、グサリと刺さって痛いですよね。
日頃から、自分のことを肯定せずにいると、誰かの言葉が気になって、より自分を「ほらね、私はダメ」と、さらに否定を強める方向に頭の中で繰り返してしまうことも少なくありません。
◾️誰かの言葉に振り回されないための心理的対処法
上記は一例ですが、こういった理由によって、他人からの言葉がすごく気になったり、過度にネガティブな方向へ受け止めてしまうことは、誰にでも起こりうることです。
自己肯定感が日頃は高い人であっても、その時の心身のコンディションによっては、やたらと気になってしまうことだって、あるのだと思うのです。
でも、誰かの言葉を自分を責める材料にして、何度も頭の中でリフレインすることは、すごくきついことです。
そんな風に自分に負荷をかけてしまわないためにも、自己肯定感をしっかり持つことは重要ですが、まずは言葉の受け取り方で、気をつけると良いポイントを以下の通りまとめてみました。
・言われた言葉を客観的に見てみる:
感情的にならずに客観視してみましょう。
それは本当でしょうか?
または、その人の単なる意見なのでしょうか?
相手の状況はどうだったのか?
言った人の意図は、受け手側の想像でしかないことも少なくありません。
必要であればコミュニケーションをとって確かめてみることで、不要な心配はなくなる可能性も大いにあるのではないでしょうか。
・言葉の背景を想像し過ぎない:
私たちの脳は、放っておくとネガティブな方向へ物事を考えてしまう傾向もあるようです。
心理学や脳科学の研究において、「ネガティビティバイアス(negativity bias)」と呼ばれる現象です。
誰かの言葉の裏にある意図を深読みし続けると、ネガティブな想像が膨らんでしまうことはよくあることです。
そんな私たちの性質をきちんと理解して、「特に深い意味はないのかもしれない」と思って切り替えるようにすることも、時には必要かもしれません。
・その解釈は本当?:
気になってしまう言葉を言われた、ということは確かに事実かもしれませんが、それにどのような意味づけをするかは自分次第です。
「〇〇と言われた」という事実に、「私はダメと言われた」という解釈を簡単に結びつけないように意識しましょう。
◾️心のバリア機能も点検してみる
他の人の意見や感情と、自分の意見や感情との間にきちんと境界線を引くことも大切だと言われています。
「それはあなたの意見であり、私の意見は違う」「あなたの感情はあなたのもの、私の感情は私のもの」と心の中で区別することが、時に自分の心を軽く保つためにも必要であったりするかもしれません。
そして、これこそが、冒頭に記した私の祖母の言葉、『言いたいやつには、言わせておけ』なのかもしれないな、と思います。
その人の思い、私の思い、違うことがあったって、人間同士、当たり前。
だから、言いたい人は言えばいい。
私の心は私が守る。
そんな意味を、心理学なんて学んだこともない私の祖母が込めたとはちょっと思えませんが、それでも昔の人の知恵って、実に深い意味を集約していて興味深いな、と思いました。
誰かの言葉が刺さってしまう時には、これらのことをちょっと思い出してみて頂いて、ご自身に余分な負荷をかけず、日々をもっと楽に軽やかに過ごしていって頂けると嬉しいです。