映画『ソウル・キッチン』と、「プロセスを信頼する」という考え方

私は、映画が大好きです。
映画好きにも色々タイプがあると思うんですが、私の場合は、同じ作品を繰り返し観るよりも、新しい作品を次々と観たいタイプ。

でもクリスマスが近づいてくると、いつも観たくなる映画があるんです。
それは、『ソウル・キッチン』というドイツの作品です。

どんなお話かというと……

主人公のジノスは、川沿いの倉庫を改装して、あまりイケてないカフェレストランを開いています。
恋人は仕事のために海外へ行く予定で、もうすぐ離れ離れ。
滞納していた税金を払えと迫られるわ、腰も痛めるわ、恋も仕事もぜんぜんうまく行きません。
ところが、ヘルニアで料理ができなくなったジノスが、魂を料理にきざむシェフを雇うと、なんと店は大繁盛。
ツキが向いてきた!と思ったところで、昔の知人に店を乗っ取られてしまう……!

という感じのコメディ映画です。

ネタバレは極力避けますが、とりあえず最後はハッピーエンド。
だけどこの主人公、1ミリも得しないどころか、最後まで損ばかりなんです。
なのに観終わると最高にハッピーな気分になるから不思議です。
不思議だから、何度も観たくなるのかもしれませんね。

この映画の幸福感はなんだろうか……と、よくよく考えていて思い至りました。

これは私の個人的なイメージなんですが、ハッピーエンドって、すべてがハッピーになるか、または、残っている問題はまるでなかったことのように扱われがちだなと思うんです。
そういう描写も、それはそれでリアルだなと思うので嫌いではないですけどね(^^)

でもこの映画は、最後まで問題がぜんぜん解決していきません。
映画はどこかで終わるけど、登場人物たちの人生の「終わり」を見せられたわけじゃない。
人生はまだ続くし、問題も山盛り、まだ途中。

それでも、生きている今、幸せを感じたっていい。
良い気分になったっていいよね。
この作品からは、そんなメッセージを感じるんだな、と思いました。

私が心理学を学びはじめてから知った考え方に、「プロセスを信頼する」というものがあります。
『ソウル・キッチン』を観ていると、問題の渦中でもみんな恋して笑って踊ってて、「プロセスを信頼する」ってこういうことかもしれないな~と思ったりするんです。

「プロセスを信頼する」とは、自分の身に起きた出来事を「良いもの」ととらえてみる、という考え方のこと。

物事が思い通りにいかないとき……たとえば就活がうまくいかない・パートナーがなかなか見つからない・がんばってるのに願いがぜんぜん叶わない・病気になってしまった、そんなとき。
私たちは「神様、私なにか悪いことしました!?」と神様に文句を言いたくなったり、「なんでこんなひどい罰をくらわなきゃいけないんだ~!」と嘆きたくなりますよね。
私なんてめちゃくちゃ心が折れやすいので、ちょっとお腹を壊したり、乗りたかった電車に乗り遅れただけでも、神様に文句を言いたくなります(笑)

でも、その物事の見方を根本的に変えて、
「もしも、いま私に起きていることが良いことだとしたら、私はこの出来事からなにを学ぶ必要があるんだろう?」
と、敢えて考えてみる。
それが「プロセスを信頼する」という発想方法なんです。

たとえば、私の場合。

8年ほど前になりますが、私は職場の人間関係がきっかけでうつ病になり、仕事に行けなくなりました。
さらに追い討ちをかけるように、夫が勤めている会社が傾きはじめたんです。
もう、不安と心配だらけ。
この先、私たちはどうなっちゃうんだろう……と頭が爆発しそうでした。

そんなときに受けたカウンセリングで、この「プロセスを信頼する」という考え方を教えてもらったんですね。

「いま起きていることが良いことだとしたら、なにを学ぶ必要があるんだろう?」と、私は考えてみました。
そうして出てきたのは、「私の未来に悪いことは起きないと信頼する」ということでした。
これが正解かどうかはわからないのだけど、ただ、直感でそう感じたんです。

当時の私は毎日、毎秒、不安と心配でペチャンコになっていました。
「収入は絶たれ、友だちも離れ、私は野垂れ死ぬ。きっとそうなる」と。

だけど考えてみれば、野垂れ死ぬ未来はまだ来ていません。
その可能性もあるけれど、でも同じくらい、明るくてハッピーな未来が来る可能性もあるわけです。
それなのに、来ないかもしれない暗い未来を想像して、今すでに暗くなってるのはもったいないな、と感じました。

あれこれ考えるのは、本当にのっぴきならない状況になってからで良いや!
私はそんなふうに腹を決めて、明るい未来の方を見ておくことにしました。
「お金はなくならず、友だちにも囲まれて、私は今までよりもっと楽しく生きていけるかもしれないよ」と思うことにしたら、それだけで気分がだいぶラクになったのを覚えています。

その後、私は仕事を休職することになりました。
ピタッとはかったように同じタイミングで、夫の会社も倒産しました。

だけど「プロセスを信頼する」という考え方を採用していた私たち夫婦は、「こんなに時間があるのはきっと今しかない!」と、2人で1か月間のフランス&イタリア旅行を楽しみました。

私が抱えていた問題は、1ミリも変わっていません。
だけど問題がいっぱいあったとしても、それでも笑顔で過ごしても良いと思いませんか?
幸せを感じる瞬間も、いっぱいあっても良い、いや、いっぱいあった方が良いと思うんです。

私たちは「選択肢がない」と感じるときにストレスを感じる、と言われたりしますが、この「プロセスを信頼する」という考え方は、物事の見方を変えて、私たちの選択肢を増やしてくれる、素晴らしい人類の発見だな~って思います。

そうそう、映画のお話をしていたのでした(笑)

『ソウル・キッチン』という映画と、「プロセスを信頼する」という考え方。
どちらにも、どんな状況でもゴキゲンに笑える人間のたくましさが詰まっているなって思うんです。

もうすぐクリスマス。
生きていたらしんどいこともいっぱいあるけれど、この日くらいは、笑って過ごしたいですね。
みなさんが、もりだくさんのハッピーを受けとれますように!

この記事を書いたカウンセラー

About Author

職場の人間関係をきっかけにうつ病になった経験を持つ。夫婦関係を見つめ直し心身ともに回復してきたことから「彼との距離が遠い」「人に頼れない」など恋愛・人間関係のご相談を得意とする。なんでも話せる安心感と、深い共感力に定評がある。クライアントの魅力や才能を引き出すことを大切にしている。