私たちの心の癖〜バイアスから

私たち人間には物の見方や捉え方の癖があります。
その一つが心理学用語で「バイアス」と呼ばれるものです。
「バイアス」とは、無意識の先入観,思い込み,固定観念で、いくつかの種類があります。
もちろん、全ての人がこの「バイアス」を持ち、影響を受けているわけではありませんが、人間関係の中で、あるいは会社やコミュニティー、仕事の関係先、社会とのかかわりの中で、時にはみなさんもこの「バイアス」に違和感を覚えられた経験があるのではないでしょうか。
この「バイアス」は、その大本に立ち返れば、感じたくないことを感じてしまうことを避けるための手段としていつの頃からか身につけており、直視すべき事柄や事実を歪曲します。
その代表例だけでも知っておけば、自分のことや人のことをより理解することができ、成功したり、トラブルを避けることができたりします。
今日は、いくつかの例をご紹介したいと思います。

(1) 「確証バイアス」

自分にとって都合の良い情報だけを集めて、それに反するものを無視して自分の判断の確証となるものを探すバイアスです。
例えば、「私は新型コロナウイルスに感染しない」あるいは「私は若いから新型コロナウイルスに感染しても風邪と同じ」という自分に都合の良い思い込みをしたいときには、私たちは新型コロナウイルスに感染しない例や新型コロナウイルスに感染しても軽症で済む例に着目してそれらばかりに着目して「私は新型コロナウイルスに感染しない」「新型コロナウイルスに感染しても風邪と同じ」という自分に都合の良い確証を得て安心しようとします。
少し客観的になってみると、世の中には感染経路が全く分からないケースがあったり、若い人でも重症化したり後遺症に苦しむ人がいることがわかるのですが、それらの情報は無視して、自分には「感染しない」「感染しても軽い」と、そう思いたい都合の良い情報だけを強化します。
心理学的に考えてみれば、「私が感染する」「感染したら重症化する」という可能性を打ち消したいのですから、感染したり重症化したりすることを恐れている結果でもあります。

(2)「正常性バイアス」

異常な状態やその前触れに対して「いつもと同じこと」「正常な範囲内」と思い込んで心の安定を得ようとするバイアスです。何の根拠もないのに、です。
これは災害時によくみられるバイアスで、例えばビルの火災報知器がけたたましく鳴り響いても「誤報だろう」と思い込んで逃げ遅れたり、水害の時に避難命令を無視したりといったケースがあります。
以前、テレビで放映していたのですが、水害の起こった町で避難命令が出て、同居の息子さん家族が逃げるときに高齢の父親に一緒に逃げようと誘うのですが「ここがそんなことになるはずがない」と頑として逃げようとしないというシーンがありました。
やがて家の前の道路が水没、水が膝上の高さぐらいに達したときに息子さんが家にその父親を迎えに行き、玄関ドアを開けて外の様子を見せると、ようやく納得して息子の背中で外に出て無事だったというものを見ました。
息子さんがスマートホンで撮影していたものですが、なかなかリアルで、正常性バイアスの典型例を見たような気になりました。

(3) 「内集団バイアス」

自分が所属していると感じている集団を「内集団」、それ以外の集団を「外集団」と呼び、内集団が優れていると思い込むこと、外集団は劣っていると思い込むことです。
“所属していると感じている”ということがミソで、形式的に所属していても、所属していると感じていない集団は内集団には該当しません。
逆に、所属していなくても親近感を感じている集団に対しては内集団バイアスが働くケースもあります。
例えば、プロ野球でAチームに親近感を感じている場合には、所属していなくても「Aチームは優れている」と思い込んでいるかもしれません。
これは、自分が所属していると感じている集団が優れていると感じることで、自分もその一員で優れているという自己価値を高く感じるためのバイアスです。
従って自己肯定感が低い場合に多く見受けられるバイアスです。
どこに所属しようと自己肯定感が高い人はそんなこと関係がないわけですから「虎の威を借る狐」といった感じでしょうか。
内集団バイアスは、内集団にそぐわない人を排除しようとしたり、いじめたりする動機にもなります。
社会的には人種差別も一つの内集団バイアスです。

(4) 「集団同調性バイアス」

どうするか迷いが生じたときに、とりあえずみんなと同じにしておけば間違いないと考えるバイアスです。
日本人に比較的多い傾向がみられるバイアスではないでしょうか。
ビジネスシーンでも会議の中でよくみられるバイアスです。
迷っているから仕方ないと言えばそうなのかもしれませんが、少数意見をないがしろにしてしまう可能性があったり、ともすれば声の大きい意見に左右されて方向性を誤ってしまったりする可能性もあります。
以前、心理学講座で「少数意見が集団の意見を動かす〜マイノリティーインフルエンス〜」という記事を書きましたが、ご一読いただければ幸いです。

(5) 「生存者バイアス」

物事の成功者(生存者)、戦略などのみに重きを置き、失敗者や失敗した戦略には耳を傾けないというバイアスです。
よく「〇〇に学ぶ成功の秘訣」などというビジネス書がありますが、実はその通りに行えば成功するというわけではありません。
当然、その裏には「失敗しなかった秘訣」も隠されているわけで、成功の秘訣と失敗しない秘訣が相まって、また時には運にも恵まれて物事はうまく運ぶのです。
従って、失敗から学ぶこともとても重要なのですが、私たちはついつい成功者の例や戦略のみに意識を奪われてしまいます。

以上、今回は5つのバイアスについてお話をしましたが、バイアスはまだまだ種類があります。
私たち人間が持っている心の癖を理解し、自分を知り、人を知ることが、事実を認識し、成功したり、トラブルを避けたりすることに役立つのではないかと思います。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

大谷 常緑

恋愛や夫婦間の問題、家族関係、対人関係、自己変革、ビジネスや転職、お金に関する問題などあらゆるジャンルを得意とする。 どんなご相談にも全力投球で臨み、理論的側面と感覚的側面を駆使し、また豊富な社会経験をベースとして分かりやすく優しい語り口で問題解決へと導く。日本心理学会認定心理士。