執着を手放す方法

私たちはいつも何かにしがみついています。それを手放すことでより良いものを手に入れることができます。

カウンセリングの局面では、よく「彼を手放しましょう」とか「執着を手放しましょう」という表現を使うことがあります。
これは今の自分を苦しめている感情を手放すことで楽になりましょう、という意味なのすが、言うは易し、行うはナントカですね。

手放しとは?

僕達は、怖れ、しんどさ、苦しさ、痛み、自信の無さ、罪悪感などのネガティブな感情にしがみついています。このしがみついていることを「執着している」などとも言いますね。また、それが一見感情ではないようなものにしても、そのモノを通じて感じているネガティブな感情にしがみついている、と見ることができます。例えば、恋人(別れたらどうしていいか分からない不安や怖れ)、会社(クビになったらどうしよう、という不安や怖れ)などのように。

執着している状態というのは、ちょうど恋人という名の小鳥を鳥かごに閉じ込めているようなものかもしれません。その小鳥はいつもあなたの近くにいてくれますが、あなたは小鳥が自分の意志でそこにいるとは感じられません。つまり、恋人が近くにいてくれていたとしても、それは自分が彼(彼女)を縛り付けているから(閉じ込めているから)、そこにいてくれるような感覚を持ってしまいます。その感覚が強い分だけ、彼(彼女)に愛されているような感覚は全然しませんよね。つまりは彼(彼女)の愛情を受け取れなくなってしまうんです。

その小鳥を手放して自由にして空に放してあげたときに、自分のところに舞い戻ってきたらどうでしょう?そこで初めて「小鳥の意志」を感じることができます。それは即ち、彼(彼女)の愛情を感じて、本当に喜べるわけです。
これを「手放し」というのです。

でも、それはとても怖いことです。僕達は小鳥を手放したら逃げて二度と戻ってこないに違いない、と思っていますから。だから、僕達は手放すことよりも、より執着してしまいます。小鳥の自由よりも、小鳥を逃がさないようにより強固なカゴに閉じ込めようとするように。

手放すというのはちょうど心の中に陣取っていたネガティブな感情を解放することになります。手放せた分だけ心にスペースが生まれることになります。
そのスペースには悪いものを新たに入れることも出来ますが、良いものを入れてあげることもできます。だから、何かを手放した後には「素敵な良いもの」が新たに手に入るものです。
例えば、前彼への執着を手放したら、その彼以上に魅力的な人に出会ったり、会社への罪悪感を手放したら、遣り甲斐のある仕事が手に入ったり。

だから、手放すというのはとても大切なことなのですね。
それは失恋したから、ではなく、今まさに恋人といい関係を築いているときでも、この手放しはとても大切な要素です。
ぜひ、学んで皆さんの毎日に生かしていただきたいと思います。

手放しを妨げる要因

では、なんで手放せないんでしょう・・・というところを考えてみましょう。

寂しさ、孤独、惨めさを感じる怖れ
恋愛やビジネス上の関係ではこの感覚が一番強いですね。
「執着」と聞いたら、まずは恋愛を思い浮かべられるかもしれません。

大好きな彼氏・彼女に振られてしまったとしたら、とても辛いし、寂しいものです。
でも、僕達は「寂しさ」「孤独感」「惨めさ」という感情が大嫌いですから、その感情を感じないように色んな努力をします。

例えば、遠恋だった場合は日常生活での変化って意外なほど少ないものですから、たとえ別れてしまったとしても、付き合っているときと同じ気分で毎日を過ごしてしまいがちです。そうするとついつい彼氏がいるような態度をとってしまったり、そんな気分になっていたりして、ずっと引きずってしまうことがあります。

普通に付き合っていた間柄でも、別れた後に彼のことを「傷つけられた」「恨んでやる」「悲しい」というネガティブな気持ちで繋がろうとします(参照:「好きと嫌いの心理学」)。そうすることで心の中にいつまでも彼の存在を残しておくわけです。
だから、ここで彼を手放そうとすると「本当に一人ぼっちになってしまう」という不安と怖れがたくさん出てきます。

それから、リストラにあったり、会社が倒産したり、あるいは何らかの事情で退職しなければいけないような場合にも同じような感情が出ますね。
会社や社会を「恨む」「悲しむ」ことで、いつまでも引きずってしまうのです。

この場合は幸せな状態からはとても離れてしまいますし、前に進むことも出来なくなります。

変化することへの怖れ
でも、実はそれは「罪悪感」とか「痛み」にも言えること、と言ったとしたらおかしいでしょうか?誰も罪悪感なんて感じたい人はいませんし、いつまでも心に痛みを抱えていることを喜んでする人もあまりいませんよね。

でも、僕達はそれを知らず知らずのうちにしてしまう傾向があるのかもしれません。

例えば、あなたが長年あるコンプレックスを抱えていらしたとします。
それをなんとかしたいんだけど、どうすることも出来ずにいたとして下さいね。
そうすると、僕達にはその状況に適応する能力が備わっていますから、そのコンプレックスを持っている状態が“普通の自分”になってしまいます。
つまりは、コンプレックスを感じて、それを責めたり、隠したり、悩んだりするのが“私”と思いこんでしまうわけです。
そうすると、そのコンプレックスを手放してしまったとしたらどうなるでしょう?
まるで“私”が無くなるような気がしてしまうんです。
これはすごく怖いことですね。

それはこんな気持ちかもしれません。
「そりゃ、このコンプレックスはしんどいものだけど、長年一緒にいて、扱い方もまあ知ってる。でも、これが無くなっても今より楽になるとは限らないし、何よりも今より悪くなったら困る。だから、今の勝手知ったるこの状態が一番いい」と。

これは手放して、自分が変化する怖れを象徴していると思うのですが、確かにめちゃくちゃ苦しいわけではないけれど・・・幸せでもありませんよね。

誰かへの復讐のため
あなたを十分に愛してくれなかった誰かがいたとしますね。
それは元彼でも、親でも、先生でも。
でも、あなたはそのことが許せない、でも、表立って暴れたり、傷つけてしまえば、自分が逆に攻撃されてしまうかもしれない。
そのときに僕達は、その痛みにしがみついて、その自分を傷つけだ誰かに向かって「私がこんなにしんどいのはあなたのせいです」というメッセージを送りつづます。

このときは「この痛みを手放したら、彼を許さなきゃいけないじゃないの!」という感情が心の中を占めてしまうものです。
でも、これをしているとしたら・・・少なくとも幸せではありませんよね。

誰かの助けを求めるため
上のと似ていますが、自分が潜在的に依存している人に対して「私はあなたじゃなきゃだめなの。あなたの愛しか受け入れられないの」という状態になることがあります。
だから「あなたが助けてくれるまで私はこの痛みを手放さないわ」と。

この場合は他の人が手を差し伸べたとしても、その手を払いのけて、その痛みにしがみつきます。これは潜在的な癒着も一口絡んでいるようです。(参考:癒着の心理学

少なくともその人があなたを助けるまでは痛みにしがみついてしまうわけですから、幸せにはほど遠い状態なのかもしれません・・・。

手放しのプロセス

ここまで手放せない理由についてお話してきましたが、各パターンの最後にわざとらしく「幸せ」という単語を使わせていただきました。
実はこれが執着を手放すキーワードになるからなんです。

先週、原が選択についてのレクチャーをしてくれましたが、手放しもあなたの選択一つにかかってきます。今の状態を受け入れ、そして、それを手放すことを“選択する”必要があるわけです。

そこで「よし、いつまでこんな状態でも仕方ない。手放そう!」と思うのですが、ここで先に挙げたような“手放せない理由(=執着しているもの)”がうじゃうじゃと出てきます。怖れだったり、恨み・辛みだったり、罪悪感だったり。
そのマイナスの力に引っ張られるとせっかくの決意も水の泡になってしまいますから、ここは選択しつづけること(これをコミットメントといいます)が必要です。

1.手放しへの第一段階~受容と許し~
手放すものがあるということは、現状に何らかの問題~失恋、ケンカ、リストラ、浮気、無気力等々~が発生しているということです。先に挙げた「手放せない理由」にしがみついている状態だと思って下さい。多くはそんな自分を嫌ってしまったり、相手がいる場合は相手を攻撃したりしてしまいます。
でも、ここでは「傷ついている自分」「不満がある自分」「うまくいってない自分」を自分が受け入れ、許してあげることが大切でしょう。
自分自身の痛みを感じることは惨めだったり、寂しかったり、恐かったりします。
でも、そこでは自分がよりよくなるためにがんばって下さい。

2.手放しへの第二段階~目標設定~
そして、ここが肝心。『どうして手放すのか?』という目標を設定するプロセスです。
「もう辛い思いは嫌だ」「幸せになるぞ!」「もっといい人を見つける」「もっといい女(男)になってアイツを見返してやる!」「もっといい関係を作るぞ!」等々、なんでもいいのですが、自分が本当に欲しいものでないと頓挫してしまいますからご注意を。
ここでは自分の心に素直になってみる必要がありますね。でも、そのとき必ず先のネガティブな感情がたくさん上がってきますから、そこで流されないようにすることが大切です。

そのためにもこの第一、第二プロセスでは友人、家族、カウンセラーといったサポートがあると心強いですね。この段階で異性の友人を心の支えとすることで新しい恋が芽生えることはよくあることですね。

ここが上手にできると、希望の光が見えてきて、わくわく・どきどきする感覚が芽生えてきます。でも、大抵は自信があまりなくて恐る恐る目標設定することになるでしょう。僕はそれでも構わないと思います。何よりも何らかの目標を設定することが大切です。もしその目標が間違っていると感じたら、その時にまた修正すればいいのです。

3.手放しへの第三段階~決意(コミットメント)~
その目標が曖昧でも見つかったら、改めて「手放し」を決意します。
「彼(女)を手放そう。自分が幸せになるために」といった風に。

ここでは力強さを自分に感じることが出来るでしょう。

4.手放しへの第四段階~勇気を持つ~
そして、いよいよ、自由に大空を舞わせてあげるために鳥かごから小鳥を取り出すためにカゴの戸を開けます。
ここではとても強い恐れや不安が出てくるでしょう。毎日のように弱い自分のエゴの声が聞こえてくるかもしれません。
だから、ここでは「勇気」がとっても大切です。
僕はよくこの段階を乗り越えるために「腹をくくることです」なんて言います。

5.手放しへの第五段階~サレンダー(委ねる)~
その勇気を持つことが出来たら、いよいよ、鳥かごから小鳥を取り出して手のひらの上に乗せるのです。
「あなたはあなたの生き方を選ぶ事が出来ます。だから、あなたを自由にします」
「あなたがこのまま私から去っていこうが、戻ってこようが、その選択をあなたに委ねます」
といった、言葉を胸に小鳥を載せた手を広げます。
後は小鳥が空を飛ぼうが、そこに留まろうがお任せしてしまうのです。
ここで最大の恐れがやってきます。
この恐れを乗り越えることが出来たらもうほとんど手放しは完了したも同然。
彼を手放すのであれば彼を、仕事を手放すのであればその仕事や残していく人達を信頼する必要があります。

実はこれは手放すモノに対する信頼を与えることと同じなのです。
だから、あなたはこの段階で「信頼する」ことも学んでいます。
そして、誰かを信頼するということは、同時に自分自身を信頼する事にもつながります。自分を信頼すること。そう、それを「自信」と言うのです。

6.手放しの第六段階~感謝~
そして、彼の幸せや成功、ビジネスならば会社の繁栄を願います。
「あなたと一緒にいられて幸せでした。たくさんのことを教えてくれてありがとう。多くのことをあなたから学ぶことが出来ました。あなたの幸せを願っています。」

感謝は手放しを行う際の最大の潤滑油となるでしょう。
心の痛みを解放し、彼を許し、そして、自分を許すことが同時に出来てしまうほどの強力なツールです。
心から感謝できるようになるためには何度も何度もチャレンジすることが必要かもしれません。

7.手放しの最終段階~受け取ること~
そして、最後にあなたが今までのしんどいところから抜け出し、新しいステージに踏み出したことを受け取ります。

彼を手放そうとしたことで自分がまた一つ成長できたこと。
新たな目標を手に入れられたこと。
そして、彼と過ごした時間が決して無駄ではなかったこと。

これらを自覚し、受け取ることで一つの時代を卒業した感覚が芽生えます。
この感覚を手に入れられたとき、あなたは彼と過ごした時を思い返すときに甘酸っぱいような、ちょっと切ないような懐かしい感覚を味わうことができるでしょう。
それはちょうど大人になった僕たちがかつての学生時代を懐かしむ感覚に似てるかもしれません。

そう、手放しとは、古い自分から卒業することなのです。
卒業したあなたは今までよりも一回り以上成長しています。

終わりに

手放しへの道を7つのプロセスに分けて説明しましたが、7つというのはあくまでも目安です。単に「7」という数字にこだわった結果ですので、より細分化することも、逆にもっとまとめてしまうことも可能だったかと思います。
実際のプロセスもこの一つ一つが順序良く進む事もあまりなく、目標設定から感謝に飛んで決意にいたることもありますし、受容が出来た時点で感謝の気持ちが湧き出てきてあっさり手放せてしまうこともあります。

このプロセスはあくまで目安ですので「こんなにあるのかあ・・・。無理だぁ~」なんて思わないで下さいね。

また、実はこの1~7のプロセスが順調に進む事や、1回やれば手放しが完了するほど甘いものではないのも確かです。
最初は一つ一つのプロセスにとても苦労します。
特に最初の二つを終えて、新しい目標を手に入れるまでがしんどいでしょうね。
だから、誰かの助けを必要とする時期だと思っています。
一人でやるには負担が大きいかもしれません。
失恋したり、失職したりしたときに一番有難いのが友人や家族の存在だったりしますよね。僕としては、その有難い味方の中に僕たちカウンセラーも入れてもらえたら幸い。

また、この手放しのプロセスはちょうど螺旋階段を上るかのように手放しても手放しても何度も何度もネガティブな感情が湧きあがってきます。
そして「なんや、全然手放せていないやんけー!全然成長してないやんけ!」となってしまうのがオチ。だからこそ、7段階目に「受け取る」ことを入れさせていただきました。
螺旋階段を上から見ればワンフロア上がるたびにまたもとの位置に戻ったような錯覚を受けます。でも、横から見れば確実に上がっている(成長している)わけです。
このことを感じることはとても難しいことかもしれませんから、忘れないようにして見てください。

ともあれ、自分が執着していることを手放すことは自信と成長を約束してくれる行為です。そして、手放せば手放せるほど自分が自由になり、楽で、今までよりももっと素敵な良いものが手に入ることを体験していただけたら、と思います。

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