変われない私~頑固さとコミットメントの心理学~

私達の癒しと成長を妨げるもの、その一つは「頑固な私」なのかもしれません。

その内側と乗り越え方をお話します。

「私なりに頑張っているんですよ。でも、なかなか状況が変わっていかないんです」
「自分なりにはやっているのに、どうして変われないんでしょうか」
そんなお話をカウンセリングの場でしてくださる方って意外に多いんですね。
僕の目にも一生懸命頑張って自分を変えようとしている姿が映るケースがほとんどです。

そんな方と「どうして変われないんでしょうね?」という方向で話を進めていくと、ある傾向がわかってきます。

それは「とても頑固な私」。

あるとき知美さん(仮名)と旦那さんの浮気についてのお話をしていました。
「こちらの講座を読んだり、根本さんとお話をしていくうちに、自分の足りないところにたくさん気付いたんです。主人の気持ち、全然分かってなかったな、って。それで一生懸命、その部分を補おうとして頑張って、実際に周りの人からも『元気になったね』とか『キレイになったね』ってすごく言われるようになったんですよ。でも、主人と向き合って話をしようとするといつも“被害者”になってしまって、いい方向に変わった自分を分かってもらえなくしてしまうんです。それにちょっと仕事が忙しくて帰りが遅くなったり、同僚と飲みに行くって聞いただけで、何となく不安になる自分もまだいるんですよね」

それを受けて、僕が「どこかでまだ彼を許せないような感じなのかな?」というと、彼女はこう答えてくださいました。
「・・・そうかもしれないですね。ほんとに辛かったから。でも、主人のことはだいぶ許せるようにはなったと思うんです。でも、どこかで許せてないのかもしれないですね」

僕が「今でも、まだ古傷が痛むって感じのようですね。悲しみや寂しさがたくさん伝わってきますよ」とお伝えすると彼女は、ちょっと涙ぐみながら、こう話してくださいます。

「そう。まさにそんな感じなんですよね。どうしても、不安になったり、見ない振りをしてしまうんです。時々、何で私が許さなきゃいけないの、という気持ちになってしまうこともあるんです。自分でもこんな自分が嫌でしょうがなくて。頭では分かっているんですけど、未だに主人を責めているんでしょうか?」

彼女はお会いしてからわずか3ヶ月で、僕もずいぶんと変化したと思います。
素っ気無くて、すっかり“おばさん”になりきっていた彼女も、今では、素敵な“女性”になって、僕の目の前に座っていらっしゃいます。
知美さん自身、とても素直な女性で、僕の色々な提案を快く受け入れ、まさにチャレンジし続けた3ヶ月でした。

でも、カウンセリングをはじめてから、最初に訪れた本格的な壁にぶつかってしまったようです。
それが「頑固さ」という壁。
彼女にとっては「どうしても主人を許せない頑なな心」です。

頑固さというと、所謂「頑固親父」のような岩盤のような人を思い浮かべられるかもしれませんが、彼女のような素直な人の心にも、そんな頑固な姿があるんですね。
頑固親父っていうのは、そんな頑なな心をたくさんもつオジさんのことかもしれません。

こんな頑固な心にぶつかるとある決まった感情が出てきます。
「何で許さなきゃいけないの?」という怒り。
「まだまだ時間がかかるんじゃないか」という半ば諦めの気持ち。
「私には出来ないと思う」という諦めと自信の無さ。
「悪いのは主人の方よ(私は悪くない)」という攻撃的な気持ち。
「私なりに頑張ったわよ」といういっぱいいっぱいな気持ち。
そして、理由は分からないけど、なぜかイライラしてしまう心。

多くの方はそんな頑固な心に出会うと、状況や態度を硬直化させてしまうものです。
カウンセリングの場に限らず、日常でも。
そうすると、問題を解決したいと思う気持ちの裏に「ほんとに出来るんかな?」という疑いが出て来たり、「無理なんちゃうやろか」という諦めの気持ちが出てきてしまったりします。
もちろん、硬直化してしまって変化が感じられない分、自信もなくなってしまいますね。

実はこれも大切な癒しのプロセスです。
自分が本当に変われるのか?問題を解決できるのか?という真意が試されているような。
例えば、トンネル工事で大きな岩盤にぶつかってしまったような感じですね。

そして、そんな気持ちを作っているのが、次の二つの心の仕組みのようです。
その一つは「自立的な心」。
もう一つは「癒されない痛み」。
この両者は表裏一体のものですから、同じに扱ってもいいものです。
癒されない痛みを守るために壁を作るのが“自立”といっても過言ではないから。

知美さんの場合、浮気された時に色んな感情を味わいました。
ショックで、悲しくて、寂しくて、惨めで、嫉妬し、自分の価値を見失い、不信感を抱き、怒り、嘆き、嫌悪感や不安をたくさん抱えました。
そんな自分や嫌で、辛いから、その感情を何層も何層もコンクリートで固めて、『旦那の浮気』ってシールをぺたぺたと貼って、太平洋に沈めてしまっていたような感じでした。

誰でも嫌な気持ちは感じたくないですから、過去に辛い経験があったとしたら、その時の感情をこんな風に梱包して心の中に隠してしまっているものです。
そして、その内側では未だに痛みが残っているわけですから、そこに触れようとすると「触らないで!」という強い抵抗が出てきます。

これが頑固さの正体です。

知美さんにとっては癒されずにコンクリート詰めされてしまった心の痛みがこの時点での問題だったわけです。
固められてしまっているから、なかなか解放できなくなってしまうんですね。

そして、そのコンクリートとなっているのが「頑固な私」=「主人、許すまじ!!」と思っている怒りや嫌悪感なわけです。
でも、カウンセリングでの体験や時間の経過(自然治癒能力)、日常の頑張りによって、そのコンクリートに少しずつヒビが入り、崩れ始めます。
そして、次々のその内側の感情が解放されていくわけです。
でも、痛みが強い分だけ、コンクリートの層は分厚いですから、その内側に仕舞われていた部分がこうして表面化してくるんです。
それが彼女の「未だに不安を感じるときがある」という言葉や疑いを呼び起こしているんですね。

癒しや成長のプロセスでは、一見同じような感情が何度も出てくることがあります。
そうすると「何も変わってないな・・・」と諦めモードにもなり兼ねないんですね。
それはまるで螺旋階段のようで、横から見れば一階分成長したことが分かるけれど、上から見ると最初と同じところに戻ってしまったようなものかもしれません。

だから、この頑固さを手放して、自分が本当に欲しいものを改めて確認すること。
そして、そのためにチャレンジし続けることをもう一度選択する必要が求められているんです。
そこでは、プライドを捨てることも必要かもしれないし、自信の無さや不安、恐れとも向き合って行く必要が出てきます。
もしここで諦めてしまったり、彼のせいにし続けてしまったとしたら、今の自分の状況はずっと変わらないままになってしまいますものね。
だから、それくらい欲しいもの、幸せを手に入れることを選択する必要があるんです。
これを「コミットメント」と僕達は呼びます。

つまり、彼女にとっては、そのコンクリートをもう不要なものとし、ご主人とのより大きな幸せをもう一度選択したときに状況はまた少しずつ変化し始めるんですね。
でも、この選択がもっとも難しく、葛藤を招くんです。
そして、なかなか一人では難しいんですね。
一人で頑張って頑張って今に至って、なおもぶつかる壁ですから。

だから、僕はここに至るまでに色んな経験を通じて、自信を取り戻し、魅力を上げ、信頼関係を築いていくことを大切にしたいと思っているんです。
それと同じように、一人ではなく、誰か(それは友人でも家族でもカウンセラーでも)との信頼関係がここを乗り越えていく、自分を本当に変えて行くためのカギになると思っています。

カウンセリングでこんな壁にぶつかるときは、実は問題が解決する直前であることを多くのケースが示しています。
ただし、夜明け前が一番暗いように、諦めと自信の無さも一緒に感じられる難しい場面でもありますね。

だから、知美さんとはもう一度初心に戻って、その怒りとその奥に封じ込められた色んな感情と向き合って行くことにしました。
今まで以上に弱い自分、惨めな自分がたくさん出てきます。
でも、以前にここを扱ったときよりも、彼女自身の心が経験を通して強くなっているために、きちんと向き合えるようになっていますし、どんな感情がやってきても乗り越えられる準備が出来ています。
それでも女らしさを取り戻して、自信も復活した後だけに、そんな嫌な感情が出てきて、改めてショックを受けたり、自暴自棄になりかけてしまったり、悲しかったり、不安を強く感じたり、わずか2時間のセッションの間に彼女は何度も葛藤を繰り返しました。

そして、彼女が改めて解放されたとき、まるで憑き物が取れたような表情をしていました。
「何か良くわからないんですけど、すごかったです。すっきりしたというか、ずぼっと抜けちゃった感じです」とは、そのときの彼女の弁。
それくらい彼女はコミットメントしてくれたんですけどね。
その結果、彼女はご主人への愛情と繋がりをより強く感じられると同時に、ご主人からの愛情もよりたくさん受け取れるようになったそうです。

頑固な自分に気付いたら、それは彼女のように大きな一歩を踏み出すチャンスが来ているのかもしれません。
その頑固さの中にある、本当の痛みと頑張って向き合い、手放したときに自分自身の大きな成長と変化が実感できることでしょう。

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