電話が苦手な心理~NOが言える信頼感が欲しい~

今や電話は、一人に一台と言うくらいに普及した道具ですが、苦手意識のある人も少なくないでしょう。

苦手意識を掘り下げてみると、パーソナルスペースにいきなり侵入される(してしまう)という不快感がありそうです。パーソナルスペースとは、対人関係において安心していられるための心理的な縄張りを言います。電話は、「今すぐ」「直接」に話す距離に相手を呼び出す道具で、他人との間に距離をとりたい人にとっては、いきなり「対話をする距離」で向き合うことを強いるため、心に負担を感じることもありそうです。

パーソナルスペースは、また、自分が自分でいられる、主体性が担保された場とも言えそうです。とすれば、距離をとれないときは、言葉の力できっちり「自分」を守ることが必要ですし、相手もそうしてくれると期待したいものです。「つながる」ためのツールが発達する中、お互いの主体性を信頼し、尊重する心の態度がますます大事になりそうです。

◎リクエストを頂きました◎
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電話嫌いは何故生じるのでしょうか。仕事でもプライベートでも、相手が親しい人や友好的な取引先であるかないかに関わらず、電話の用件が難しい内容やお願いごととかでなく、他愛ないことであっても、電話をかけるのが心に負担で躊躇してしまいます。かける必要が生じてから速やかに行動できません。メールやファックスを送るのは抵抗なくできます。
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●電話というコミュニケーション・ツールの性質

リクエストをありがとうございます。正直なところ、私も電話はあまり得意ではありません。でも、今や携帯電話を持たない人の方が少数派というくらいに普及し、ひとりひとりの行動半径が広がり、行動パターンも多様化するなかで、コミュニケーションをとるための必須のツールとなっています。ここでは、パーソナルスペースという概念を切り口に、「電話」を使うにあたっての心理的葛藤や、その背景にある対人関係のパターンを考えてみます。

電話とメールやファックスとの一番の違いは、電話の持つ即時性と拘束力にあると私は考えます。電話は、今すぐ、相手を呼び出す道具です。そして相手が電話に出たら、その相手を自動的に拘束します。しかも、呼び出す側は相手の、その時の事情がわからない状態で相手を即、拘束することになります。それに対して、メールやファックスは、用件は伝えるものの、相手がその時すぐに受け取り、返事をするかどうかは、相手の意思に委ねられます。相手に一拍おく自由を与えている、と言ってもいいでしょう。そう考えると、電話は少し乱暴なところのある道具かもしれません。メールやファックスは平気なのに電話は苦手、と言う方は、電話というツールがもつ即時性と拘束力に抵抗感をおぼえるのではないでしょうか。

●パーソナルスペースと境界

電話は、相手がどこにいても「今、すぐ」「直接」話すことができる、という点で、「便利」なツールです。でも、その電話のメリットに抵抗感をおぼえるとしたら、それは何故でしょう?ここでは、パーソナルスペースという概念を切り口に考えてみます。

パーソナルスペースとは、人が安全、安心と感じる他人との物理的距離を言います。知らない人がいきなりつかつかとあなたの方に近づいてきたとしたら、一瞬「怖い」と感じるでしょう。これ以上近づかれたら不快、と感じる距離が、あなたが「安心」と感じるために必要なパーソナルスペースの境界です。この一種の「縄張り」のような空間感覚は、心理的なもので、人によって狭くて他人が近づいても平気な人もいれば、広いスペースを必要とする人もいます。また、普通は、家族やパートナーのような親密な人に対しては、ほとんど距離をとる必要を感じなくても、見知らぬ人とはしっかり距離をとりたいと感じます。

私達は、普段、他人と面と向かって話をするときには、相手がそれに応じてくれるかどうかそれとなく様子をうかがい、「時間をとれそうだ」「機嫌もOK」などの判断材料を得て、相手に近づきます。相手との距離をつめるときには、相手がそれを許してくれそうだ、パーソナルスペースに入れてくれそうだ、という感触を得ようとするものです。これは、相手のパーソナルスペースに不用意に近づいて不愉快な思いをさせないように、そして自分も傷つかないように、という防衛策と言えそうです。

しかし、電話では、残念ながら、この「許可を得る」というプロセスを踏むことができません。良くも悪くも、いきなり人が持つ心理的な境界をこえて相手との距離を縮めてしまいます。理屈では、電話とはそもそもそういうもので電話をかける側に悪気はない、とわかっていても、広いパーソナルスペースが欲しい人は、「いきなり直接話す距離」で人と対峙する、ということ自体を負担に感じるかもしれません。

●パーソナルスペースを守る力は、主体性を大事にする力

電話を上手に使いこなしている人を見ると、「今、ちょっと取り込み中。かけ直します」を気軽に言える人が多いことに気づきます。つまり、一度「直接話す」距離で、「今は、あなたと話せない」(「これ以上は距離を縮められない」)と、NOをきちんと伝えて、自分の都合を優先できるということです。自分の都合を優先してもOKと思えるからこそ、人が、「ゴメン、今はダメだ」と自分に言っても「あぁ、今は都合が悪いのか」と言葉通りに受け止められるのです。

これが自分の都合を優先することに罪悪感を感じる者どうしだと、電話がかかってくれば「出なくては。話を聞かなくては」と自分の都合を後回しにしてしまいがちですし、電話をかけるときにも、「相手の迷惑ではないか」と心配になり、NOを言われると、「申し訳なかった」と必要以上に自分を責めることになります。これでは、電話をかける方も受ける側も、気持ちが重くなってしまいますね。

パーソナルスペースは、その人がその人として安心して存在するためにとても大事な空間です。その人の主体性が担保されている空間、と言い換えてもいいでしょう。物理的距離をとってそれを守れないときには、言葉でしっかりと「自分」を主張し、守ることが必要になります。そして、相手にも同じようにしてもらえると期待したいわけです。

たかが電話、されど電話。電話を上手に使いこなすには、お互いの主体性を信頼して、それを尊重する、という心の態度が土台になりそうです。

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