我慢と忍耐の心理学~流されない自分になるために~

我慢はいっぱいいっぱいな状態を作り出しますが、忍耐はある種の成功と自信をもたらしてくれるんです。

カウンセリングでよくお伝えする一言があるとしたら、もしかしたらNo.1は次の言葉かもしれません。
「○○さん、とても我慢してこられたようですね・・・」

ご相談は夫婦関係だったり、恋愛、仕事、対人関係、親子関係、本当に多岐にわたります。
中には「私さえ我慢すればいいのよ」と思ってみたり、「彼のことが好きだし、たくさん愛してくれるから少々のことは我慢しなきゃ」と思ってみたりします。

でも、この我慢というのはとっても曲者。
なぜかというと我慢をしてしまうと心の中にどんどん感情が溜まって行ってしまうからなんです。

もちろん、我慢することが悪いわけではありません。
我慢が必要なことも、大切なこともあります。
ただ、何でもそうかもしれませんが、我慢しすぎると僕たちの心に過剰な負担を与えてしまうようになります。

以前、原が「感情を抑圧してしまうとどうなるんだろう?」(lec.47)でも紹介させていただきましたが、今日はその続編です。

ちょっと想像してくださいね。
見たくないもの、ちょっとヤバイものを押入れに隠して見えないようにしてきたって思ってみてくださいね。
だんだんと押入れの中の隙間が無くなって、モノを入れる余裕が少なくなってきても、無理やり押し込んできたって。
ところが、そこであなたは引越ししなきゃいけなくなりました。
引越し先も決まって、さあ、荷物を梱包しようと思った時に、目の前に膨らむ押入れを目にします。
「押入れを空けてしまったら、なだれを打って色んなものがあふれ出て来てしまうに違いない。確か3年前に買ったコンビニ弁当もお母ちゃんに見つからないように隠してきたな。あ!5年くらい前にめんどくさくて洗ってないパンツも隠しちゃった!!」
さて、どんな気分でしょう?
頭を抱えて蹲ってしまうかもしれませんね。。。

ここで押入れというのは僕たちの「心」、隠してきたモノが「我慢した気持ち、言えない気持ち」、そして、引越しというのが「状況の変化」を表します。
それが僕達の「悩み」「問題」といわれるものの正体かもしれません。
抑圧された感情が作り出すものが悩みであり、乗り越えるべき問題ですから。

ついつい彼に嫌味を言ってしまったり、余計な一言を言って怒らせてしまったとしたら、それは押入れの中から、細かいものがちょこっとあふれ出てしまったのかもしれません。
また、自分の気持ちが我慢できなくて彼にぶつけてしまったとき、それは押入れの中にはもう入るものが何も無くて押入れの扉が崩壊してしまった合図かもしれません。
そして、一杯一杯で何もできない無気力な状態になってしまったとき、それはパンパンに膨らんだ押入れを前に手立てなく頭を抱え込んでしまっている自分なのかもしれません。

誰かにぶつけてしまったり、噴火してしまったとしたら、結構大変なことになりますよね。
それはまるで押入れの中の整頓を彼に「やってよ!」って押し付けるが如く、自分の感情を彼に処理させようとしている姿なのかもしれません。

特に不安な気持ち、寂しさ、怒り、恐れなどの感情は、見るのも嫌な感情になったりするので、ついつい人に押し付けがちです。

中には「ああ、私の心は押入れどころじゃなくて、テレビでやってるゴミ屋敷みたいなものだわ・・・」なんて方もいらっしゃるかもしれませんね。
ゴミ屋敷に住んでたり、ぱんぱんの押入れが自分の部屋にあるとしたら、とても自分のことは好きになれませんし、また、大好きな人を家(心)に招くことも出来なくなります。
そうすると、自己嫌悪がいっぱいになったり、人を心の中に入れてあげることができなくなったりして色々な問題を引き起こすようになってしまいます。

マグマの噴火の如く・・・

僕のとある友人は、周りからけっこうわがまま娘と呼ばれているんですね。
特に彼氏に対してはかなりわがまま言いたい放題で、彼を手こずらせることしばし。
そんな彼女の話を聞いていると、彼女なりにめちゃくちゃ我慢していることが分かりました。
「我慢できないから、わがまま言うんじゃないの?彼を困らせるんじゃないの?だから、いつも私は我慢しなあかん、我慢しなあかんって思ってもできなくて悩んでるのに!」
そういう彼女に僕はこう伝えたんです。
「○○ちゃんってな、とっても情熱の女やん?情熱の女ってのは、熱いハートを持ってて、いつもそれが燃えてる状態なんだよな。でも、それを押さえ込んでしまうと、火山の地下にマグマが溜まっていくように、どんどんその熱い気持ちが溜まっていくわけやん?それが、ある限界値を超えると、どっかーんって爆発するんとちゃう?だから、いつも、爆発したときは彼は丸こげになって目の前に転がってるやろ?(笑)」

「そうやねん。いつも、そうやねん。あたしなりに我慢してんねんけどな、周りの人はいつもあたしの我慢が足りないって怒るねん。どうしてなん?どうしたらええん?」
彼女のその言い振りからも彼の苦労も垣間見えるんですけど(苦笑)、僕はめげずにこう答えました。

「情熱の女やから、『あれしてくれへん、こうしてくれへん』って内に情熱貯めたら爆発するほか無いやろ?外にな、そのエネルギーを向けるんよ。彼をいかに愛そうか?どうあたしの魅力でとろとろにしてあげようか?いかに気持ちよく楽しくさせてあげようか?そっちの方に気持ちを持っていったらええねん」

彼女も負けじと食いつきます。
「それができたらええけどな、気がついた時には溜まってしまってるねん。それに、そんなん彼氏がええ思いするだけで、あたしは何もええことないんちゃうのん?」

ここで引いたら負けですから、押し返すわけです(笑)
「いつも彼にして欲しいことじゃなくてな、彼にしてあげたいことを考えるように癖つけてみ。欲しい欲しいってのは満たされることってないけどな、あげたい、与えたいって思ってやってるとな、それだけでエネルギーが外に向くから気持ちよくなるんやで。やってみな、分からんし、すぐにはうまく行くもんでもないけどな」

「うー。分かったわ。やってみるわ」

彼女の良いところは、その切り替えの早さ、素直さ。
1週間後、彼女からメールにはこんな風に書いてました。
「なんが、ええ感じやねん。彼もな、色々としてくれるようになってん。あたしもな、とてもええ感じやねん。また、何かあったら話聴いてな。いつもありがとな」

私は何を思ってるの?~自分の気持ちが分からない~

昔からいい子をしてきたり、お姉ちゃんだからって気持ちを抑える癖がついてしまったり、自分はいけない子と思って我慢する癖がついてしまうと自分の気持ちが分からなくなってしまいます。
それは、嫌なものを自分の目の前から排除して押入れに入れるが如くですから、無くなったとは言えないものの、感じなくはなるんですね。
昔僕のエッセイ(「寂しさ、について」)でもお話したんですけど、寂しい気持ちがずっとあると、それが麻痺して感じられないようになってしまいます。

そうして心が麻痺していくと、僕たちの表情からどんどんと感情が消えていき、やがては無表情になり、理論的な、意識的な話しかできないようになります。

カウンセリングの中でも、よくそういう場面に出会うんですね。
僕もかつてはこのタイプだったので、カウンセリング中に「今、どんな気持ちですか?」「今、どんな気分でしょうか?」ってよくお聞きするんです。
「うーん・・・分からないです」と答えられる方も少なくありません。

そういう方は一般的に自立的なタイプが多いので、そういう方にはカウンセリングの中でも、宿題としても、まずは自分の欲求をチェックすることから始めてもらうことが多いんです。

欲求というのは誰にでも当たり前にあって、かつ、強いものですから、自分が今どうしたいのか?を自分に確認していくと、少しずつ自分の気持ちが見えてきます。
欲求の他には「好きなこと/モノ」をチェックしたり、時々自分が何に怒っているのかをチェックすることもお勧めしています。
欲求も、怒りも、好きって感情もとても強いものですから、比較的、受け取りやすいんですね。

我慢から忍耐へ

そうは言っても、我慢しなきゃいけない場面だってありますよね。
今の問題を乗り越えようというときは、我慢が必要な時期もあります。
例えば、ご主人の浮気の問題を解決しようとするとき、ご主人が今までの不満を爆発させて、とても人間とは思えないような言葉を自分にぶつけてくることがあります。
そこで、悲しくなったり、怒りを感じたりしても、それをご主人にぶつけ返してしまうと、余計に関係がこじれたり、ご主人が遠のいてしまいますから、ここは歯を食いしばってでも我慢する必要があることも少なくありません。

でも、その時に「この痛みを感じて乗り越えたら、きっと旦那との関係をいい方向に向けられるし、私自身が強く、大きく成長できる」と信じることができたとしたら、それは我慢ではなく、忍耐と呼ばれます。

忍耐というのは、光や希望が見えているときにする我慢、と言えるかもしれませんね。
だから、辛い気持ちであっても、怒りを感じながらも、耐えることができます。
つまりは、そのしんどい感情を未来への希望という形で解放している、といえます。

ただ、ここまでしんどい状況になるとひとりで耐えるのは難しいですね。
現実が厳しい分だけ、ついついダークストーリーを描いてしまいます。
しんどい感情だって出てくるわけですから、それを抱え込まずに吐き出す場所だって必要です。
僕も「不安の奥にあるもの」というエッセイで紹介させていただいたように、その忍耐の気持ちだけでなく、友人達の援助やカウンセリングなどを使って、乗り越えることができました。
人の手を借りたとしても、乗り越えるのは僕自身ですから、後々大きな自信になりました。

我慢はいっぱいいっぱいな状態を作り出しますが、忍耐はある種の成功と自信をもたらしてくれます。

もし、今いっぱい我慢してるなあ、という方。
ちょっと自分に問うてみて下さい。

「その我慢は本当に必要なもの?」
「忍耐に変えるにはどんな希望を見る必要があるの?」
「ひとりで頑張れる?それとも誰かに助けを求める?」

この記事を書いたカウンセラー

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