私の夫は、とても穏やかで、おとなしく、優しい人です。
 私とパートナーシップを組めるような人ですので、慌てず、騒がず、とても寛容な人でもあります。
 仕事では、先頭に立ってリーダーになるタイプではなく、頼りになるスタッフとして黙々と仕事をこなすタイプのようです。
 大学の頃から私と一緒に暮らし始めるまで、一人暮らしをしていたので、料理も掃除も一通りできます。
 お願いすれば、家事も手伝ってくれるので、私は、とても助かっています。
 また、手先が器用なので、細々といろんなものを自分で作ります。
 最近は、挙式する友人のリクエストに応え、披露宴の受付に飾るウエルカムボードを作成しています。
 “アニメの『美女と野獣』のパンフレットのように”といった具体的なリクエストから、“ポップでエアリーな感じ”といった抽象的なリクエストまで、それぞれの要望に応じて作ったウエルカムボードは、かれこれ10作ほどになるでしょうか。
 ボードを立てかけるイーゼルも、既製品を用いず、自作してしまいます。
 くまモン侍というリクエストには、ミシンで着物と袴を縫って、ぬいぐるみに着せるほどです。
 これまで、あまり夫のことについて、文章にしたことがありませんでした。
 今回書いた文章を読み返してみると、どうも、私の夫は“職人”みたいな人のようですね(笑)。
 付き合い始めて8年、結婚して4年。
 長い間、一緒に暮らしていても、新たな発見があるものです。
 “職人”という言葉ほど、彼をよく表す言葉はないなぁと思います。
 職人気質(かたぎ)という言葉がありますが、辞書で引いてみると、「職人(の社会)に特有の、粗野で頑固だが実直といった気質」とありました。
 私の夫は、粗野ではありませんが、それ以外の内容には、深く同意です。
 私の個人的なイメージかもしれませんが、職人さんには、寡黙な人が多いような気がします。
 主義主張は内に秘めて、あまり多くを語らない。
 私の夫は、まさに、寡黙な職人です。
 私も、あまりお喋りな方ではありません。
 どちらかというと、人の話を聞く方が好きです。
 夫は、私の10分の1くらいしか話さないので、2人で一緒にいる時は、必然的に私が話さざるを得ないのです。
 何を話しても、コクッと頷くか、頭を横に振るか、あるいは短い返事。
 最初は、一方的に話してばかりいなければいけないことに、苛立ちを覚えました。
 そんな状態でよく付き合いが続いたものだと、自分でも思います。
 結婚すると決め、事を進めようとした時、あまりにもコミュニケーションが取れないために、「何も話さないと、決めようがない!」と、私の怒りが爆発したことがあります。
 それは、それは、凄まじい怒りでした(笑)。
 それでも、彼からは何の言葉も出てきません。
 今回ばかりは・・・と、私は腹をくくって、彼から発せられる言葉を待ちました。
 6時間を経て、彼は一筋の涙を流しながら「話そうとすると、頭が真っ白になって、何も言葉が思い浮かばない。」と、声を絞り出すようにして話してくれました。
 何故、彼が、そこまで寡黙な男になったのか?
 これまで彼が語ってきた数少ない言葉、話すときの表情と体の動きから、その理由は、彼の育ってきた環境にあるのだとわかりました。
 (そこらへんの観察眼は、怒っていても、カウンセラー (^^;)
 九州男児だからか、長男だと期待され、厳しく躾けられてきたのでしょう。
 そして、感情は抑圧するように、やりたいことは我慢するように、そう育てられたのかもしれません。
 彼が一筋の涙を流しながら訴えた言葉を聞いて、ようやく私は、「ああ、本当にこの人は、話すのが苦手なのだ。」と、彼の現状を理解したのです。
 その時は、どうしたものかと、途方にくれました。
 しかし、彼は、話すのは苦手かもしれないけれど、とても人間が良いのです。
 だから、会話を楽しむことには、こだわらないことにしました。
 しばらくすると、彼が言葉以外で、感情を表現していることに気づき始めました。
 驚いた時には「ハッ」と息を止め、凄いなと思った時には「おぉ」、凄まじいときには「ごおっ」とか、アニメの効果音のような擬音を、聞き取れないほどのボリュームで発していたのです。
 また、目線、ぴくりと動く指先にも、体の傾き方にも、彼の意思が表われています。
 彼の反応に気づくと、私は、彼に言うのです。
 「その“ごおっ”って、何? すげぇー、ってこと?」と笑いながら聞きます。
 最初は、“からかうな!”という態度でしたが、最近は、笑いながら「そう。」と答えます。
 変な、会話でしょう?
 でも、それが、私たち2人のコミュニケーションなのです。
 九州男児、理系男子、長男、草食男子。
 いずれも、どちらかというと会話が不得手な男性が多いかと思います。
 そんな男性が周りにいたら、よくよく観察してみてください。
 彼らなりの意思表示があるはずだと、私は経験上思うのです。
 その意思表示に気づくことができれば、彼らとのコミュニケーションが楽しくなるかもしれませんよ。
