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Lecture.156 罪悪感の心理学4〜何もしていない、という罪悪感〜
講師:根本裕幸根本裕幸
罪悪感というと、誰かに対して何かをしてしまったときに生まれるものと思われがちですが、実はそれ以上に「ほんとうはできるのに(しなきゃいけないのに)、私は何もしなかった」という罪悪感もあるのです。これはとても深く、酷く自分を責めるので、心に深く傷を残すことが少なくありません。
Keywords
罪悪感
何もしていない
許し
ベストを尽くす
お節介

罪悪感といえば、何か悪いことをして、その罪の意識に苛まれたり、あるいは、相手に与えた痛みを補償しようとする行為を指すイメージがありますが、今回ご紹介するのは、ちょっと違った意味での罪悪感です。

それは「何かをして」罪の意識を感じるのではなく、「何もしなかった」から罪の意識を感じる、というお話です。

●“何もしていない”罪悪感とは?

ちょっとすぐにはイメージできないと思いますので、分かりやすい例え話にてご紹介しましょう。
罪悪感の例えは分かりやすくするためにヘビーな例を取り上げることが多いので、心して読んでください・・・。

あなたがもし内科のお医者さんだったとしますね。
そして、待ち合わせの場所に急いでいたとします。
その途中、道端に蹲ってる人がいて、医者としての経験から「あ、これはヤバイな。すぐに運ばないとえらいことになるな」と感じたとします。
でも、大切な会合で時間もギリギリであり、近くに人もいたので、ついつい「ま、なんとかなるだろう」と思って通り過ぎてしまいました。
無事会合も済ませ、帰りに同じ道を通ると、さっき人が蹲っていた場所に花束が置かれています。
「あと一歩早ければ助かったのに・・・」と涙ながらに語る家族らしき人がそこにいます。

その声を耳にしたとき、どんな気持ちになるでしょうか?
強く強く自分で自分を責めてしまわないでしょうか?

あなたがお医者さんで「その人を助けられる」ことに気付いていた、知っていた分だけ、この罪悪感は強くなります。
つまり「何もしなかった」のに、それ故に強い罪悪感を抱えてしまうことになってしまうんです。

これは本当の自分に嘘を付いてしまったり、与えられるものを与えなかったり、受け取るものを拒絶してしまったりした場合に付いて回る感情です。

だから、ここまではっきりした例でなくても、私達の周りにはこの感情がたくさんあるんです。

友達が悩んでいる姿を見かけたのに声をかけそびれこと。
後輩が上司から酷く怒られているときに、フォローもせず見てみぬ振りをしてしまったこと。
地下鉄の案内図を見てどうやって行ったらいいのか困ってる人がいたのに、つい見過ごしてしまったこと。
電車で目の前にお年寄りが近づいてきたので、つい寝た振りをしてしまったこと。

カウンセリングで扱う事例でもこういう話はよく耳にします。
「結婚してからちょっと油断してしまい、オシャレしなかったり、家事にかまけて女らしくしてこなかったんです」
というご主人の浮気に悩む女性。

「仕事が忙しくて、彼がしたがってるのは知っていたんだけど、ついつい拒絶してしまったんです」
というセックスレスに悩む方。

些細なことでも、自分が本来できることをしなかったとき、心の中には小さいけれど、確実にその罪悪感が増えていくようです。

●言い訳や弁解

何かして相手を傷つけた場合ならば、自分でも罪の意識があり、まだ素直に罪悪感を受け入れやすいのですが、何もしてないわけですから、罪の意識というのは持ちにくいのが実情です。

だから、それを誰かに指摘されたとしても、すぐには受け入れられず、むしろ、言い訳や弁解がたくさん出てきます。
「時間が無かったから」
「必要が無かったから」
「私も疲れてて余裕が無かったから」
「私が悪いんじゃなくて、あなたの方が悪いんじゃないの」
「いや、そういわれても、自分にはそんな権利はないし」とか。

でも、じゃあ、実際に罪悪感を感じていないか?というとそうではないんです。
自分が本来してあげられたこと、与えられたものがあった分だけ、その罪悪感は潜在意識に強く根を張ります。

それゆえに、この“何もしていない”罪悪感は繰り返されることが多く、気が付いたときにはすっかり自信を失っていたり、人間関係に大きな傷跡を残してしまっていたりする場合も少なくありません。

●“後悔”の種

また、こうした“何もしていない”罪悪感は、いわゆる“後悔”をたくさん作るんです。
「助けられたのに、なぜ、それをしなかったんだろう?」という風に。

もちろん、先ほど紹介したように何もしてないわけですから、言い訳はできるでしょう。
でも、後悔というのは、次から次へと出てくるもので、自分が本来すべきこと、できることをしなかったもの全てにおいて後悔を抱くようになります。

その後悔の念(罪悪感)は、次々襲い掛かるように自分を責め続け、そこでは一歩も前に進めないくらい自分を縛り上げてしまいます。

そこでは本当に苦しく、辛い気持ちで毎日を過ごすことになりますね。
それは時に「過ちを犯してしまった」時の罪悪感よりも強く自己攻撃を産むことすらあるんです。

●“今、できることは何だろう”という発想

そうした“何もしていない”罪悪感は何か問題が起きるまでは全く意識に上らないことが多く、また、意識に上ってきたときには後悔の念として激しい自己攻撃となるので、とても厄介な感情です。

そんな時は、まずは「できることにベストを尽くしてみる」ことをお勧めします。

夫婦関係ならば、パートナーに対して、今、自分ができる精一杯のことって何だろう?今の私が与えられるものって何だろう?って意識を向けてみることです。

仕事でも、対人関係でも、会社や周りの人に対して「今の自分ができるベストなことは何だろう?」と考えてみることが大切です。

出来ないことをやる必要はありません。
出来ることを出来る範囲で、一生懸命やるだけでいいんです。

無理して豪華な夕食を作るよりも、出来合いのお惣菜でもいいですから、自分なりに心を込めて出してあげる方が余程効果的です。
アイロンがけ一つとっても気持ちを込めてあげることがベストな策であることも多いんです。
目には見えないものですが、込めた気持ちは必ず相手のハートに届きます。

私達はあえて手を抜かない限り、ある程度ベストを尽くしているものです。
でも、そのことに私達はあまり気付かないように「何もしていない罪悪感」が仕向けてしまうのかもしれません。
そして、ベストを尽くしている自分を真っ向から否定し、本当に何もしていなかったように感じさせてしまうんです。

しなかったことにも理由がきちんとありますから、そこで強がるわけでもなく、また、自分を否定しすぎるわけでもなく、謙虚にその事実を受け入れられると、比較的楽にこの状況を抜け出して希望を見出すことができるようになっていきます。

●その罪悪感を作らないためには?〜お節介の勧め〜

“何もしていあい罪悪感”というのは、私達にとってみればごくごく普通にあるものですから、何もそれを怖れる必要はありません。
でも、それをできるだけ少なくするためには、「良かれ」と思うことはちょっとお節介と思ってもやってみる方が得策です。
しんどい状況でも、自分なりに出来ることを出来る範囲でやってみて下さい。

言い訳をしないというのはとても難しいチャレンジですし、言い訳しないようにすると、むしろ強がりになってしまうことだってありますから、あくまで「今できることにベストを尽くす」という意識がとても大切なんです。

やって失敗するよりも、やらなくて失敗する方がずっとこの罪悪感は強まります。
だから、「やっておいた方が良いこと」「こうしてあげた方がいいなあ」と思うことは、できるだけチャレンジしてみることで、満足感や充実感を高めてあげられます。

そして、万が一うまく行かなかった場合にも、しなかった場合よりもずっと後悔の念は少なくて済みます。
もちろん、「やりすぎたんじゃないだろうか?」「お節介すぎたかな?」という気持ちも無いわけではありませんが、ベストを尽くしたという意識を持てた分、その感情に苦しめられることはなくなります。

ですから、今日からはちょっとした“お節介”を心がけてみましょう。
誰かのための“お節介”は、自分自身の可能性を広げてくれるだけでなく、今そこにある関係性を変えていくためにも、とても効果的な方法です。

 

関連する講座へのリンク集
4.罪悪感の心理学〜罪悪感の心理学〜
104.罪悪感の心理学2〜その影響力と許しへの第一歩〜
142.罪悪感の心理学3〜“自分は毒である”という観念〜
190.罪悪感の心理学5〜誰かのせいにしてしまうのはなぜ?〜
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