自分の幸せを願う

心理学を学んでいると、「自分を許す」「幸せを受け取る」という言葉には何度も出会います。
けれど、「自分の幸せを願う」という言葉は、この2つに比べるとあまり見聞きすることは少ないように感じるのです。

私は心理学を学び始めて、もうすぐ15年になります。
その中で私は自分を許すことも、幸せを受け取ろうと思えるようになったことも、どちらもけっこう時間がかかりました。
それは、罪悪感と無価値感がとても強かったからです。

そんな私が今、なんと「自分の幸せを願う」ということをよく考えるようになりました。

幸せを受け取ることと、幸せを願うこと。
どちらも似ていますが、「時間軸」という部分では少し違う気がするんですよね。

受け取ることは「今」で、願うのは「未来」なんじゃないかなって。
そう感じるようになりました。

ですから、今回のタイトル「自分の幸せを願う」というのは、未来の自分に対してなんだなと思って読んでいただけたら嬉しいです。

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ここ数年、保護した犬や猫の新しい飼い主さんを探すボランティア団体が増えましたよね。
私にもそういう団体を主催している友達がいます。
その影響で私は芸能人が保護猫預かりボランティアをするテレビ番組が好きになり、よく観るようになりました。

保護猫預かりボランティアというのは、動物愛護団体などが保護した飼い主がいない猫を新しい里親が見つかるまで一時的に引き取り、お世話をするボランティア活動のことです。

番組では、最初はシャーシャーと威嚇したり、ベッドの下に隠れて出てこなかった保護猫たちが、少しずつ人間に心を許していく姿が描かれます。

そして人慣れして「もう新しい飼い主さんを探しても大丈夫そうだな」と判断された子は、譲渡会という新しい家族を探すイベントに参加します。

この譲渡会で新しい家族を探すのは、その猫を日々お世話してきた預かりボランティアさん自身。
いろんな飼い主さん候補とお話しする中で、「この家族はこの子が幸せにしてくれるだろうか」「この子にとってこの環境は合っているだろうか」という視点で慎重にマッチングを考えます。

だからどんなに優しい飼い主さん候補であったとしても、環境が合わないなと判断されると譲渡が成立しないこともあるのです。
それは、「この子がもう二度と、悲しい思いやつらい思いをしないように」という、強くて深い愛情があるからなんですよね。
なんて優しいんだろう…と、私はいつもテレビを見ながら感動しています。

そしてある時、ふと思ったんです。

私は動物の幸せをこんなに自然に願うのに、自分に対しては「もう二度とつらい思いはしないでほしい」「安心できる場所で幸せになってほしい」と願ってこなかったかもしれないなと。

私は学生時代に、いじめられていた経験があるんですね。
その影響もあって、ずっと「私が悪いからだ」という罪悪感と、「私なんかに価値はない」という無価値感が強い人でした。

だから私はずっと「私のような人間は愛されるはずがない」と思って生きてきました。

そんな私が心理学を学び始め、自分と向き合い、いろんなことが癒されていくと、漠然と「私も幸せになっていいかもしれないな」と思えるようになりました。
それはもちろん、沢山の人が私と関わってくれて、応援してくれたおかげです。

そして、いじめられていた学生時代の私に、

「あなたがあの苦しい時代を頑張って生き抜いてくれたおかげで、今の私はこんなに楽しく生きられるようになったよ。本当にありがとう。」

そんなふうに感謝ができるようにもなりました。
そして、過去の私の頑張りに報いるためにも、私は幸せになる義務があると思うようにもなりました。

だから私はもうこの時点で、自分の幸せは十分願えるようになったと思っていたのです。

でも、今回の預かりボランティアの番組がきっかけで、私は過去の自分に感謝はできるようになったけど、未来の自分に対しては「もう二度とつらい思いはしないでほしい」「安心できる場所で幸せになってほしい」と願ってこなかったかもしれない。

そう気づいた時、まだ私はどこかで「私はつらい思いをするのが当たり前」というような感覚が残っているのかもしれないなと思いました。

たぶん私は、どこかで不幸慣れしているところがあったんだと思います。

たとえ傷つくことがあっても、「私はそういう扱いをされるような人なんだからしょうがない」と思って生きてきた期間が長かったからです。

ここで保護猫の話に戻りますが、人慣れしていない猫というのは、極度に人を怖がるし、シャーシャーと威嚇するし、隠れるし、人には全く近づかないんですね。

そんな扱いにくい性格の子でも、預かりボランティアさんは根気強く関わり、優しく接します。
そしてその子を変えようとはせず、そのまま受け入れる。
そして、その子の個性ごと受け入れてくれる新しい飼い主さんを探すんですね。

これは私のように、どこか不幸慣れしている人にはすごく大切な視点なんじゃないかなと思うのです。

「自分を受け入れてくれる人を探す」「自分が安心できる場所を見つける」というのは、決して自分の幸せを相手に委ねるという意味ではありません。
あなたがあなたを幸せにするために、「自分にとってこの人、この場所は幸せなんだろうか」という視点を持ち、自分で選ぶということです。

それは、「私が何かしなければ愛されない」とは対極にある世界。

だからどうか、あなたがあなたを幸せにするために、「もうこれからは二度とつらい思いをせず、安心できる場所で幸せになってほしい」と自分の幸せを願ってあげてくださいね。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

コミュニケーションの問題の改善、クライアントが本来持っている才能を引き出すことを得意とする。心理分析や解説など、説明のわかりやすさには定評がある。明るく親しみやすい雰囲気と、論理的な思考をあわせ持つため、幅広い世代(10代〜70代)に支持され、LGBTの方からの相談も多い。