人の好意を素直に受け入れられない心理

素直な気持ちで喜びを表現するために

人から好意を向けられて本当は嬉しいのに、恥ずかしさから本心とは違う表現をしてしまうことがあります。これは「隠さなくてはいけない」と感じる心理の影響なのですが、そのせいで大切な人との関係が上手につくれないとなるととても残念なことです。素直な喜びで周りとつながりあうための講座です。

皆さんは、大好きな人に見つめられて「愛しているよ」と言われたら、どんなリアクションになりそうですか?

人それぞれに反応は違うでしょうが、たとえば、飛び跳ねて喜びを表現できる人。この表現ができる人は少数派かもしれません。

あるいは、うっとりと幸せを味わう人。こちらはなんだか大人な感じがします。

最後に、恥ずかしくて誤魔化してしまう人。嬉しいんだけどつい恥ずかしさが勝ってしまうと、素直な気持ちを抑えておどけてしまったり、ケチをつけてしまうなんてこともありそうです。

私たち日本人は文化的に「慎み深さ」や「遠慮すること」を美徳としてきた分だけ、自分の気持ちをストレートに表現することにあまり慣れていません。

差し出された誰かの好意を素直に受け入れて、喜びを表現することに抵抗を感じる人は少なくないようです。

たとえば、彼がデートの時にプレゼントをくれたのに、「今貰っても荷物になっちゃう」と不機嫌になってしまった。

または、夫が階段でバッグを持ってくれようとしても、「わたし自分で持てるから、ほっといて」と手を払いのけてしまった。

男性であれば、昇進して周りから褒めてもらっているのに、「いつもオレばっかり責任を背負わされるんだよ」なんて悪態をついてしまった。

そんな経験に覚えがないでしょうか?

本当はそんなことしたくないのに、周りからの好意や大切な人の愛情を感じると、「嬉しい」より「恥ずかしい」が強くなって、反射的に素直な気持ちを隠して本心とは違う表現をしてしまう。

なぜそうなってしまうかというと、私たちが何かを「隠さなくてはいけない」と感じる裏には、「これを知られたら、きっとわたしは嫌われてしまう」という心理が潜んでいるからです。

 

こうした心理は多くの場合、思春期にそのルーツを見つけることができます。

思春期になると、誰もが自分のすべてを見られることに「恥ずかしさ」を強く感じるようになります。

子供から大人の身体への変化を感じるようになり、身体に意識が集中していく分だけ「身長が低い」とか「足が太い」などのアラを探してしまいます。

すると見られたくない部分を隠したい欲求が高まっていくのですが、隠したいものは当然「良いもの」とは思えませんよね。

その結果、本来の自分自身を「良くないもの」「愛されるに値しない存在」だと扱っていくようになります。

自分を隠していたい気持ちが大人になっても同じままだと、好きな人から「好き」と言われたり、優しくされて嬉しいときに、自分を良くない存在だと思い込んでいる分だけ、喜びを素直に表現できなくなってしまうのです。

自分を良くない存在だと感じる「自己嫌悪」、自分は愛されるに値しないと感じる「無価値感」が強いほど、こうした傾向も強くなっていきます。

この心理の影響によって、恋愛などでは、本当はパートナーが大好きなのに気持ちが言葉や態度に表現されないので、その思いはパートナーにほとんど届かないということが起こりやすくなります。

あなたはパートナーを好きだという気持ちが相手に伝わっていると思っていても、パートナー側からすると一緒にいてもあなたが喜んでいるようには見えないわけです。

そしてある日、自分の無力さに耐えられなくなったパートナーから「もう別れよう」と言われるケースは少なくありません。

そうなってから、あなたが「違うの本当に好きなの」と伝えても、パートナーからすれば「全然そうは見えないよ!」と混乱させてしまい、関係の修復が難しくなってしまう場合もあるのです。

 

この問題を越えていくためには、素直な自分の思いを表現していくことが大切です。ただし、近しい関係の人だと抵抗も強く出るので少し関係が遠い人間関係で練習する方がハードルが低くなってトライしやすくなります。

たとえば、コンビニやカフェでお会計の時に店員さんに「ありがとう」「美味しかった」と伝える。

または、友だちや会社の同僚の長所を見つけて伝える。

ポイントは伝えた際に相手がどんな表情で喜んでいるか、どんな反応を返してくれるか、それをよく見てみることです。

自分の存在を相手に喜んでもらう体験をすることで、「わたしは良くない存在」という自己概念が徐々に小さくなっていきます。

目の前の人が「わたしを喜んでくれている」という感覚を積み重ねることで、「きっと嫌われる」という思い込みが「きっと受け入れてくれる」に変わっていきます。

自分の素直な気持ちが相手の喜びになることを肌で実感できるようになれたら、隠さないといけないと感じていた自分はずいぶんと小さくなっているはず。

「どんな自分でも愛される。受け入れてもらえる。」この感覚を心の中に育てていけるほど、周りからの優しさや愛情を素直に受け取れるようになり、大切な人たちとの親密な関係を作りやすくなります。

恥ずかしさの向こうにある素直な気持ちを表現することは、「人と喜びでつながりあえる」人生の次のステージの扉を開けるための大切な鍵になってくれるでしょう。

(完)

この記事を書いたカウンセラー

About Author

超自立男性との恋愛・コミュニケーションに関わるお悩み・慢性的な生きづらさの解消などを得意とする。 理論的な“心理分析”と、感覚を使った“心理セラピー”を活用する多面的なサポートが好評。 問題の裏に隠れた「真実の物語」を読み解き「自分の本質を生きる」ことを目指すカウンセリングを提供している。