“つながり”のつもりが、苦しくなるとき(3)〜どこまでが“わたし”で、どこからが“あなた”?〜

「相手のために」と思っていたのに、どうしてこんなに苦しくなるの?

共依存の関係では、自他の境界線がにじみやすくなります。
支える側も頼る側も、それぞれの線引きがあいまいになることで、疲れやすく、すれ違いも生まれがちに。
その仕組みをわかりやすく解説します。

「どうして、あの人のことでこんなに疲れるんだろう?」

大切に思っているはずの人との関係で、なぜか疲れたり、モヤモヤしたりする。
その原因が、「境界線のにじみ」にあると聞いて、ピンとくる方もいるかもしれません。

「境界線」——心理学で言うそれは、「自分と他人とのあいだの線」のこと。

物理的な距離ではなく、感情や責任、思考や行動の領域を明確にする“心の輪郭”です。

■ 気づかぬうちに、自分の領域がぼやける

たとえばこんなことはありませんか?

・誰かの不機嫌にものすごく振り回されてしまう
・頼まれていないのに世話を焼いてしまう
・「嫌だな」と思いながらも断れず引き受けてしまう
・相手の課題なのに、自分が責任を背負っているように感じる

それは、自分と他人との間にあるはずの境界線があいまいになっているサインかもしれません。

本来、「自分がどう感じているか」「どうしたいのか」は自分だけのもの。
でも、共依存の関係性では、相手を優先しすぎたり、感情を引き受けすぎたりして、どこまでが自分のことなのか、よくわからなくなっていくのです。

■ 支える側に起きていること

たとえば、家族に問題を抱えた人がいたとき。

「私がなんとかしなきゃ」「私が頑張れば、あの人も立ち直れるはず」と、責任感や優しさから、献身的に支えようとする人がいます。

でも、それが続くうちに——

・自分の予定を犠牲にしてでも相手を優先する
・助けても感謝されず、かえって不満を言われる
・少しでも距離を取ると罪悪感を覚える
・疲れているのに、「まだ足りない」と思ってしまう

こんな状態になってしまうとしたら、それは「助けること」が自分の存在価値になってしまっている可能性があります。

自分がしんどくても、その苦しみすら気づかないふりをしてしまう。
その裏には、「見捨てられたくない」「必要とされたい」という切実な想いが隠れていることもあるのです。

■ 頼る側に起きていること

一方で、「助けてもらう側」にも、境界線の問題は起きています。

・自分の感情を相手に丸ごとぶつけてしまう
・「どうせ私なんて」と言いながら相手の反応を待ってしまう
・生活費の支援や家事などを、当然のように任せてしまう
・何かを断られると、「冷たい」と感じて怒ってしまう

たとえば、ある女性は就職してもすぐに仕事を辞めてしまい、経済的な支えを親に求め続けていました。
最初は申し訳なさそうにしていたものの、数年経つと「また助けてくれるよね」が当たり前になっていた。

また、ある男性は、恋人との関係の中で「私がいないとダメなんだろうな」と思わせるような態度を無意識に取っていた。
ちょっとした体調不良や気分の落ち込みでも、すぐに連絡し、「来てくれないと無理」と頼る——そんな繰り返しの中で、相手に断られると、「なんで来てくれないの?」と怒りが込み上げてきたといいます。

これは、相手の境界線に無自覚に踏み込んでしまっている状態。
「助けてもらって当然」と思っているわけではないのに、不安や恐れから、相手の反応に敏感になりすぎてしまうのです。

■ “混ざり合った関係”の中で起きるすれ違い

共依存の関係では、お互いが自分と相手を混同しがちです。

助ける側は「相手のために頑張っている」と思っていても、どこかで「これだけやっているのに」という見返りを期待してしまったり、助けても何も変わらない現実に、無力感や怒りを抱えたりします。

頼る側は「自分を必要としてくれているから大丈夫」と思っていても、いざ相手に拒絶されると、見捨てられたように感じて深く傷ついたり、相手を責めたりする。

このように、どちらもが「相手の中に自分を置いている」ことで、一方が変わろうとすれば、もう一方が不安になって抵抗する——そんな状態が起きるのです。

■ 線を引くことは、冷たくなることではない

境界線を引くというと、「ドライになる」「突き放す」といった印象を持たれるかもしれません。

でも実際には、自分と相手の感情や課題を分けることは、相手への敬意でもあり、自分を守るための優しさでもあるのです。

これは、相手の問題。私は助けたいけれど、代わりに生きることはできない

今感じているモヤモヤは、私の感情。相手がどう思うかは相手の領域

助けたいときも、自分のキャパを超えていないか、一度立ち止まってみる

そうやって少しずつ、心の輪郭を取り戻していく。

共依存の関係は、どちらか一方が“悪い”のではありません。
お互いに必要とし、支え合おうとしたからこそ、混ざり合ってしまった。

その優しさを否定せずに、ただ少しずつ“自分の場所”に帰っていくこと。
それが、苦しいつながりから抜け出すための、大切な一歩です。

(続)

心理学講座4回シリーズ/同シリーズ記事はこちら
  1. “つながり”のつもりが、苦しくなるとき(1) 〜“支えること”をやめられない理由〜
  2. “つながり”のつもりが、苦しくなるとき(2)〜“助けられること”から離れられない心〜
  3. “つながり”のつもりが、苦しくなるとき(3)〜どこまでが“わたし”で、どこからが“あなた”?〜
  4. “つながり”のつもりが、苦しくなるとき(4)〜それでも、つながりを諦めたくないから〜

 

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この記事を書いたカウンセラー

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恋愛や結婚、浮気や離婚など男女関係、対人関係やビジネス関係、家族関係や子育て、子供の反抗期、子離れ、親離れ問題など幅広いジャンルを得意とし、お客様からの支持が厚い。 女性ならではの視点と優しさ、母としての厳しさと懐の深さのあるカウンセリングが好評である。PHP研究所より3冊出版。