許しとは、相手を許すことではなく自分に許可することです。
◇母への怒りが対人関係の問題をつくる理由
お母さんへの怒りが対人関係の問題にあらわれる理由として、心の投影というしくみがあげられます。
投影というのは、自分の心の中にある感情や経験などを、心の外に映し出すことをいいます。
たとえばお母さんのことを、自分勝手ですぐに怒り出すから分かり合えない人だと感じていて、そんなお母さんに恨みつらみがあったとします。
そうすると、その思いを投影し、お母さんに対するのと同じような心理的反応を、まったくの他人に感じてしまうということが起きるのです。
もし上司に投影した場合、その上司が(お母さんと同じように)自分勝手ですぐに怒り出すから分かり合えない人だと感じてしまうことがあるのですね。
◇許しがすすめられる理由
お母さんとの関係を投影して対人関係の問題を抱えているとき、その対処法は2つあると言われています。
ひとつは、「投影を取り戻す」といいますが、お母さんを投影していたせいで上司を自分勝手だと感じていたのだなどと「投影していたことに気づいて」、本当は上司は自分勝手じゃないかも、などとその方への「捉え方を変える」というやり方です。
もうひとつは、お母さんに対する恨みつらみに向き合い、心の癒しに取り組むことで、お母さんへの否定的な心理的反応を軽減し投影しなくなる方法で、「許し」といわれています。
許しによってお母さんへの恨みつらみを解消すると、上司との関係が改善されるだけでなく、現在から未来にわたって出会うであろう数多くの人への投影がされなくなります。そのため対人関係の問題の多くが解消されるといえるので、許しは非常にパワフルな癒しの手法としてすすめられることがあるのです。
◇許しとは
心理学でいう許しとは、「人を許す」ことではなく「許可」することをいいます。
「あなたが大きな愛になることを許可する」のです。
お母さんがやったことを「理解できなくはない、共感できなくはない」と思い、その結果としてお母さんを責める気持ちがなくなり、あなたが楽になると言えるでしょう。
大きな愛がわかりづらいとしたら、大きな器でもいいかもしれません。「あの人は器が大きい」などと表現することがある、あの器です。
具体的な例を一つあげたいと思います。
たとえばあなたの幼少期に、お母さんがよくあなたに罵声をあびせていたことで、いまお母さんを恨んでしまっているとします。
「あなたが大きな愛になることを許可」するとしたら、あなたは「もっと大きな愛になりたいけど、どうすれば大きな愛になれるんだろう」と考えるかもしれません。
そして、大きな愛になれる方法をあれこれ考えたり、人に聞いたりするかもしれません。
そこで、あるカウンセラーがあなたに、「あなたのお母さんの親友の目になって、お母さんを見てみたらどうでしょうか」と提案したとします。
自分の子どもに向けて罵声をあびせている親友に、あなたならなんと声をかけてあげるでしょうか。
「お前はとんでもなくひどい母親だ」と、言いますか?
たぶん親友なら、そうは言わないんじゃないでしょうか。
「いったい何があったの?」と問いかけるかもしれませんね。
ご主人と喧嘩でもしたの?
お姑さんとうまくいってないの?
色んなことがうまくいかなくて、すごく疲れているんじゃないの?
そんな言葉が思い浮かぶかもしれません。
子どもにきつく当たってしまうには、子どもが憎いとか、いじめたいわけではなくて、どうにもならない辛い思いを抱えているんじゃないかと、親友どうしならば考えられるからなんですよね。
お母さんに恨みつらみがあるとき、親に対して自分は子どもであるため、私たちはつい自分を弱い立場や被害者の立場に置いてしまうので、お母さんを対等な大人同士として見ることが難しいのです。
相手が親友ならば、あなたは大人として対等に、思いやりを向けることができるはずです。
かつて罵倒してきたお母さんのことを、親友として見るなんて、腹立たしいと思うのがふつうかもしれません。
あえて親友の目で見ようとするなんて、なんて器の大きい人なんだ!と思いませんか?
そんなふうに、器の大きい自分になることを自分に許可することが、許しの主旨といえるのです。
「ごめんなさい」も「許して」も言わないお母さんをあなたのために、今までとは違う器(あるいは愛)の大きさで見てみようかな、とか、お母さんを対等な大人どうしの目で見てみようかな、という勇気を持つことから、許しは始まるのではないでしょうか。
(完)