声が出ない夢の秘密――心がくれるサインを見逃さないで

小さいころから、何度も見る夢ってありませんか?
トイレを探していたり、学校で忘れ物をしてしまったり。
誰でも一度は見たことがあるような、繰り返される夢。
私にも、そんな夢がありました。

それが、「火事の夢」です。
煙がもくもくと立ち上り、火の手が迫ってくる中、最初に気づくのはいつも私。
「火事です!逃げて!」と叫ぼうとしても、なぜか声が出ないんです。
胸が締めつけられて、体も動かなくなる。
目が覚めると、心臓がバクバクしていて、しばらく動けない。

何度も同じ夢を見ていたので、夢の中で「あ、これ夢だ」と気づくことさえありました。
それでもやっぱり、声は出ないまま。
目覚めた後も、ずっと胸が苦しくて。

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大人になってから、あの夢がまた頻繁に現れるようになったのは、ちょうど、仕事の人間関係に深く悩んでいた頃でした。

「あと123日…122日…」
カレンダーをにらむようにして、指折り数える毎日。
朝早く会社に行く私を、周りは「頑張っている」と思っていたかもしれません。
でも実際は、「やる気がある」わけじゃなかったんです。

ただ、苦手な人の顔を見たくなくて。
誰もいないうちに、大きな観葉植物をそっと動かして、その人の姿が視界に入らないようにしていたこともありました。

心のどこかではずっと、「このままじゃだめだ」と感じていたのでしょう。
でも、どうすればいいのかはわからない。
変わらない現実の中で、体調も崩しがちになり、だんだんとすり減っていきました。
そんな日が続く中で、夢の内容は次第に変わっていき、今度は誰かに首を締められる夢を見るようになったのです。

声を出そうとしても、やっぱり出せない。
苦しくて怖くて、目が覚めても、しばらくは体が動かせない。
もちろん現実には何も起きていないのに、心と体がずっと緊張したまま。
朝になっても、その感覚だけが残っている。

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心理学では、夢は「無意識からのメッセージ」と言われています。
実際に、自分では気づいていない気持ちや不安が、夢に姿を変えて現れることがあります。

きっと私は、現実の中で「助けて」が言えなかった。
だから夢の中で、声を失って叫んでいたのかもしれません。

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あるとき、ほんの少しだけ、「しんどい」と口に出せました。
すぐに何かが変わったわけではないけれど、一歩踏み出したことで、自分の気持ちに目を向けるようになりました。

最初は戸惑いもありましたし、「こんなこと話していいのかな」と不安にもなりました。
小さなことでも言葉にしていくうちに、少しずつ、気持ちがやわらいでいったんです。

それでも、腹が立ったり、悲しかったりして、すぐには前向きに考えられない出来事もありました。

けれど、そんなときこそ、誰かに話を聞いてもらうこと、助け(頼ること)を求めること――
それは、弱さではなく、勇気なんだと気づけたのです。

感情は波のように寄せては返して、感じていくうちに、少しずつ落ち着いていきます。
(こうしたプロセスを、「昇華」と呼ぶこともあります。)
やがて、感じた小さな安心が、「人の心にも触れてみたい」という思いにつながっていきました。

カウンセリングを受ける側だった私が、今ではカウンセラーとして、誰かの心に寄り添う時間を共にしています。
よく「ピンチはチャンス」なんて言いますが、あの頃を思い出すと、しみじみそう感じます。

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不思議なことに、「助けて」と声に出せるようになってから、あの夢は、すっと姿を消しました。

もちろん、それだけが理由ではないかもしれません。
でも、私にとっては大きな変化でした。

もしまたあの夢を見る日が来ても、きっと今なら、「ああ、心が教えてくれてるんだね」と、やさしく受け止められる気がします。

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最近、どんな夢を見ていますか?
繰り返し見る夢があるなら、それは、心がずっと伝えようとしている大切なサインなのかもしれません。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

『私なんか…』から『私でいいんだ』へ  顔色をうかがう優しさの奥にある、魅力や本音を引き出し、心をそっとほどくサポートが得意。 自己否定しがちな20〜40代女性に深く寄り添い、恋愛も人間関係も自然に楽しめる未来を一緒に目指す。 ✧ 無理に変わらなくていいカウンセリングが好評