今年の夏のはじめ、赤のカラーマスカラを買いました。
 大好きなライターさんが、ご自身のブログで、老舗文房具メーカーが開発したカラーマスカラを載せていたのです。
 一目みて、綺麗だなって思ったんですね。
 使ってみた感想として、文房具メーカーならではのこだわった色合いで、意外に使いやすいしオススメですよ~って
 べた褒めされていたのを読んでむしょうに欲しくなったのでした。
 名駅地下のドラックストアを3軒まわり、でもそのメーカーのは置いてなくて、思いついて東急ハンズをさがしてやっと見つけました。
 慌てて化粧品を探し歩くのなんて、物欲が薄いわたしにしては珍しいことで、なんだか新鮮な経験でした。
 部屋の姿見鏡のまえに座り、さっそく開封したマスカラは、写真でみたよりさらにパキッとした色合いでした。
 ドキドキしながら、まつ毛にのせました。
 帰りぎわに立ち読みしたファッション誌には、目尻だけにワンポイントでのせるって書いてあったけれど、そんなテクニカルな使い方はあきらめていさぎよく上まつ毛ぜんたいに。
 丁寧に塗り重ねた結果、普通ではありえない色にそまったまつ毛を、鏡にちかづいたりはなれたり、斜めから見たりしながら確認してみて、うん、とわたしは思いました。
 お洒落かどうかよくわからないけど、少なくともヘンじゃない。
 なんだか鳥みたいで、でもわたしのさっぱりした雰囲気には馴染んで、自分で見る限りヘンではない。
 よし来週、心理学の仲間と会うときにつけていこう~と、上機嫌で考えていたら、そういえば大学時代のころ、髪の毛を鮮やかな色にそめてみたい欲求があったことを思い出しました。
 大学生のわたしは、いわゆるキャンパスライフに馴染めずに、逃げ道として勉強ばかりしていました。
 いまよりもっともっと自分に自信がなくて、自分のことが嫌いだったころです。
 綺麗なものが自分に似合うなんて思えなくて、化粧もお洒落も苦手で、でも華やかな女の子たちの中でスニーカーにジーンズなのも恥ずかしくて、いつもグチャグチャな気分でした。
 髪を染めたいという想いは、ばくぜんとしたものでした。
 鮮やかな髪の色など、自分には手にあまると思ったし、本気で実行する気などさらさらありませんでした。
 ただ人混みのざわめくキャンパスで、息苦しさにあえぐたび、はっとするような色で髪を染めてみたいという欲求を覚えたのでした。
 その欲求は、今思うと、自由になりたいという気持ちによくにていました。
 自由になりたいとは、つまり、自分を表現したい、ということでした。
 わたしが今のように、お洒落を楽しめるようになったのは、母校の神戸メンタルサービスに所属したことが大きいです。
 だってまず、アロハとサスペンダーと紫のサンダルの派手なおっさん講師(社長)が、セミナーしてるんだもん。(笑)
 ファッションで冒険してみて、多少失敗しても、セミナー会場ではコントラストがきいてるからあんまり目立たないだろうと思ったんですね。
 セミナーに着ていく服を選ぶときは、無難さよりも着てみたい服を選んでみるようになりました。
 色を帯びていくわたしの格好を、たくさんの仲間がよろこんで褒めてくれました。
 わたしが自分らしさを表現しはじめていることを理解して、自分たちはそれが嬉しいよって、直球で伝え続けてくれたのでした。
 服装の変化に比例して、わたしは自分の気持ちを話すようになりました。
 そうこうするうちに、いつしか息苦しさ薄れてゆき、ふと自由だなあと思う瞬間がふえていったのです。
 次の週、カラーマスカラをつけて、仲間たちと会ったとき、彼女らはわたしの目をのぞきこんで、赤い!赤い!よく似合う!と笑いました。
 似合うと評されたことにホッとして、わたし少し変わったファッションが好きなんだよねと答えたら、
 知ってるよ、なんであれちょっと独創的なとこがマミの魅力よねって云ってくれました。
 まばたきすると、なんか南国の鳥みたい、とも。(笑)
 さてさて。
 自由になりたいって思うとき。
 自由になるのはすごく難しいことで、例えば今の生活を棄てて海外を放浪するみたいな、思いきったことをしないと得られないような気がしますよね。
 でもね、自由って感じるものなんですね。
 実のところ、自由を感じるきっかけって、そんなに大げさなものじゃないです。
 それこそ1500円のマスカラひとつで、得られるものなんですね。
 海外を放浪するのも悪くはないですか、でもまず先に、もっと自分を表現してみませんか。
 いつもひと目を気にして、息を殺している自分の心を、言葉でも、絵でも、歌でも、ファッションでも、お菓子作りでも、手段なんでもいいから解放してあげませんか。
 それがどれほどの自由な感覚を与えてくれるのか、味わってみてほしいなと思います。
 読んでくださって、ありがとうございました。
 みなさんのお役に立てたら幸いです。
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