組織やチームを引っ張る立場にある方ほど、ふとした瞬間に「限界かもしれない」と感じることはないでしょうか。
目に見える成果は出している。
部下の成長にも手応えを感じている。
「さすがですね」「頼りになります」と評価される機会も増えている。
それなのに、夜ひとりになると、こんな思いが浮かんでくることがある。
「本当に、これでよかったのだろうか」
「誰にも言えないけれど、ずっとしんどい」
「このまま走り続けるのは、もう限界かもしれない」
実際にカウンセリングの現場では、経営者や管理職、リーダー職の方から、こういった声が少なくありません。
◇「強さを期待される人ほど、ひとりになってしまう」
心理学では「役割」という考え方があります。
人は、組織や家庭、社会の中で“求められる役割”に応じて、自分の一部を抑えたり、切り離して行動することがあります。
とくに、上司やマネージャー、リーダーという役割を担う方ほど──
・弱音を吐いてはいけない
・迷いや不安を見せてはいけない
・どんなときも冷静でいなければいけない
そんな“理想のリーダー像”を無意識のうちに作り出し、感情や本音を奥にしまい込みやすくなることがあるのですね。
結果、頼もしい存在に見えるその裏側で、「誰にも見せられない孤独」や「答えのない葛藤」と、たったひとりで向き合っている方も少なくないようです。
◇「感情を抑えること」が判断力を鈍らせる
また、ビジネスの現場では「感情よりも論理」「感情を排除して判断を」と求められる風潮がありますよね。
もちろん、リーダーには冷静な判断力が求められますし、感情に振り回されないことも重要です。
でも──
“感情を完全に切り離してしまう”ことは、むしろ思考の柔軟性を奪ってしまうこともあるのです。
・本当は小さな違和感があったはずの場面で、スルーしてしまったり。
・メンバーのちょっとした変化に気づきにくくなったり。
・自分自身の「これ以上は無理かもしれない」というサインにも、気づけなくなってしまう。
感情は、リーダーにとって単なるノイズではなく「大事な判断材料」でもあるのですね。
◇心の余白が、リーダーを育てる
心理学者ウィニコットが提唱した「ホールディング環境」という概念があります。
これは、子どもが安全に感情を出せる「安心の土台」を指しますが、大人にとっても「そのままの自分でいても大丈夫」と思える場は、思考と感情を整えるために不可欠です。
とくにリーダーや管理職にとっては、そうした「戻れる場所」があることが、柔軟な発想や対人感受性の回復に深く関わってきます。
感情を安心して扱えるようになると、視野は広がり、選択肢も増えていきます。
そのためにも、リーダーこそ「自分が安心して自分の本音を話せる人や、心を預けられる安心できる場所を作ること」が、とても大切なのですね。
たとえば・・
「答えを出す場」ではなく「ひとりの人間として話すための場」を持つこと。
判断を迫られる日々の中で、私たちはつい「話す=解決すること」と思いがちですが、実は、“素直な気持ちを話して受け止めてもらうこと、そのもの”に大きな意味があります。
実際に、私の元へカウンセリングにいらっしゃる経営者や管理職の方々からは、よくこんな言葉を耳にします。
「よく考えたら、自分の話をする時間なんて何年もなかった」
「正解ばかりを探していたような気がします」
「いつのまにか、プライベートの中ですら、本当の自分で付き合える人がいなくなっていたことに気づきました」
知らないうちに、それくらい誰にも見せられない「本当の顔」を抱えていることって多いですからね。
◇大切なのは“ひとりの人間としての心の居場所をつくること”
人を育て、支え、成果を出してきたあなたが、自分の素直な感情と向き合う時間は「弱さ」でも「甘え」でもありません。
組織を健全に保ち、あなたらしいリーダーシップを育てていくための、大切なプロセスでもあります。
もし、どこかで「もう限界かもしれない」と感じているなら──ほんの少し、立ち止まってみませんか?
あなたにも「安心して弱音を吐ける場所」があっていい。
あなたにも「ただの“人”として立ち戻れる時間」があっていい。
感情を整え直すことは、あなた自身のためだけではなく、チーム全体の未来にもつながっています。
どうかご自身の心にも、少しだけ優しい目を向けてみてくださいね。