必要なものは全て与えられますからねえ…
と、カウンセラーは言ったのでした。
もう20年近く前のことです。
当時、相変わらず変だなこの人、と思ったのは事実ですが、妙に心に残り、その後、折に触れて思い出す言葉になりました。
その頃私は、30代半ばで、なんとか人生のどん底期を脱しようとしていて、カウンセリングを使っていました。
同時に悩んでもいました。
カウンセリングサービスの母体である、神戸メンタルサービスのカウンセラー養成コースを受講するか否か、と。
3人以上で人は小社会を作るなんて言いますが、グループの中では、自分が社会で取り得るポジションや、対人関係でつい取りがちな行動パターンがはっきり見えてくると聞き及び、グループセラピーの場で臨床をするカウンセラー養成コースは、自分の行動の「あら」が出てきやすく、一人でどうにかしようとするよりずっと、修正に至りやすいだろうと考えたのです。
問題は山積みでしたが、他人や目の前の相手を変えようとするのではなく、「自分自身の対人関係パターンに、もう一度取り組まない限りは先に進めない」と結論していました。
それでも悩んでいた理由はお金です。
当時、私は派遣社員で働き、一人暮らしをしていましたが、お世辞にも余裕のある生活とは言えませんでした。
お恥ずかしながら、離婚と自己破産、生活保護からどうにか生活を立て直し、どうにか働いて日々を回せるようになってしばらくの頃で、残念ながら、めぼしい貯金もなかったのです。
コース受講の料金を捻出すると、暮らしは良くてカツカツ、普通に考えて破綻することは目に見えていたのです。
冒頭は、コースを受講したいけどお金がない、と世話になっていたカウンセラーにこぼした時に返ってきた言葉です。
本当にこの人はいわゆる「ノウハウ」は教えなかったなあ、と改めて思い出しますが、時折、インスピレーションが湧くようなことや、ハッと気づくようなことを言われて、心理学的な仕組みとでもいうようなものを教わると、心の力の不思議さが理解できました。
実際に、気付いた通りにやってみると「本当にそうなる」ので、心理学ってすごく面白い、と感じて、毎回のカウンセリングは進んでいたのです。
必要なものは全て与えられる。
あれから20年近く経ち、今では、私は解説する側ですが、非常に面白いものの見方であり、心の力の使い方だとつくづく思いますが、いわゆる「引き寄せ」とはちょっとニュアンスが違うと私は思っています。
「その人の人生に本当に必要ならば」という枕詞をつけるといいかもしれません。
したがって、与えられていないものは、その人の人生には本当には必要のないもの、と理解できますよね。
あるいは、本質的にはこういう感じかな、と思います。
その人が真実の道を行こうとするならば、必要なものは全て与えられる。
自分のこととしても、カウンセリングをご利用頂く方に起きることとしても、その通りだと実感します。
いや絶対に無理でしょ、と思うことでも「その人が真実の道を行こうとするならば」、そうくるか、とか、その手があったか、とかの、奇跡的なルートを通って与えられるのです。
当時、何者でもなかった私は、カウンセラー養成コースを受講したいけど、お金がないと悩んでいたわけですが、自覚は全くないものの、真実の道を行こうとしている、という、まさに与えられるための絶対条件を満たしていたのです。
必要なものは全て与えられますからねえ…
カウンセラーから聞いた言葉は、リトマス試験紙として作用しました。
与えられないなら、真実の道ではないとわかるわけですから。
当時、IT系のお仕事をしていましたが、お給料は悪くはなかったのです。のんびりした会社にお世話になっていましたし、自分の時間も取れていました。
勉強したり、ヒーリングワークに参加する時間はある。
でも、まだ貯金がない私に取っては、受講料を払うのは、かなりリスキーな判断でした。
派遣社員ですから、契約満了が見えてくると、継続して求められるのであれば、契約更新するか否かを決める必要があります。
本当に温かくていい会社でしたし、派手ではないけど堅実な経営をしているのは伝わってきていましたし、当然、私が働いていた職種に見合ったお給料で、むしろ少し高めでしたし、場所もとても気に入っていたので、いわば「これ以上ない」職場でした。
おかげで、悪い思い出が全くありません。
しかし、判断を、神様に委ねることにしたのです。
もっと単価の高い仕事を狙ってみよう。
そう思って、派遣契約の更新をしない決断をしました。
その人が真実の道を行こうとするならば、必要なものは全て与えられる。
さても、カウンセラー養成コースの受講は、私の人生にありやなしや。
仕事は、これまでと同じように派遣で探しましたが、やはりお世話になっていた会社は、とても良心的だったので、同等か、それ以下はあっても、もっと単価の高い仕事だと、同じ職種では見つかりません。
より専門的で、スキルが高くないと難しい。
いくつか面接に行き、いくつかお断りされ、いくつかお断りしました。
派遣社員だけでなく、請負契約など、労働形態も変えましたが、こちらはもっと、スキルの高い職種の人の登録が多いため、あまり真剣には探していませんでした。
ところが、ある日のこと。
派遣ではなく、請負仕事の紹介会社からお声がかかります。
仕事内容を確認しましたが、私のスキルで働けそうではあります。
しかし頂ける金額が、これまでのお仕事よりかなり単価が高く、えっ、本当に私でいいの…?と思うほどでしたが、請負う期間からざっと計算してわかってしまいました。
初級のコース料金が、不安なく払えることに。
まじか…。
仕事の内容がざっくりしすぎで、一抹の不安がありつつも、とりあえず面接に行きました。
面接後、さらに、まじか…と思ったのは。
あっさりオファーを頂いたからです。
ああ、決まりましたか。
カウンセラーは呑気な答えでしたが。
今ではわかるのです。
私が真実の道を行こうとしている、と、見ていてくれたことが。
非常に面白いことに。
これだけ頂けるなら、相当頑張らなきゃな、と思っていたのですが、入職してわかりました。
全然忙しくない。
仕事の内容がざっくりしすぎたのも当然だわな、と思いました。
でも、ありがたいことに、家に帰ってからの時間を有効に使える。
尚且つ、駅近も駅近で、会社の入るビルを出てすぐ目の前が東京駅です。
日本橋口なので、駅の北端ですが、江戸城の名残を感じられるエリアにあり、とても好きな場所でした。
さらに、支店に社員さんと出張に行かせてもらったこともありました。
案の定、出張先の生まれて初めて仙台でも仕事は忙しくなく、美味しいものをたくさん食べて帰ってきました。
遮るものは何もないどころか、ボーナスステージのように、楽しい思いをたくさんさせて頂きました。
来年度の予算が部署にちゃんとつくように、人を雇っておかないといけなかったみたいだよ、と、誰かから聞きましたが、本当かどうかわかりません。
でも、世の中には、こういう仕事もあるんだなあ…などと感慨深く感じました。
今、私はカウンセラーとして生きていますから。
あの会社のおかげで、今の私があるわけですよね。
その後も、いくつかの職場を経験しましたが、本当に上手い具合に、コース料金を払えるくらいのお金がちゃんと手元にやってきました。
カウンセリングでお話を伺っている方のプロセスを見ていると、その人が「勝負に打って出る」ようなことがあります。
人生を賭けた一大プロジェクトで、勇気も要りますし、当然、お金もかかります。
しかしやはり、真実の道を行こうとするならば、必要なものは全て与えられると実感します。
なんというか、流れに乗るんですよね。
応援するエネルギーが巻き起こって、ありえないような奇跡が次々と起こる。
まさに、必要なものは全て与えられるのです。
最近も、これはものすごい奇跡だな、と感じる偶然やシンクロニシティ(共時性:因果関係のない複数の事柄が同時に起きていること)ことが、幾重にも重なって起きています。
時代を遡り、あの時成し得なかったことが、次は成されるようにと、真実の道へのうねりを痛感します。
ご縁をいただいた会社の入っていたビルは、東京駅周辺の再開発エリアにあったためすでに存在しませんが、跡地に新しく建てられようとしている建物の名前は、松明(たいまつ)を意味するということを知り、なんだか神様からのメッセージのようだなと思いました。
どんなに暗くても、真実の道を行くとき、道は必ず照らされる。
必要なものが全て与えられるのは、本当に多くの人の喜びとなるための道を行くからだろう、と私は思うのです。