押し付けに過敏に反応してしまう心理の原因と、癒しによって生きやすくなった事例を紹介します。
■心がダメージを負うとそのジャンルはストレスを感じやすくなる
すぐに役立つ心理学講座
『心のアレルギー反応とは?:押し付けアレルギーを例に仕組みと克服法を解説』
という記事では、心がダメージを負うことがあると、
ダメージを負ったジャンルのことに対してストレスを感じやすくなるという心理的な仕組みと、その克服方法を解説しました。
*詳しくは、こちら>>>
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■心のアレルギー反応の仕組みと克服法
心のアレルギー反応について、簡単に解説。
例えば、子どもの頃に
「あれしなさい」「これしちゃダメ」「これ習いなさい」「この子と遊んじゃダメ」
などと押し付けられることで、辛い思いをした人がいたとします。
その方が大人になっても、心にその時の辛かった感情が癒えきれず、心に残っていたとします。
すると──
大人になってからの恋人、友人、同僚などの関係で、
「これやっといて」
「これしないで」
といった押し付け感のある会話や行為に、人一倍ストレスを感じやすくなります。
人一倍というより、人二倍、三倍、四倍と感じる人もいます。
イラッとして攻撃的になったり、その人のことを嫌いになるほどストレスを感じる人もいます。
心が「押し付け」ということに対して、アレルギー反応を示してしまうのですね。
この心のアレルギーがあると、社会(パートナーシップ、仕事の人間関係、友人関係など)との関わりで、
“ある一定数いる”そのタイプの人たちとの関係において、ストレスを多く感じ、生きづらくなってしまいます。
そのため、このアレルギー反応がなくなっていくと、生きやすくなります。
では、どうしたらいいのでしょうか?
それには、心のアレルギーを作ってしまった時の「傷ついた感情」を癒すことが大切なのです。
今回は、具体的なケースをもとに、心のアレルギー反応の弊害と、
それがなくなるとどのように生きやすくなるのかを説明したいと思います。
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■職場の上司の「〇〇すべき」がつらい:A子さんのケース
A子さんという女性のお話。
A子さんは、職場の上司との関係で疲れていました。
その上司は、
「仕事なんだからこう考えなきゃいけない」
「こういう時はこうしちゃいけない」
「これはこうするべきだ」
というような口調で接してくるタイプの人でした。
「こういう考えもあるけど、こうしてみたら」
というような柔らかい接し方ではなく、
「〇〇しなければいけない」
「〇〇しちゃいけない」
「〇〇すべきだ」
というコミュニケーションの取り方をしてきます。
考えを押し付けられているように感じ、その上司と接するとA子さんはストレスがいっぱいになります。
同僚たちに愚痴ると、
「『はい、わかりました』って言って聞き流しとけばいいじゃない」
とアドバイスされますが、A子さんは聞き流せず、心が疲弊してしまいます。
そして、
『他の人は聞き流せているのに、聞き流せない私は心が狭いのかなぁ……』
と自分を責め、自分が未熟な人間のように思えて、ますます心が疲れていきます。
職場が終わっておうちに帰っても、上司に言われたことを思い出したくもないのに浮かんできて、嫌な気持ちになってしまいます。
「なるべくあの上司と話したくないなぁ」
そう思いながら出勤するのですが、直属の上司である以上、関わらないわけにはいかず、毎日心が削れていきました。
やがて、毎日のストレスに心が蝕まれていき、
『明日は出勤したくないなぁ……』
そんなふうに思うほど、A子さんの心は弱ってしまうのでした。
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■同じ言葉でも感じ方は人それぞれ――なぜ私はつらいのか?
「〇〇すべきだ」という押し付け感のある同じ上司の言葉でも……
・「はい、気を付けます」と表面的には言うけれど、聞き流せる人もいます。ストレス的にはノーダメージの人です。
・「めんどくさい人だなぁ」とストレスを感じるものの、退社してプライベートの時間になれば気持ちを切り替えて、気にならなくなる人もいます。
・上司の言葉に出勤したくなくなるほどのストレスを感じ、退社後おうちに帰ってからも上司に言われたことを思い出し、プライベートタイムにもストレスを引きずる人もいます。
同じ人との関係でも、感じ方はそれぞれです。
『色んな感じ方の人がいる中で、なぜA子さんはストレスの感じかたが大きめなのには理由があるのでは?』
その理由を、カウンセリングで一緒に考えていきました。
すると、A子さんの子どもの頃の体験が、上司との関係に影を落としていたことがわかりました。
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■押し付けアレルギーの原因は子ども時代のしつけにあった
A子さんのお父様は、しつけが厳しい方だったとのことです。
「人の悪口を言ってはいけない」
「人に親切にしなさい」
「約束を守りなさい」
といったことを、子どもの頃のA子さんに繰り返し教えていました。
道徳的に一般的には良いことなのですが、その押し付け方が強く、A子さんにとってはとても苦しかったそうです。
例えば、子どもの頃、友達との関係で嫌なことがあった時にお家で話すと、
「人の悪口を言うもんじゃない」と怒られたそうです。
気持ちをわかってもらえず、頭ごなしに怒られて辛かったとのこと。
他にも、お父さんが「こうあるべきだ」と望む子ども像から外れることをすると叱られてきました。
まるで、“お父さんが望む良い子の型枠に無理やり押し込められている”感じがして、
とても窮屈で、苦しかったそうです。
このようにお父さんとの関わりで、「こうしてはいけない」「こうあるべきだ」と押し付けられ続けた経験から、『考え方を押し付けられることへのアレルギー反応』
が生まれていたことがわかりました。
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■押し付け体験を癒す:恨みの下にある「受け入れてほしかった気持ち」
そんな辛い体験があったため、A子さんはお父さんへの恨みつらみを抱えていました。
カウンセリングでさらに話していくうちに、その恨みつらみの感情の下には、
「ありのままの自分を受け入れてほしかった」
という深い悲しみがあることに気づきました。
いっぱいいっぱい話して、いっぱい泣きました。
そうやって、辛かった思い、悲しかった思いを少しずつ浄化していったのです。
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■押し付けアレルギーの改善で生きやすくなる
そうすると、カウンセリングの明くる日から、押し付けアレルギーが消えて、
上司の
「〇〇しなければいけない」
「〇〇しちゃいけない」
「〇〇すべきだ」
という言葉を聞き流せるようになり、上司と接してもストレスがすっかりなくなった……というわけではありませんでした。
いきなりまったくストレスを感じなくなるという変化ではありませんでしたが、
押し付けられることへのストレスは、ずいぶん楽になったそうです。
辛かった体験が長かったため、傷ついた気持ちの量も多く、癒していくのには少し時間がかかりました。
A子さんは押し付けアレルギーをなくしていくために、何度もカウンセリングを重ね、傷ついた気持ちを癒していきました。
「インナーチャイルドワーク」といって、子ども時代の心の傷を癒す瞑想も行いました。
癒していくたびに、押し付けアレルギーは少しずつ弱まり、
アレルギー反応によるストレスも20%減 → 40%減 → 60%減と減っていきました。
やがて、上司の押し付けるような言葉を聞いても、表面上は「はい、わかりました」と答えながら、心の中ではスルーできるようになっていったのです。
そのため、以前のように
「明日は出勤したくないなぁ……」
と思うこともなくなり、職場ライフがぐっと楽になりました。
こうして押し付けアレルギーを克服していくことで、A子さんは生きやすくなっていったのです。
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■あなたがダメなわけではない
今回のA子さんのように、押し付けアレルギーを持つ方のお話は、カウンセリングでよくお聞きします。
そして、“傷ついた気持ちを癒す”ことで、アレルギーが緩まっていく人や、なくなっていく人はたくさんいらっしゃいます。
あなたが誰かから「こうするべきだ」「こうしたほうがいいよ」と言われた時に、
それが強いストレスになっているとしたら、もしかしたら『押し付けアレルギー』があるのかもしれません。
そして、もし、
「受け流すことができない自分って心が小さいな」
「こんなことでイライラする自分ってダメだな」
と思っていたとしたら、それは思わなくていいのです。
『押し付けアレルギー』があると、心は勝手に過度なストレス反応を出してしまうものです。
あなたの心が小さいわけでも、ダメなわけでもありません。
大切なのは、押し付けアレルギーがあることに気づき、それを作っている傷ついた気持ちを癒やしていくこと。
もし『押し付けアレルギー』があるとしたら、そのアレルギーを作ったきっかけとなる出来事があるのでしょう。
その時の傷ついた気持ちを、誰かに話してみてください。
話すことで、傷ついた気持ちが浄化され、アレルギーが緩まっていくことがありますから。
何かのヒントや参考になれば幸いです。
(続)